第21話 後始末のはじまり
「ご苦労であったアリー、メリー、でいいのだな?」
「「はっ」」
ミストの学院での剣術教師だった王国騎士団の副団長リア=アベルクスが、
無表情なメイド二人を前に礼を言った、ここはチュニビッフィ伯爵邸の当主アーサーの隠し部屋、
お楽しみ部屋でもあったようでそのベッドの上に麻薬草や違法奴隷の取引帳簿を次々と乗せる。
「これだけ抑えれば言い逃れはできまい」
「この街、カジーラの冒険者ギルドも絡んでいるようです」
「すでにそちらに関しても本部からの調査員が先ほど入っているようです」
片膝ついて報告する二人のメイド……
そこへやってきたソフィー、顔についた血を落とし服を軽く着替えてきたようだ。
「ソフィー、少しは気が晴れたか?」
「いえ、ミスト様の悪口を言われると当分気が治まりません」
「そのミストとはもう慣れたか?」
「慣れたと申しますか、今の所は予定通りに……ミストくんと呼ばせていただいています」
「頬を染めるな!ともかくこれからが大変だ、この街はまだ小さいから良いが……それで件の少女は」
その問いに一気に表情が暗くなるソフィー。
「悲惨の一言ですね、すでにこちらのお二人から情報をいただいていた通りでした」
「アリー、メリー、いつからだ」
「はっ、私たちがスパイとして潜り込んだ一年半前にはすでに地下牢でボロボロでした」
「ミスト=ポークレットが村に帰ったタイミングで、早ければその日のうちに死ぬような状態で返却する予定だったようです」
「鬼畜のごとくな所業だな、ソフィー、治せそうか」
難しい表情で考え込むソフィー。
「身体に関しては例の方法でどうにでもなりますが、心があまりにも壊れすぎていて……」
「ミストを憎むように徹底的に洗脳されていたようだな、アリーとメリーが上手く薬でもたせてくれていたようだが」
「はい、少なくとも死ぬことだけは避けるように薬を飲ませてはいました」
「ただ、あまり治し過ぎると不審に思われるといけないので、チュニビッフィ家の者は気付かなくてもアリアのメイドが」
「ああ、一番勘が良いとか事前の報告書にも書いてあったな、アリアと一緒に拘束したようだが奴の口を割らせるのは大変そうか」
首を左右に振るアリーとメリー。
「私たちが一番気を使っていたのは彼女にばれる事でした」
「でも幸いな事に、彼女はアリア専門の付きメイドでしたから」
「……その分だと直接の情報聴収は難しそうか」
「いえ、そこはうまく『アリアお嬢様のため』という方向に持って行けば良いかと」
「当主よりもアリアのためなら何でもするような方でした、同時に何をするかわからなくもあります」
とそこへひとりの兵士が入ってきてリアに耳打ちする。
「……そうかご苦労」
「どうしました?」
「ソフィー済まない、ひとり取り逃がしたようだ、一番やっかいな相手だ」
「長女ですか」
「ああ、ミリッサ=チュニビッフィ、凄腕のアサシンだ、逃げようとしたり裏切った者を暗殺する係だ」
読んでいた書類を置き、扉へ向かう。
「後始末をしてくる、最悪、最終防波堤があるとはいえ、その前に済ませてこよう、ソフィーは二人とともにこちらを頼む」
「もうすぐ雨のようですから、お気を付けください」
「ああ、今からなら早馬を多少無理すれば追いつけるだろう、こういう時のために訓練を積んでいたからな」
「リア様、南西の細道に崖を下れるルートがあります」
「その先の滝の横にも急な斜面ですが近道が、これはチュニビッフィ家も知らない情報です」
「わかった二人ともご苦労、では」
急いで伯爵邸を後にし馬に乗って駆けて行ったリア……
やがて雷鳴とどろき、雨が降り始めたのだった。
(できればフォレチトンに着く前に潰したいが……)
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その頃、フォレチトンでは落ちる雨粒を窓から見る少女の姿があった。
「ふぁぁあ、眠いですわあ、夜更かしもひとりでは退屈ですわ」
「ZZZzzz……」
「ミスト様も朝まで付き合っていただきたかったのに早々に疲れ果ててしまわれて……」
眠るミストのほっぺたをむにむにするベルル。
「んん……だめだよソフィーさん、それ食べるとユニコーンになっちゃうよ……」
「どんな夢を見てらっしゃるのかしら、なかなか面白い方ですわ……ふふっ」
やがて外の雨は激しさを増し、豪雨になるのだった……。
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ソフィーが連れ去られた山道を、今度は逆にカジーラからフォレチトンへ向かう漆黒の馬がいた、
そこに乗る黒い服の女性、悪天候にもかかわらず見事な手綱さばきで走らせていると、
少し開けた場所で動きを止める、目の前に居たのは馬を置いて立つ白い装備の女騎士。
「久しぶりだな、ミリッサ、学院以来か?」
「……リア先輩、屋敷に居たのでは」
「お前すら知らない近道で追いついた、狙いはポークレット家か」
ミリッサも馬を降りて構える。
「……貴女を無視して行く事もできる、でも、でも私は貴女と戦ってみたかった、真剣に、命を賭けて」
「いいのか、アサシンの役割、暗殺を成し遂げるには今は私など放って馬で突破すべきだっただろう」
「リア先輩がここに居るということはもうすでに手を打ってあるのでしょう、ならば私は私を優先したい」
「そうか、ある意味観念したのだな、わかった、では勝負といこう」
「学院では一度も勝てなかった、でも、でも今なら……最悪、相討ちでも!」
激しい雨、雷が鳴り響き暗雲を照らした瞬間、
リアのクリスタルソードとミリッサのアサシンソードが交わり……
そして、互いがすれ違った直後、勝負は決した……
ドサッ、と崩れ落ちたのは……ミリッサだった。
「弱い……ミリッサも……そして私も……」
片膝付くリア、脇腹からは血が流れている、
何とか踏ん張りながら気を失っているミリッサを縛り、
担いで自分の乗ってきた馬の後ろに乗せ、
ゆっくりとカジーラへ戻って行ったのであった。
「あぁ……伯母上……もうすぐ、もうすぐです……必ず……助かりますから……」
そう呟いたリアの目から流れたのは、雨なのか涙なのか……。




