一章:プロローグ:勇者の幼馴染と年末を過ごす
新しく逆異世界転移してきた勇者の幼馴染話を書こうとして、その前にうんと前に投稿したものを発掘しました
現代の少年×勇者の幼馴染(←執着勇者)の話です
ひとまず一章の内容を連続投稿いたします!
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「ねえねえ、この人がこの世界の魔王?」
シーが液晶テレビを指さした。
シー、というのは彼女の愛称である。
外国人風の外見に反して流暢な日本語を話す彼女だが、肝心の名前がどうしても聞き取れず、かろうじて拾えた部分と、英語の三人称単数主格女性代名詞で“彼女”になる“She”を掛け合わせた呼び方だった。
シーの名付け親である七瀬ミコトは、緩慢に首を横に振った。
シーが指差したのは夕方のニュース番組で、映っているのは内閣総理大臣である。
何がどうしてこの黒い板に多くの人や場所や、はたまた絵が動く様子が表示されているのか、政治家は世界において悪なのか善なのかなどというしちめんどくさいことを一介の男子高校生に訊かないでほしい。
シーには数分前、テレビの理屈を四苦八苦しながら説明したばかりだった。
「一部の人はそうって言うかもしれないけど、違います。この人は国民の代表として政治をまとめていて、任期は長くて数年、超短くて数ヶ月。おまけに日本だけの話なので倒しても世界に平和は訪れません。何より俺の目の黒いうちは正義のためだろうがなんだろうが、君の殺傷行為は認めません」
そもそも、とミコトは口をへの字に曲げる。
世界平和など、個人の力でどうこうなる問題ではないとミコトは思う。
「じいちゃんは適当なこと言ってたけど、誰かを倒したらそれでなんとかなるとか、そういう単純な話じゃないと思うんだよね、平和って。それに百万が一、世界征服を企む悪の組織とかがいたとしても、ぶっちゃけ現実味がないっていうか、一個人がなんとかする話じゃないっていうか。少なくとも世界の命運なんてもんを十代の若者に単独で背負い込ませるなんざ、周りの大人は何してんだって話で……」
つい習性でつらつらと語り、はたっと口をつぐむ。
こういうところが「オタクはモテない」と言われる所以なのだ、と覚えがあるだけに、そろそろとシーのほうを見てしまう。
漫画もゲームも人並みに好きだがオタクというほどではないし、他の趣味も同様。
と、いくらミコトが言い張ってみても話題に熱が入ると相手に相づちの間を与えないほど話しきってしまう癖のせいで、オタクというレッテルはなかなか剥がれないままである。
おまけに相手は、ストロベリーブロンドとかいう髪がよく似合う、外国人顔の美少女だ。
平たい顔族で平均並みと自負するミコトとしては、何とはなしに引け目を感じてしまう。
そもそも、クラスの端っこでひっそりと生きているタイプのミコトには女子と話す機会が極端に少ないのだ。
両親は一年の大半を海外で過ごし、同居人は変わり者の祖父だけだったので、プライベートで話す【女】といえば、昔馴染みのご近所さんと挨拶程度という体たらくである。それが急にスーパーモデル級の美人と同居生活なんて!
世の過半数(ミコトのクラスメイトに換算すれば九割)以上の男性に羨ましがられる環境という自負はあるが、代わってくれるなら代わってほしいと切実に思う。
少し気を遣って表現すれば緊張するし、有り体に言えば気の休まることがない。
ちょっとした仕草、発言で、うっかり目の前の美少女にあからさまに引かれたりなどしたら間違いなく思春期男子の心は死ぬ――
「そうなの? 私の世界ではこの前、▲ァ×ス……じゃなかった、勇者が魔王を倒したら平和になったけど」
きょとん、と首を傾げられ、ミコトは返答に窮した。
――可愛い。
ではなく。
会話が恐ろしいほど【電波系】のソレである。そして人名らしき【▲ァ×ス】は例によって聞き取れなかった。シーとの会話で、彼女の【世界】の名詞は何度聞いても不明瞭のままということが多い――というのも不可思議な話である。
なお、十七年生きてきたミコトの人生で、さらっと【勇者】が【魔王】を倒して【世界平和】が訪れるという台詞が出てくるのは、ゲームか漫画かアニメの中だけだ。
それが築年数如何ばかりかという古くさい日本家屋たる自宅で、まさか居間の炬燵に入った美少女から聞く日が来ようとは。
ああ、今まで俺をからかってきた奴ってこういう気持ちだったのかなぁ。
ミコトが遠い目をしている間に、シーはミコトからまたテレビに目線を移した。
電化製品が不思議でしょうがないらしく、シーが今日かじりついているのはテレビだ。
シーが七瀬家に転がり込んできたのは三日前だが、最初の二日は混乱を極めすぎていてとてもではないがテレビをつける余裕などなかった。
そもそも彼女がどこから来たのかさえ、ミコトには定かではない。
というより彼女の存在自体、実は自分の見ている夢の登場人物だとか、脳か精神かに何らかの異常をきたして強めの幻覚を見ているのではないかと疑ってすらいる。
そのくらい、彼女との出会いは異常だった。
それが、三日で一緒に年越しそばを啜れるようになるとは。人間の順応性とは意外と優秀である。
「じゃあ、やっぱこの世界に魔王はいないんだ?」
「そう言ってるでしょ。世界を脅かす魔王も魔物も俺が知る限りではフィクション……」
少し考えてから言い直す。
諸悪の根源が残した手記曰く、言語は双方自動翻訳されるというご都合主義的効果で通じているらしいが、意味が伝わらないこともままあるということはこの三日で学習していた。
「要するに、あくまで創作物であって存在しないんだよ。おとぎ話の登場人物と同じ」
「ふうん。じゃあほんとなんで私、召喚されたんだろうね」
炬燵の天板に乗った籠から蜜柑を一つ取ったシーが、わこわこと皮を剥きながら呟く。
ミコトを責めているというより純粋に疑問、といった声音がありがたかった。
何せ、諸悪の根源たる祖父は現在行方不明である。
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