楽観の代償
目が覚める、寝返りをうったのか見たのは天井ではなく床だった。
「痛った」
体を起こすと体の節々が痛む。体を伸ばすと、寝ている間に凝り固まった筋肉が伸びて痛みとも快感とも言える感覚がくる。十分に体は休めたのか疲労感はないし体内の魔素、霊素ともに満タンになっている。水場で顔を洗いついでに首回りの汗も流しておく。安全階層には俺一人しかいない。
そうだな。腹が減ったから飯を食うことにしよう。背囊から肉と葉っぱを取り出す。実は迷宮生活を過ごすうちに食べられる植物を見つけたのだ。環境階層では深い森林の林床に、通常階層では時たまある土の地面のところに大きな葉をつけて生えるそれは触感ではレタスやキャベツあたりに近い。そのため塩漬けされた肉の塩辛さを緩和するのに一役買っており俺の基本的な飯は肉を葉っぱで包んだものか下処理、下味何もなしの石焼きか肉を適当にぶつ切りにして突っ込んだ塩味スープくらいしかない。あまりのレパートリーの少なさに一時期の俺は飯を食えることに喜びを感じれなくなるほどだった。
取り出した葉っぱは安全階層にたどりつく直前にとったので未だみずみずしさを残している。肉と一緒に口の中に放り込むと塩気とみずみずしい葉っぱと肉の旨味が同時に出てきて、この組み合わせを発見した自分に称賛の声を送りたくなる。
食べ終わって準備を整えると遂に俺以外の声が聞こえた。
【あ、起きたの。】
「おはよう、で合ってるか?」
【ええ。思ったよりも早かったわね、もう進むの?】
「ああ、体調も良いしさっさとこの迷宮から出たいからな、食料もそう日持ちするわけでもないし供給もほぼない。餓死はまっぴらごめんだ。」
大量に詰めたように思えた食料も2日3日程度で心もとなくなった、その上長時間の進行によって体ではなく心にダメージが入り続けていた。環境階層にはいない新たな魔物との接敵や連戦はひしひしと命の危機が感じられ、精神を蝕む。
全ての荷物を確認してから安全階層の出入り口に近づく、すると自然と気が引き締まる。安全なところから出ることに不安はあるし、魔物と言えども生き物を殺すことには変わりない。特に人型の者たちは通常階層に出現し殺したのは初めてだ。嫌悪感は闘争で感じる高揚と心を守るために無視しようとする感情によって抑えられているが目を逸らすことができるのも少しの間だけだろう。
ただ、今だけは生きることを考えなければ。どんな悪感情もそれと向き合う命がなければ虚無だ。だから俺は魔物の死体を積み上げる、それでいい。
安全階層を出る。
───────────────────────
───目覚めてからここまでなんとかなっている。その事実だけが俺を支えて、足を踏み出させる。地上に出るという目標への希望を与える。だから俺は心のどこかで楽観していたんだと思う。
迷宮は俺に笑っていたのではなく俺を嗤っていた。
リアクション等していただければ作者のモチベが爆発するので、何卒何卒。




