10話 対決!共同戦線vs人狼
竜骨と結晶を奪われ、それをとり返すために一時共同戦線を張ることとなったキョウヤ達と祓士は狼との対決のために下準備を進めていた。
祓士はリビングのテーブルに数種の異なる文様が描かれた札を並べると一つ一つを点検するように手に取り、何かを唱え始めた。
そのころキョウヤはリビングに併設されたキッチンに行き、コップで水を飲むふりをしてわずかに揺れる悪霊とのブリーフィングを行っていた。
また戦闘になるということで不安を感じたキョウヤは悪霊に対し小さい声で今後の方針を問う。悪霊は祓士との共同戦線についてはおおむね賛成であったが、その中での行動については一つ指示を飛ばした。
『前にはでるなよ』
キョウヤがその意図を問うと、悪霊は彼に対していくつかの理由を提示してきた。
『一つはお前が大きい傷を負ってオレが回復をしないといけなくなった場合、それを見られてオレの存在がばれる可能性がある。あと、こちらが結晶を回収するためにはある程度あの女に疲弊しておいてもらう必要があるからな』
一つ目の理由については記憶喪失の状態とは言えここまでを考えたら悪霊の方が詳しいだろうとキョウヤは素直に同意する。だが二つ目の理由の意図について説明を求めると悪霊はそれを語り始めた。
『あの女が狼を倒したらすぐにこちらで物の回収に向かうためだ』
つまりキョウヤが祓士より先に一度二つを回収してしまえば、こちらの「結晶の回収」という真の意図には気づかれないという算段である。しかしその説明に感じる違和感を彼は指摘した。
「待った。それって相手に結晶に気づかれたら終わりだろ。それに急にこっちがアグレッシブになってもあいつ怪しんでくるぞ」
それを聞いた鏡像の揺れは一段と激しくなった。
『それはお前の口八丁に任せよう。なあに、さっき見たいに何とかできるだろう?あの、まな板のぉ…鯉ぃ』
悪霊はプルプルと震えながら語る。さっきの会話での言葉がツボに刺さったノイズの震えはしばらく続き、会話は中断されてしまった。
「…向こうも非戦闘員が後ろにいるだけなら多分文句は言わないだろ」
キョウヤがリビングの方を見ると、祓士は自身の装備についての一通りの点検を終え、机の上に広げた札の束を片付け始めていた。
キョウヤはコップの中身を一気に飲み干すと準備完了の面持ちで祓士の方へと向かった。
準備を終え、玄関から外へと一行は繰り出す。キョウヤが祓士の指示のもとに自身の胸のあたりに意識を集中させると光の帯は再び現れ、左の方へと向かって伸びていく。 一行は光をたどり、再び河川敷の前へと到着する。破壊された自販機はそのままであったが、そこからはもう何も異常なものは感じられない。まがまがしい気配は河川敷の中から感じられた。光の帯も同様に護岸を貫いてその先を示していた。二人は祓士を前にして階段を登って行った。
階段を上っていくと一行は管理河川用通路に出た。3時になり、落ち始めた日が川を照らしている。
階段を上り切ったとき、横からボンと何かが爆発するような音がした。見ると彼らから10mほど離れた通路状が黒い霧で覆われており、中からはさっきの狼が再び現れた。その体から出ている霧の量は最初に見たときよりも明らかに増しており、異様にその気配は大きくなっていた。
『竜骨まで取り込んだらしい』
狼の胸のあたりには竜骨と結晶の一部がアクセサリのように浮かびあがってきていた。狼は結晶と竜骨の二つを取り込み、それらのパワーを自分のものとしていたのだ。
狼はとびかかろうと姿勢を低く構える。祓士はそれを見るとキョウヤをかばうように前に出た。そして札をこめかみのあたりに構えるとそれを小刀に変化させた。
狼は祓士へと襲い掛かる。だが祓士の方もそれと同じだけの速度で動いているらしく、キョウヤの目の前で互いの刃と爪が激突して火花が何度も散った。
攻撃を対応された狼は一旦後ろに跳んで距離をとる。それを見た祓士は再び懐から札を二枚ほどとりだすと、何かを唱えた。
すると祓士の後ろの方で空間そのものに波紋が走った直後、その中から巨大な魚の尾びれが現れた。それ水面を打つようにして動き、周囲の空間に一段と大きな波紋が伝わっていった。
それは5m先の狼のいるところまで届く。狼が再びとびかかろうと後ろ脚を動かすと、後ろ脚のついた先の地面が突如として爆発した。
「奴の逃げ道に爆破符を仕込んだ。もう逃がさない!」
祓士はそう宣言すると小刀を構えて動こうとしない狼に突撃した。しかしその直後、キョウヤの目には狼の背後の空間がわずかに揺れるのが見えた。
祓士が狼に肉薄しようとした瞬間、その空間の揺れは巨大な槌へと姿を変えて祓士を急襲する。腹に浮遊する槌の一発をもろに食らった祓士は大きく吹き飛ばされ、キョウヤ達の後ろに墜落した。
彼の近くに祓士の小刀が落ちてくる。後ろを見ると祓士の女はそこで伸びていた。
「おい、お前嘘だろ…」
突如として槌を振るい始めた狼にキョウヤは思わずつぶやく。だが異変はこれだけに収まらなかった。
目の前の狼の全身は突如として蠕動を始める。体はより筋肉質なものになっていき、前足は異常に発達し、後ろ脚の骨格は人間と同じものになって、そしてそれは立ち上がった。
目の前に現れた人狼にキョウヤは思わず戦慄する。しかし体は悪霊により勝手に動き、近くにあった小刀を左手に取った。そして小刀から赤黒い雷が走ると、それは60㎝ほどの小太刀に変わっていた。
『むしろちょうどいい。いちいちごまかす手間が省けた』
どうやら悪霊はやる気であるらしいとキョウヤは察する。しかし相手は2mほどある巨大な化け物へとその身を変じている。前回の戦闘は急場のあまり少しハイになっていたがゆえに彼は戦えていた。しかし、今回はいくらかの冷静さが残ってしまって居たせいで目の前の質量を持ち、影を伸ばした怪物に恐怖を覚えた。
そうして狼狽する彼を見て、鏡像はキョウヤの中でその存在を一気に膨らませた。
『まあいい。戦えないならオレと一旦変われ』
そういわれると、キョウヤの意識は突如として「後ろ」に遠のき、体が自分の思い通りに動かなくなる。すると左手は勝手に動き出し、キョウヤの口からはさっきまで聞こえていた悪霊の声が出始めた。
『また吹き飛ばしてやるよ』
悪霊はキョウヤの肉体を完全に乗っ取った。
肉体を奪った鏡像の挑発に答えるように、人狼も右手を小さくまえに突き出して挑発のポーズをとる。
二体の悪霊が河川敷にてついに邂逅した。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今後も二人の物語をぽつぽつと上げていきたいと思いますのでよろしければこの物語の感想・評価の方をぜひともよろしくお願いします。
※次回は4/6の18時頃に投稿します!




