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悪霊の悪霊討伐記録  作者: 六道おさんぽ勢
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4話 異世界さんぽ②

 雨上がりの住宅街の中をキョウヤはゆっくりと歩いていく。

 2か月前に事故に遭った彼の体はリハビリと同居人の力によって十分以上に回復していたらしく、歩き・走る程度であるならばもう以前ともそう変わらなかった。

 

彼にとってその町並みは実に2か月ぶりであるのだが、彼の目に映るのはそれ以上に全く持って知らない世界であった。


住宅街のいたるところからは小さな生物?の鳴らすカラカラという音が響いていた。彼の住んでいる周辺はどうやらその生物たちの住処でもあるらしい。

4足歩行のもの、小人のようなもの、足のついた植物のようなものなどがどこそこの角に集まってみんなでカラカラとしているようだった。

「こいつらはなんだ?」


キョウヤの頭の内に声が響いた。


『これらは基本的に無害なただの「幽霊」だ。オレがいっているのはこういう存在ではない』

 

キョウヤはおびえるカラカラ達に手を合わせ、謝意を表すとその場を立ち去っていった。


 住宅街の境界線に差し掛かると、あるブロック塀の隙間からは何やらよくわからないものの腕らしきものが伸びて、手招きするようにその細い腕を振るっていた。

 試しに近くにあった小石を腕の真下の道路に置くと、腕は小石をゆっくりと拾い上げてその暗闇の中に取り込む。

 しかしその小石は暗闇の向こうの存在の求めていたものではなかったのか、すぐにキョウヤめがけて小石が投げ返されてきた。

 悪いことをしたような気分になった彼は財布から5円玉を取り出してもう一度隙間の前に置く。

するとまた暗闇の向こうから腕が伸びてきて、今度は乱暴に5円玉を取り込んだ。

 今度の贈り物は気に入ったのか、小さくいろいろな笑い声の組み合わさったような声がしたきり5円玉が投げ返されることはなかった。


 キョウヤは住宅街を抜けて、大通りへと差し掛かると交差点の前に立つ。

 彼の進行方向の信号は差し掛かった時にちょうど赤信号になる。青信号になるのを待っていると向かいに杖をついた老人がいることに気が付いた。

 その老人は車道から車が来ているのにも関わらず、赤信号を特に気にする様子もなく横断歩道へと踏み出した。

慌てて老人を制止しようとする彼を、どこからか響く悪霊の声が抑える。


『待て、止めようとしなくていい』


 老人と走行する車はそのまま重なってしまうが、老人は気が付いていないのかそのまま走り去っていった。老人は横断歩道を渡りきると、フッとその姿を消してしまった。すぐに信号は青に変わる。横断歩道を渡りながらキョウヤは悪霊に問いかけた。


「あれも幽霊なのか?」


『まあそんなところだ。下に影があるかどうかで判別するといい』


 キョウヤが渡りきるとちょうど信号が赤に変わる。ふと横を見るとそこには先ほどと同じ風体をした老人が再び立っていた。

 驚いたキョウヤがその場で固まっていると、老人は再び赤信号へと繰り出す。そして横断歩道の中腹へと差し掛かるとまた車をすり抜ける。

 すり抜けた車をよく見ると、それは先ほどと同じ青い塗装の普通自動車であった。下を見るとそこには本来あるはずの影がなく、光がすり抜けているように車体下部は明るくなっていた。

「…車も幽霊だったのか」

一段と奇妙な気持ちになったキョウヤはそのまま向こうに見える護岸へと歩いて向かっていった。


 河川敷の近くに到着したキョウヤは、目の前にそり立つ護岸に目をやる。階段を上ればいつもはサッカー部の練習場所と化している河川敷が見えるはずだ。

 そう思って階段を登ろうと川に沿って設置された道へと出て行ったとき、彼はある「異変」に気が付く。

 それは護岸の上へと続く階段の隣に置かれていた自販機にまつわることであった。その自販機はなんてこともない、いたってありきたりな高さ2mほどの自販機である。河川敷を利用する付近の住民からは水分確保のために大変重宝されているものだった。


 彼が目にしたとき、その自販機は側面が何か大きな動物にでもぶつかられたように大きくへこんでいた。ディスプレイは粉々に割れ、中からは機械部品が飛び出していた。

 しかもそのへこみは自販機の下の方にあるのではなく、まるで何かに上から降られたようになっていた。

 下を見ると中の構造がゆがんだためか、中からミネラルウォーターのボトルが飛び出しており、それらは倒れたままに道の傾きや歪みに沿ってコロコロと転がっていた。一つはこちらに転がってきて、キョウヤの足に当たった。

 

 ここまでですでに3つほどの怪異と出くわしていたキョウヤだが、これまでとは全く性質の異なる怪異に愕然とする。

 これまでに出くわした怪異はおおむね彼のもつ現実という観念に踏み込んでくるようなものではなかった。

 しかし今目の前に現れた異常な光景は彼の日常風景の一つを破壊してその現実に浸食してくるような代物であった。


 ふと、キョウヤの視線はぐいと持ち上げられ、自販機のあたりに固定された。悪霊が操っているらしい。


『見ろ、まずいことになった』


自販機をよく見ると、その裏手の方から何やら黒い霧のようなものがあふれ出してきていた。

それは自販機の左側へとだんだん収束していき、やがてくろい、4足歩行の生物をかたどった黒煙の塊へと変じた。


悪霊が本気で警戒しているのか、キョウヤの内のひりつきは一気に募っていく


『いいか、合図をしたら全力で逃げろ。うまく行けばそれで巻ける』


ひりつきはいまやピークに達しようとしていた。左手は勝手に動き、足元のペットボトルを持ち上げる。


「おい、倒すんじゃなかったのか?」


『…少なくとも、オレは死なないやり方でな』


冗談じゃない。そう言いかけたとき、目の前の怪物は姿勢を低く構えてとびかかる態勢をとった。

来る。そう思った。何かを悪霊は叫ぼうとする。

しかしすべてがほんの一手遅かった。怪物は瞬きをする間ほどの一瞬にはもう目の前までやってきてしまっていたのだ。

悪霊が動かしたのだろう、体は猛烈な勢いで180°ターンをかけるが結局襲い掛かる怪物を構成する黒煙に取り込まれてしまった。


次に目を開けたとき、キョウヤの目にまず飛び込んできたのは巨大な鳥居であった。周囲はほの暗く、明らかに先ほどまでとは全く別の場所らしい。


『…「異界」に取り込まれてしまった』


淡々と状況の説明を試みようとする悪霊だが、その声色には「やってしまった」という雰囲気が多分に含まれている。

どうやら本気でまずいことになったらしい。ここまでどこか浮世離れした感覚にとらわれていたキョウヤは、そう感じるとすっと背中に寒気がするのを覚えるのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

今後も二人の物語をぽつぽつと上げていきたいと思いますのでよろしければこの物語の感想・評価の方をぜひともよろしくお願いします。

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