神
失った意識を取り戻すと体に浮力を覚える。水の中だった。慌てて水面に向かおうとする。光が上から乱反射して煌めいてる。目覚めてからまともに休めてないがそれでも全力で。
泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ泳ぐ泳ぐ泳ぐ泳ぐ
全く進めている気がしない。まるで蜃気楼のように。進んでいるはずなのに海面の輝きは一向に近づいてこない。このまま溺死してしまうのだろうか。怖い、水に沈んだ自分の姿をまざまざと想像してしまう。ここで終わるのだろうか。全く空っぽのまま。自分すら知らずに。
「まだ!逝くわけには…いか…ない!」
その時
【そう焦らない、焦らない】
水中に響くように声が聞こえる。驚天の余り開いた口から空気が漏れて銀の水泡となって浮かんでいく。先程までただの水だった地点に歪みが生じて体を成していく。やがてそれは鮫の体に蛸とクラゲが混ざり合ったような触手を生やしたような形で定まった。だんだんと色づくそれは灰色と透き通った青と宝石のような碧に彩られた。そしてそれは投げかける。
【どう?驚いt】
疑問を投げかける声を遮り『俺』は聞く。
「なんだお前は!っっいつからいたっ?!」
錯乱した『俺』は水中というのに喉の奥底から迫る恐怖混じりの叫び声をあげる。
【……驚かしすぎてしまったようね。答えてあげるから少し落ち着きなさい。】
……なんだ?恐ろしくて仕方がないはずなのに落ち着いていく。抑圧されるような感覚が薄れていき、「あれ」に対してのネガティブな感情が消えていく。自分の感情に疑問を呈したとき「あれ」は口?を開いた。
【さて、落ち着いてきたようね、さっきの疑問に答えましょう。】
どうやら、いつ頃から居たかをこたえてくれるらしい。大人しく聞こう。
【あなたを見ていたという意味だとこの神殿のある空洞に落ちたときから。存在したという意味だとこの空間にあなたの意識を持ってきたときから。】
「……」
【答えに不満がありそうね】
どうやら顔と行動に現れていたらしい。意を決して言う。
「この空間に落ちて来てから、視線、いや動物の気配を感じなかった。どこからも、」
【そういうことね、簡単な話よあなたを水を通してみてたのよ。】
「……?」
【あなたが落ちた水の中から、草についた水滴から、神殿前の噴水の鏡面から、色々な水からあなたを観ていたわ。さて、もう完全に落ち着いたようね。それじゃあ自己紹介しましょう。】
【改めまして、私は水神の名を冠する神です。】




