9話 竜骨
無事に襲撃者の女と和解し、その死を回避したキョウヤは襲撃者に付けられた拘束を解いた。解放された女性はソファから降りてキョウヤと向かいあうように座った。
「今回は勘違いで襲ったりして本当にごめんなさい」
目の前に座った女性、というよりはキョウヤと同じくらいの年齢である少女は謝罪の意を示しつつ自身の身の上を明かした。
彼女は「祓士」といういわゆるゴーストバスターに近いことを事務所として請け負っているらしい。明らかに学校の冬服姿である点については疑問が残ったが、それは一旦おいてキョウヤは相手の言葉に返した。
「とりあえずこの状況についても説明してもらえますか?…敬語はいらないので」
机の上に置かれていた短剣を手に取ってから祓士はキョウヤが巻き込まれた事態について説明を始めた。
短剣は彼女によると「竜骨」と呼ばれているらしい。竜骨とは本来船舶の背骨の役割をこなす、船底に敷かれる構造材のことである。これが船底に敷かれることにより船舶は一定の強度を保つことができる。なんで武器の名称に使われているのだろうか?
「これは強い力を持った呪物で少し前からこの地域を怪異から防衛する目的で使われていた。…でも最近問題が起きたの、運用中のこれが悪霊に奪われてしまった。そこで近場の私に回収依頼が回ってきた」
つまりもともと防衛兵器として用いられていたこの短剣がガ〇ダムよろしく敵に奪われてしまったということであったらしい。
「逃げ出した悪霊を捕まえようと結界…網を張ったのだけどそれに巻き込まれたあなたを犯人と勘違いしたの」
犯人というのは十中八九あの狼のことであろう。この祓士に追い込まれた狼はあの異界に逃げ込み、そこにちょうど自分たちがやってきてしまったのだ。
鏡の中にいる同居人よりは専門的な部分でわかりやすい説明に感服しつつ、彼は本題を口にする。
「つまりこの「竜骨」?を回収するのがあなたの目的って認識で良い?」
彼女は首を縦に振って、それを肯定する。ならばと、キョウヤはもっとも聞きたかった部分についての質問をした。
「つまりこの竜骨を渡せば元の世界に帰れるってこと?」
これについても、彼女は首を縦に振るのだった。
つまり目の前の祓士に短剣をそのまま持ち帰ってもらえば彼らは晴れてもとの世界に戻れる。しかし竜骨を渡すという部分に悪霊は苦言を呈した。
『待て。それはオレ達にとっても有用な代物だ。持ち帰られては困る』
それはキョウヤ達の事情だけを考えれば確かにその通りであった。
襲撃前の会話から考えれば、キョウヤは今後神社で出会った狼のような怪物と戦う可能性を考慮しないといけない。キョウヤの鏡像は自身の力の宿る結晶を他の悪霊が持っていると語っていた。そして今回狼が竜骨を奪ったという話を加味すると、悪霊達は力のあるものを収集しようとする習性があるという予想が立った。
そしてそう言った力のあるものの一つであるだろう結晶は今彼らの手にある。悪霊がこれを手放すことに同意しないならば彼は今後これを狙う怪物に狙われる可能性があった。そう考えたときに他の悪霊と争うときに大戦力となってくれる竜骨は確かに惜しかった。
しかしそうなるとせっかく和解した祓士と再び対立することは避けられない。それだけはあってはならない…
「もう一つ質問していいかな?さっき回収を「依頼」だと言ったけど、それって誰からの依頼なの?」
その言葉を聞いた祓士の眼つきに警戒の色があらわれる。職業人が顧客の情報を聞かれたら相手を警戒するのは当然のことだろう。だがそれに構わずキョウヤは言葉を続ける。
「神社の中で怪物に襲われた時に助けてくれた人がいてさ。だから依頼者がその人の関係者ならお礼が言いたいんだ」
彼が語ったこと自体はあくまでも打算によるものだったが言葉に嘘はなかった。竜面の正体はいまだに不明であったが竜骨はあの時確かに異界脱出の助けとなっていた。
その言葉に祓士は少し困ったように眉をしかめるが、やがて少し申し訳なさそうにその問いに答えた。
「依頼者の詳細は守秘義務があるの。でも必ずお礼はこちらから伝えておくから」
キョウヤはその言葉に軽くうなずく。大体は予想通りの反応であったが、ゆえにそれは効率よく依頼者の存在を鏡像に印象づけた。
『よくわからん奴を敵に回すのはマズいか』
悪霊は舌打ちをするが竜骨のことについてはあきらめる。これで今度こそ本当の意味で脱出のための要素がすべて整った。
竜骨を手に取った祓士の少女はすっと立ち上がる。祓士はキョウヤに短剣を持って行っていいのか同意を求めてきた。キョウヤがそれに首を縦に振ると、彼女は玄関へ向かって歩き出そうとした。
だが、ここで割れた窓からまたすさまじい速さで何かが侵入してきた。まず背後を見せていた祓士を引き倒し、その手から竜骨を奪うと、続いてキョウヤから結晶をも奪う。
そこにいたのはかなり小さくなっているがあの狼だった。奪ったものを飲み込むと、小さい狼は素早くどこかに消えていった。
怪物が消えた後、祓士は途方に暮れたような声でつぶやく。
「うそ、取られちゃった…」
対するキョウヤ達だが、こちらもかなりまずい状況に巻き込まれていた。悪霊の探し物である結晶を取られてしまったなら悪霊は必ずあの結晶を取り返そうとする。つまり、再びあの狼と対決する必要性が出てきたのだ。
キョウヤもまた途方に暮れたように上を見上げるが、ふと胸のあたりに温かいものを感じる。見てみると、胸のあたりから神社で見たような色の光のラインが狼の逃げた方向へ向けて伸びていた。
それは祓士の方にも見えていたらしく、驚いた顔で彼の方に接近してきた。
「あなた竜骨との間に縁ができてるじゃない!」
つまり自分は今竜骨の探知機になっていて、この光の帯であの狼を追えるということらしいとキョウヤは理解する。祓士は胸のラインから彼の方に視線を移して頭を下げてきた。
「お願い、竜骨を取り戻すためにどうしてもあなたが必要なの。後で協力金は支払うから協力してくれない?」
仮に目の前の祓士がいなかったとしてもキョウヤはあの怪物を追わないといけない。そしてここで協力要請を受ければ味方ができる。協力を断る理由は存在しなかった。
ここに、悪霊と悪霊祓いによる共同戦線が敷かれたのであった。
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今後も二人の物語をぽつぽつと上げていきたいと思いますのでよろしければこの物語の感想・評価の方をぜひともよろしくお願いします。
※次回は4/6の12:00頃に投稿しようと思います。ぜひとも読みにいらしてください!




