眠り姫に捧ぐ、ゴールキーパーのハットトリック
「なろうラジオ大賞3」応募作品のため、1000文字以内の作品になっています。
「うお〜、昨日の俺を誰か殴ってくれ〜」
「うるせぇよ。昨日かよ。無理だろ」
部室で喚く俺を親友の葵が残念そうな目で見ている。
「聞いてくれよぉ~」
そんな葵に俺は泣く泣く昨日のことを説明した。
保健室の眠り姫に次の試合でハットトリックを決めると宣言してしまったことを。
「お前、自分のポジションすら忘れたの?」
そう。俺のポジションはGK。
ハットトリックどころかゴールを決めることすら不可能。
「どうしたらいいんだぁ~」
「……おい、いるらしいぜ。ハットトリック決めたGK」
嘆く俺を無視してスマホをみていた葵が声をあげる。
「マジで?」
俺は葵のスマホを覗き込んだ。
そして試合当日。
俺は観客席に眠り姫がいることを確認した。
「ぼ〜っとしてんじゃねぇぞ」
俺の肩を叩いて先にピッチに向かう葵を慌てて追いかける。
試合開始のホイッスル。
直後に唖然とする相手のGK。
一瞬置いて一斉に沸き立つ味方と観客席。
運命の試合は俺のキックオフゴールから始まった。
前半40分。
相手FWへの葵の執拗なプレッシャー。
苛立つFW。葵がボールを奪った瞬間、奴の顔色が変わった。
後方からの強引なスライディング。派手に転ぶ葵。
ピーッ!
ファウルを告げるホイッスルに俺たちは、よし! と目配せをする。
「外すなよ」
「もちろん」
こっちもGK。嫌なコースは熟知している。
パーン
気持ちいい音を立ててボールがゴールネットを揺らした。
俺は葵とハイタッチをしながら、観客席の眠り姫を探す。
と、驚いた顔で俺を見つめる彼女と目があった。
よし! あと一点!
でも、その一点が遠かった。
動きのないまま前半終了。後半突入。残すはアディショナルタイムのみ。
何とかしなくちゃ!
俺の気が逸れた瞬間を相手は見逃さなかった。
「調子乗ってんじゃねぇぞ」
気がついた時には相手FWの肘が俺のこめかみにぶつかっていた。
ピー……
遠のく意識の中、俺はホイッスルの音を聴いていた。
次に目覚めたのは保健室のベッドの上。
「大丈夫?」
ベッドサイドに何故か眠り姫が座っていた。
「試合は?」
「2-0でうちの勝ち」
俺が聴いたのは試合終了のホイッスルだったらしい。
「ごめん。俺、約束したのに」
言葉にしたら視界が歪んだ。
「また見に行くから。次は見せてよね。ハットトリック」
「えっ?」
「じゃ、またね」
それだけ言うと眠り姫は保険室を出て行った。
えっ? また、ね?
それって、つまり……
「よっしゃあ!」
誰もいない保健室に俺の叫び声がこだました。
読んでいて恥ずかしくなるような甘酸っぱい青春モノを書いてみたくて頑張ってみました。
ちなみにハットトリックを決めたGKは本当にいるそうです。今回調べてみて始めて知りました。