第476話 とりあえず答えてみた(八回目ラスト)
今日まで飾り女神の奥にある、御前立まで一般公開している女神像、
さらに本当に具合が悪ければ、奥の本体まで入れてもらえる貴重な期間、
スペシャルウィークもついにとうとう、今日までだ。
(神官ふたりが並んでいる人々に、何やら確認をしている)
「急病人は居ませんね?」
「重病人も居ませんね? では」
あーあ、飾り女神と御前立を繋ぐ厳重な扉に、
さささっと『メンテナンス中』の札が掛けられて閉じられちゃった、
ていうかクルケさんイデーヨさんは外か、こちら側、中に居るのは正妻側室愛人準愛人、そして……
「アンナちゃんはベルベットの部屋で、あそびまーーー!!」
「うん、行くー! ……わわわっ、浮いてる、とんでるうっ!!」
あーあ、空中に引き上げて行っちゃった、
大人の話だからね、子供は子供で遊んでいて欲しい、
これはひょっとして、事前にベルルちゃんが何か言ったのかも。
「さあミストくん、とりあえず」
「最後のチャンスですわ、当てて下さいませ」
「うん、これ、ひょっとしてすでに言ってる可能性もあるけど、憶えてないから……」
ソフィーさんベルルちゃん以外にも、
リア先生とかアメリア先生とか色々相談して、
それで否定された話もあったはずだけど、すっかり忘れてしまっている。
(ていうかもう引き出しが、無い)
まあいっか、どうせ僕だし。
「さあミスト、覚悟を決めて当ててくれ」
「はいリア先生、あっアメリア先生、お加減は大丈夫ですか」
「ええ、ここに入ると身体が軽いわ、それよりミスト殿」
みんなの視線が僕に集まる、
ここは御前立を背にして……よし、言おう!
「ではっ……!!」
呼吸を整えて、
意を決して……よしっ!!
「ソフィーさんとベルルちゃんが僕を好きな、一番の、真の理由は……!!」
「はい、それは?」「その理由は、何ですの?!」
「それは、それはですね、なっ、なななんと、僕は……僕はっっ!!」
ソフィーさんの目を見て、発表する!!
「超、大器晩成なのですっ!!」
(そう、陛下が言っていた『百年後』とかに僕は、完成するんだ!!)
ぽかーんとするソフィーさん、あとベルルちゃんも。
ここは、もうちょっと説明が必要かな?
「僕って実は、今は冴えないダメ貴族だけれども、
早ければ八十二歳とか、八十四歳とか、九十六歳とかに、
実は物凄い力を発揮したり、物凄くかっこいい男になったりするのでは!!」
うん、ソフィーさんベルルちゃんは止まったままだ、
他の奥様方は、怖くて見れない! だから言葉を続けよう。
「ほら、ソフィーさんベルルちゃんって、その魔力だからきっと二百歳以上は生きるよね?
僕もふたりの魔力の繋ぎ役だから同じくらい生きるとするじゃない、そうなると、
百歳ってまだ人生の半分って事になるからさ、残りの百年以上を、最高な、ぼ、く、と……」
しまった、両手で顔を覆ってうな垂れるリア先生が視界に入っちゃった!!
「ミストくん」「ミスト様」「はいっ!!」
果たして、ジャッジは?!
「では、私たちの正体は?」
「ええっと……気が長い、人?」
「不正解です!」「残念ですわ」
やっぱり違ったあああああああ!!!
「ごっ、ごめんなさい」
「もう、他にはありませんか?」
「ありましたら言ってもよろしいですわ?」
チャンスおかわりが来た!
(でも、何も考えてないっ!!)
「ええっと、えとえと、あっ、悪魔と天使のハイブリッド!」
「人間ですよ?」「前もそう申しましたわ?」
「だから、悪魔と天使が結婚して子を産むと、普通の人間が生まれるとか」
うん、このふたりの表情だと、違うねっ!!
(あーあ、ソフィーさんが大きなため息をついている)
「ミストくん、とうとう最後まで、当てて貰えませんでした」
「という事でミスト様は結婚後、今後一生、わたくしどもに絶対服従ですわ?」
「あっはい、それは、もう」
(……それ、当てても当てなくても、そうなると思うゾ!)
僕は真後ろの、御前立の女神像を見上げる。
(結局、答えは何だったんだ……)
視線を前に戻し、
ふとリア先生を見ると、物凄く心配そうな表情だ。
「ではミストくん、もう良いですよね?」
「ついに、とうとう、答えを言ってしまいますわ?」
(運命の瞬間、来たる、か)
……なんだか急に怖くなってきた、
僕の頭の中でリア先生の例の言葉が思い出させる。
『なんだそんなことか、と笑って済ませるかもしれない、
だが血の涙を流しながら発狂するかも知れない、どうなるかわからない』
もし、もし答えを聞いて、僕が発狂でもしたら……!!
(新婚旅行が、台無しになっちゃううう!!!)
「それでは行きます」
「お覚悟はよろしくて、ですわ?」
ううう、ど、どうしよう、
覚悟できてない、こ、怖いっ!
ぼっ、僕は、僕はあああああ!!
「「私達の正体は、実は……」」
駄目だあああああああああ!!!
「ちょ、ちょっと待って!!」
両手を前に出して止める僕!!
「……ミストくん?」
「ミスト様?!」
「あ、あの……第三の選択肢を、使います」
そう、リア先生が言っていたやつだ……多分。
「それは何でしょう」
「何を使われると?」
「は、はい、それは、それは……」
(勇気を出して、言おう!!!)
果たして、だめ貴族の選択とはいったい……?!
ミスト!!




