12話 悪霊vs悪霊①
昼過ぎの河川敷にて二体の悪霊は互いに見合っていた。
一方は一人の少年と共生し、今しがたその肉体を奪って顕れた鏡の中の悪霊。その手には今しがた手に入れた柄のない小太刀が握られていた。
もう一方は強大な力を持つ呪物たる竜骨と鏡の中の悪霊の力を奪い取り顕れた黒煙の悪霊。その人狼のような姿から噴き出る黒煙の量は制御を失っているように見えるほど膨大なものとなっていた。
肉体を奪われた少年に、今しがた自身の肉体を奪った同居人の声が響く。
『うまく合わせろ。でないとお前も死ぬぞ?』
そう自身の内に閉じ込めた同居人に告げると、少年の体を奪った悪霊は手に持った小太刀を逆手に構えてそれを自身の後ろに隠すように動かした。
後ろ手にもった小太刀の刃の角度を調整すると、その刀身に二体の悪霊の姿が写りこんだ。
その直後悪霊が奪った肉体から大量の赤黒いノイズが吹き出すと、赤黒い雷を放ちながら突撃する。対する人狼の背後にはまた空間の歪みが現れ、空間を埋め尽くすように大量の刀剣が出来上がる。
人狼は精製した大量の刀剣を悪霊に対して射出する。
それらのほとんどは突撃してくるノイズに直撃するコースであった。しかし当たる前に雷を受けるとそれらはすべてほどけるようにして砕け散っていった。
そうして人狼へと突撃していった悪霊だったが攻撃の直前、再び空間が揺らぐ。そこから現れたのは先ほどの槌だった。
悪霊は槌に対して雷を浴びせるが、それはほどけずに下から殴り上げるように少年の肉体の頭部をとらえた。内にとらわれた少年にも意識をえぐるような鈍い痛みが響く。
のけぞった悪霊はそのまま後ろに下がるが頭部は出血してそこから雷があふれ、傷を修復する最中であった。
悪霊はそのまま下がるが異変に気付く。人狼が先に射出した刀剣であったが、一部は軌道をはずれて道に突き刺さっていた。そして突き刺さったそれらからは本体から出ているのと同じ黒煙が立ち上っていたのだ。
悪霊がその煙の中に足を踏み入れた時、周辺の煙は少年の肉体を囲むようにして集まると、四方八方で刀剣を形成して一斉に襲い掛かった。
悪霊は全身から雷を放ってそれらを粉砕する。しかし、人狼がさらに用意した追加の刀剣が黒煙の結界の外から同時に襲い掛かった。
悪霊は刀を前に構えると、飛来する刀剣の大群をその刀身に映す。すると、剣からノイズが吹き出し、弾き飛ばされた。
だが一部は弾き飛ばされずにそのまま飛来してくる。悪霊はそれらを刀で受けようとするが、体が外から押さえつけられたように動かない。
それでも強引に体を動かして迎撃するが、何本かはその体を掠め、しかしその体に異様に深い切り傷を与えた。
『クッソォ!』
全身から雷をほとばしらせて周囲に刺さった刀剣と黒煙をすべて消し去る。流血は収まらぬが何とか窮地を脱した悪霊であったが状況はいまだ致命的な劣勢のままだった。
周囲一帯を覆う黒煙はいまだその範囲と濃度を増すばかりであり、その最奥にいる人狼はいまだ無傷のまま悠然とそこに立っていた。
悪霊は何とか体を修復しようとしていたが、その顔には明らかな焦りがにじみだしていた。回復こそ追い付いていたが、着ている衣服には大きな切れ目が残る。攻撃手段のすべてを槌により封じられ、防御能力のすべては圧倒的な手数で上回られ、その上ある明確な終わりも近づこうとしていた。
「おい」
焦燥の募る悪霊の意識内に、同居人の声がこだました。その声に悪霊は作り笑いをすると努めて穏やかで自嘲的な口調で答えた。
『ああ、逃げたいっていうんなら残念だったな。ちょっと遅すぎた』
そのせせら笑う声に同居人はいたって真面目な口調で要件を告げる。
「お前の目的に付き合うかどうかって話、まだしてなかったよな」
その言葉に悪霊は押し黙ると、その言葉の続きを待った。
戦いの中、まともな状態なら一撃で気絶するような痛みを受けキョウヤの思考は逆にクリアになっていた。恐怖の抜けてしまった心でここまでのことを振り返る。
その心に思い返されていたのは自宅での出来事であった。
異常は彼の現実を浸食し、それを壊してしまう。だが彼にとって、実はそれはどうでもよかった。なぜなら彼にとってそういった出来事は今よりもっと前から始まっていたのだから。
しかし異常は彼の家をも襲った。今回はたまたま家も世界も偽物であったからよかった。だれもいないからよかった。
しかし、もしもそうでないときにそれが起きたとしたら?
巻き込まれた原因には間違いなくそう言った世界とのかかわりを持つ自分自身も含まれるだろう。もし彼が異常の中にいるばかりに家族に危害が及んだとしたなら、彼は彼自身を許せない。
しかし自分を襲う異常の正体は今や怪物に成り代わられた自分自身である。つまり家族を異常に巻き込まないためには己の内の宿業を果たすほかに道はないのだ。
「OKだ。だからまずは体を返してくれ、俺は右利きだ」
その言葉に、奪われた肉体はニタァッとほほ笑んだ。
『ああそうか。道理で動きが悪いと思った』
するとキョウヤの感覚は引き戻され、彼の肉体は再び彼の意思に従うようになっていた。
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今後も二人の物語をぽつぽつと上げていきたいと思いますのでよろしければこの物語の感想・評価の方をぜひともよろしくお願いします。
※次回は4/7の6時に投稿します!




