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一章:三話:勇者の幼馴染と啜る年越しそば

実質四話目になります


一旦ココまでが【出会い編】となります

※前に書いた設定と変更していたところを直し損なっていたので修正いたしました

※シーは孤児です


 □


「ミコトくんはまだ今が夢だと思ってる?」


 エビ天の乗った温かいそばを啜りながら、シーが唐突に切り出した。

 宿屋の手伝いで箸の文化に触れることもあったというシーの箸裁きは、ミコトより鮮やかなほどである。

 あのあと、祖父の手紙(というより書き置き)を読んだが、彼女はこの世界を救う聖女で魔王を滅ぼす云々と、参考になりそうでならなさそうな話がつらつらと書いてあるだけだった。

 これなら類似の創作物を参考資料にして、それとなく世界情勢を探ったほうがまだシーを召喚した存在意義を探れそうだと唾棄するような代物である。

 当然のように、祖父は音信不通。年末で忙しいのか、ミコトは両親ともいまだ連絡が取れていなかった。


「んー、さすがにもう、ねぇ。この三日分ばっちり記憶あるし、そばも旨いし。何より、シーさんの攻撃も効いたからなぁ」

「それはごめんって。回復呪文かけてあげたでしょ」

「ホイミじゃなくてベホイミが良かったけどね」

「べほ……?」


 地下室の天井とよく似た色のそばを箸で挟み取りながら、徒然と雑談を交わす。

 桜色の唇が、箸から麺を受け取る。

 さすがにずぞぞっとはいかないが、ちゅるちゅると麺は小気味よいテンポでシーの口の中へと吸い込まれていた。

 もぐもぐと咀嚼して、続いてエビ天。

 麺はさすがに買った物だが、そばつゆも天ぷらもミコトの手製である。

 さっくりと揚がった天ぷらを、おっかなびっくり囓ったシーは「ん~~~っ」と言葉にならない歓声を上げ、作り手冥利に尽きるえびす顔になった。

 三日前の晩餐が地獄だっただけに、ミコトの心もほっと和らぐ。しかし、シーの反論の内容にどうしても口元がひくつく。殴られた右頬も疼いた気がした。


「いやまあ、おかげさまでアザにもならずに済んだんだけどさ……まだジンジンする気がするっていうか」


 ミコトは言い淀んだのをごまかすために、素早く丼を持ち上げて汁を啜った。

 だしの風味がよくきいていて、ぴりりとした七味の刺激もちょうど良い。うんうん、旨くできた。


「だからまだそんな湿布なんて貼ってるわけ?」


 シーの声が鋭く食卓の上を飛ぶ。

 たおやかな外見に反してなかなかしたたかなシーの碧の瞳が、鋭く眇められてミコトを捉えた。


「えーっと、言ったじゃん。この世界には魔法なんてなくて、代わりに科学で世界の多くは動いてるって。例えば炎を出すとか電気を放つとかなら手品……まあ魔法みたいに見える科学で出したとも言えるんだけど、一瞬で人を回復させたり物をきれいにするっていうのは経験したことなくてね。だから魔法を使ってもらったとき、これは本当に起きていることかなって疑った次第でして……」

「でも、見たことも聞いたこともないわりに、魔法についての理解は早かったよね」


 手厳しい突っ込みである。

 日本のオタクは大なり小なり、RPGやファンタジーを囓っているものだ。

 ただ、目の当たりにする機会はフィクションの中か、テーマパークくらいなものである。


「……ゲームでならあるんだよね、見たことも聞いたことも」

「ゲームではできるのに、生活の中ではできないの?」

「多分、シーさんの考えてるゲームとは大分かなり違うと思うんだ」


 聞けば、シーのいた世界での文化水準は中世ヨーロッパあたりである。

 おお、なんと王道なことか。

 テレビゲームの説明など今から始めれば、シーが理解した頃には初日の出が昇っている可能性が高いし、勘弁したい。

 ゲームについては近々実際にお見せすると約束して、ミコトは「そういえば」と露骨に話題を変えた。


「シーさん的にはどうなの? えーっと、勇者? が、連れ戻してくれそうな感じある?」

「んー、どうだろ。幼馴染が村に帰ってくれば希望はあるんだけど、お姫様と結婚するなら帰ってこないだろうし」

「わあ、ほんとテンプレ……」


 異世界から女の子が転移してきただけでも夢物語だというのに、まさか勇者の幼馴染が来ようとは。

 疑えば容赦なく、魔法ではなく冷ややかな目線で睨まれそうなので、突っ込むのはよそうと自らを戒める。

 だが、聞けば聞くほどシーの身の上話は一部の日本人が馴染んだような勇者物語だ。幼馴染の気が強いところまでテンプレにすることはないと切実に思うが。


「テンプ……?」

「よく聞く話だなぁって意味」


 話しながら二人とも箸は止めないので、時折麺を啜り込む音が会話に混じる。

 音量を下げてはいるが、テレビもつけっぱなしだ。

 年末恒例と化しているバラエティがどこか人ごとに感じられないまま、ミコトは爆弾になり得る質問をシーへと投げた。


「ちなみにさ、シーさんのところへ帰ってくるとか、そういうのが書かれた手紙とかって、勇者から来てなかったの?」

「来てたよ。魔王を倒したって手紙も来たし、その手紙ではやっと帰れるって書いてあったけど。でも、噂だと王陛下は勇者には王女様と結婚してもらって、国防についてもらいたいらしくて」

「てことは次期国王にも任命したいってこと?」

「いやいや、あいつに国王様なんて務まんないよ。王太子も立ってるし、あくまでつながりを作るってことじゃないかな。王女様も聖女? として旅に同行してたらしいし」

「ああ、そう……」


 ドコカデキイタハナシダナー、と思わず片言になるミコトである。


「これで勇者がビアンカ派だったら俺、控えめに考えても殺されるんじゃ……」

「ビアンカ派って何?」


 真に迫った言葉に、シーが静かに口の端を上げて笑うが、ミコトは例年腹が痛くなるほど笑うバラエティ番組の力を持ってしても、あまり笑えなかった。

 このままでは来年はチープなラブコメになりそうである。

 年越しそばの残り香を嗅ぎながら、こんなのはやはり初夢とかだったらいいなとミコトは来年を想った。

 もしくは勇者よ、フローラ派であれ。

 

お読みいただき、ありがとうございました!


次話から話が動いたり、勇者が出てくる予定です



もし「おもしろいぞ!」「続きは?」と思っていただけたら、

ブックマーク、そして★を付けていただけましたら、

創作の糧となりますので是非によろしくお願いいたします


また、チキンハートなのでご感想などは、圧弱めでお願いできますと幸甚です……

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