朝は拝めず
こちらを見ている私がいる。顔や体つきは自分のものだ。服装は想像の中の魔術師を体現したような服装だ。装飾がそれなりについていることからそれなりの地位にいたのか、それとも金持ちかと断定できる。
こちらを見る表情は、複雑そうだ。自分はそんないくつもの感情を持った目に見られているとたまらなくなって目をそらし、頭を左手で掻こうとする。
目をそらすことはできたが頭を掻くことはできなかった。
俺には頭がなかった。いや、目や顔を向こうは見ているのだから、手が頭をすり抜けているのだろうか。
私は俺の混乱も気にせずこちらを見ている。それなりの時間がたつとだんだんと体の節々から痛みが出てくる。特に頭や首回り。
私はそのままどこかに消えた。
「おいてかれた…」
そのまま俺は意識が朦朧としてきて…
目を覚ました。
「はぁ、はぁ、」
夢か…。現実性のない状態を現実味のある感覚で過ごす数少ない状態を人生初経験した。途中から体が痛かったのはどうやら硬い地べたと石枕によったものらしい。
疲れは完全に取れたわけではないが致命的な眠気は取れた。外に出るか。
「起きてるかー」
銛を持つ。
【あ、起きたの。寝起きはどう?】
「万全とはいえないけど、動けはする。そっちこそ、俺より速く起きてたのか?」
【起きる寝るも何も、神に睡眠を取る必要があるとお思い?】
「まぁ…そりゃそうか。」
昨日?夜に作った石柱を銛で削って、蹴り壊し、狭い入り口を通って外に出る。ついでに『汲水』で水を飲んだ。
外に出ると日は最大まで昇らずともそれなりの高さにあり、朝という時間帯をとうの昔に過ぎ去ったことを示していた。
「寝すぎたな。」
【ええ】
地面に視点を戻すが。衝撃の事実が目に入る。蟻を倒した場所には何も残っていなかったのだ。
【これが夜の階層の恐ろしさよ。夜になればよほど強大な力を持たない限り一夜で骨までなくなるわ。】
「そんな奴が何で昼には居ないんだ?」
【昼は天敵が多いわ。数にものを言わせた捕食だから一体一体は弱い。虫を捕食対象にしてる奴からしてみれば格好の餌よ。昼にいるのは隠れ忘れた個体か空腹な奴よ。】
「そういえばあの蟻、魔物だったんだよな?」
【ええそうね。】
「魔素が流れ込んできた感覚がなかったんだが。」
【おそらくだけど、頭は死んでも体の一部は生きてたんじゃない?寝てる間完全に死んで吸収されたと思うわ。貴方の中の魔素量が大きくなってるのが分かるから。】
「そうなのか。どの位増えた?使える回数が増えたら工夫のしがいがある。」
【大体初歩魔導一回分の量ね。】
相槌を入れながら背嚢を漁るが一つのことに気付く。昼飯を食べようとしたのだが、飯がない。
「飯がねぇ。」
【結構致命的な話題が突然でてくるじゃない。】
「よく考えたら、盗……頂戴したものはあん時に全部食いきっちまった。」
【途中気になる単語出掛けたから後で聞くとして、食料は魔獣でも食べれば良いんじゃないかしら?】
「…食えるのか?」
【もちろん。信者が言うには、元の動物よりも大きいから可食部が多くていいって言ってたわ。】
「しかし何なら…」
【神法で探してみたら?】
「ぽんぽん使っていいものなのか?神法。」
【神法を使うための霊素は一日でリセットされるから、もう一回祈れば霊素を補給できるわ。】
祈ってみるとまた霊素が入り込んできた。しかも前回よりも多く、さらに輝かしく。
【貴方の信仰心が強くなったことによって手に入れられる霊素の量と質が上がったようね。
】
案外、俺は信心深いのかもしれない。じゃ、使うか。
「神法『水面覗き』」
前回よりも見える情報が増えた。前回は波のようなものでしか捉えられなかったが、今回は輪郭が分かるようになっている。これを伝えると水神は。
【濁った水面より、澄んだ水面のほうが見やすいのは当たり前でしょ?】
と言われた。
「1時の方向の岩場に蟻がいる。5時の方向の森に、兎っぽいのがいるな。」
【それ狙いで行きましょうか。】
移動するとそこには兎がいた。しかしいつもながら異常に発達した部位があった。それは後ろ足だ。兎の足相手に逞しいという言葉を使う日が来るとは思わなかった。
【どう倒すの?前回やったあの方法だと的が小さすぎるのと精度の悪さで当たらないわよ。】
銛で攻撃してもいいが、素早さの恐ろしさは人生の初戦の鼠で思い知っている。小回りの利かない長柄の銛ではインファイトではどうもできない。
しかし
「いい作戦を思いついた。」
【?】
それは…




