6話 異界探索②
キョウヤは怪物が待ち構える拝殿を目指して神社の参道をゆっくりと進んでいく。神社の中心から発せられる光は、施設の中心に近づくにつれてより明るくなっていった。
階段を上って拝殿の入り口に立つ。施設の内外は発光こそしているが神社としてはおよそ一般的な装いの開き戸によって仕切られていた。
開き戸に近づき、取手に手をかける。少し手を動かしてみるが、扉は特に何かロックがかかっているような様子もなく、普通に開きそうであった。
以上のことを確認したキョウヤは小さな声で悪霊に語り掛ける。
鳥居での会話から、悪霊がこの異界の内に二体いることが判明していた。その対処法を彼は悪霊に事前に聞いておきたかったのだ。
問いかけられた悪霊はその質問に少し考えこんでから答える。
『いや、向こうにいるヤツはそこまで警戒しなくていい。少なくとも敵意があるのは一体だけらしい』
続けて悪霊はキョウヤの右手を動かし、その手に握らせていたペットボトルを彼の目の前に持ち上げさせる。
『賭けにはなるがこいつで敵対している方を倒す』
そういうと悪霊は彼の手首をクイクイと動かす。悪霊が事前にペットボトルを持っていたのはどうやら対抗手段を得るためであったらしい。
『さっきの「強化」は現実の延長だが、今度は全く別の力を使えるようになる』
突然降って湧いた新たな力に少年は場違いだが内心わくわくとした感情を覚えた。
『だからこれはオレが管理しておく』
ひとしきり納得したキョウヤは取っ手に手をかける。悪霊のGOサインの元、彼はその扉をゆっくりと開いた。
拝殿の中は建物自体のサイズにしてはずいぶんと小さく感じられ、いかにもといった装いだった。荘厳な装いの壇の上には、手持ちの懐中電灯程度のサイズの何かが布で覆われて安置されていた。
そして壇の横には、神職の服を着て、竜の仮面をかぶった人型の存在が立っていた。
『もう一体の方だ。本当に敵意がないのかだけ確かめろ』
悪霊の無茶ぶりに辟易しつつ、キョウヤはとりあえずと会釈であいさつを試みる。すると目の前の竜面はそれにこたえるようにお辞儀を返してきた。
敵意はないらしいとキョウヤは判断し、次は言葉による対話を試みた。
「えーと、こんにちは? お邪魔しています」
それに竜面は言葉を返すことはなかったが、かわりに手を動かしてキョウヤに壇の前へと来るように促した。
『接近しろ』
悪霊の言葉を受けてキョウヤは拝殿の内部を進み、壇の前に立つ。すると竜面は壇上に遭った何かを手に取り、それを覆っていた布をはがしていく。はがされた布をよく見ると、その表面にはびっしりと文様のようなものが描かれていた。
そのうちすべての覆い布がはがされ、現れたそれは古びた両刃の短剣であるようだった。その短剣を持った竜面は、キョウヤの前に立つとそれをキョウヤに差し出してきた。どうやら竜面はキョウヤにそれを渡したいらしい。
キョウヤは慌ててペットボトルを地面に置こうとするが、竜面はそれを制止して何も持っていなかったキョウヤの左手にそれを握らせた。
最後に深くお辞儀をしたきり、竜面はすっと塵のようになってその場から消えてしまった。キョウヤは何となく、その一連の行動に「これを守ってくれ」という意思を感じとっていた。
短剣を見つめるキョウヤの内側に、自販機の時と同じひりつきがあらわれた。
『来たぞ、後ろだ』
後ろを見ると、拝殿の入口のところに4足歩行の化け物が立っていた。しかし今度は黒い霧状ではなく全体的に白い体毛に覆われた体長2mほど、高さは1.2mくらいの狼だった。その体からは黒い霧のようなものが漏れており、明らかに一般的な生物からはかけ離れていた。
狼の方へ振り向くとすぐに右手からペットボトルが手放される。悪霊は続けて右足で思い切りそれを踏みつけた。
そうしてペットボトルの中にあった水が入口の方へと巻かれ、水面に水の鏡ができるとすぐに左手に持っていた短剣が逆手に握りなおされた。
『いいか、基本戦術は「待ち」だ。ありがたいことにコイツが力になってくれるらしい』
短剣からは鈍く神社と同じ色の光が漏れていた。
キョウヤは悪霊の言葉に小さく首を縦に振り、悪霊により力を込められた右手に重ねて力を込めた。
狼は姿勢を低く構えると、全身のばねで力を込めて一気にキョウヤの首筋めがけて突っ込んできた。
しかし、キョウヤの眼にはその動きはひどくスローなものに映る。悪霊による「強化」がその視力にも乗ったように感じられる。
そのまま接近してくるスローモーションな怪物の頭部に対して開かれた状態で右手が差し出される。やがてその手と怪物の頭部が接触すると怪物の頭部を思い切りつかんだ。
遅れて、木材の破裂音と突進の衝撃が彼の身に届く。それを何とか踏ん張って抑え込むと、キョウヤは怪物の頭部を握った右手にさらに力を込めた。突進の衝撃からまだ抜け出せていないのか、怪物による特段の抵抗はなかった。
床に広がった水面に二体の怪物の姿がそろった。
キョウヤは自身の体から、悪霊の姿を形成していたものと同じ、赤黒いノイズが湧きたつのを目撃する。するとすぐに、彼はその全身に力がみなぎるのを感じ取った。
敵を掴んだ右手はそのままに、左手がアッパーの準備のように大きく引き込まれ、ノイズの湧き出し方が一気に強まった。
顔をつかまれた怪物は抜け出そうとしているようだが、顔以外も目に見えない何かにつかまれているように一切身動きが取れなくなっていた。
身動きのできない怪物の脇腹めがけて左手が打ちだされる。そのまま脇腹に攻撃が命中した狼は風船のように膨らみ、弾け飛び、やがて黒い霧をまき散らしながら空中にその姿を溶かしていった。
立ち尽くしているキョウヤの足元に、何かがぶつかった。彼はそれを右手で持ち上げて確認するとそれは白く濁った結晶だった。どうやらあの狼が落としたものであるらしい。彼の内の悪霊からは喜びのような、衝撃のような感覚が伝わってきていた。
キョウヤが結晶をさらによく確認しようとするがふいに視界が暗転した。
次に目を開けたとき、彼の目に明るい陽射しが飛び込んできた。上の方を見ると、12時の天頂に坐した太陽があった。そうして彼らは異界からの脱出に成功したのだった。
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今後も二人の物語をぽつぽつと上げていきたいと思いますのでよろしければこの物語の感想・評価の方をぜひともよろしくお願いします。




