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凶星七将記  作者: 神谷錬
二、道連
7/7

その②

朝飯も食ったし、宿を出ることにした。

が、すんでのところでくるりときびすを返し、出口のわきに身を潜めた。

店の真ん前にシノがいる。

「お兄ぃぃ!」

おれを探し回っている。

人目も気にせず、朝から大声で叫んでいた。

なんて恥ずかしいやつだ。

隠れて見ていると、シノがひくひくと鼻を動かしている。

「おかしいな、においはするんだけど」

「ケダモノか!」

思わず声に出してしまい、慌てて自分の口をふさぐ。

頭だけのぞかせて確認する。

ひょっとしたらと思った。

が、シノには聞こえていないようだ。

「不審人物」

「おわ!」

振り返るとリルがいる。

そりゃそうか、まだ店の中だ。

「驚かすなよ」

「何をしているのです?」

外を指して言った。

「あいつに見つかりたくない」

リルはしばらく眺めたあと、ぽつりと言った。

「かわいい娘ですね」

「そこは同意してもいい」

「誰ですか?」

「妹」

「捨てた元愛人ですか」

「鼓膜、やぶれてるの?」

「男は浮気相手のことを」

「ことを?」

「妹と言ってごまかすと聞いています」

「おれがそんな男に見えるのか」

「……」

「なんか言え!」

はぁはぁ、と肩で息をする。

コイツと話していると疲れる。

と、とりあえず落ち着こう。

「あいつが『お兄ぃ』って言っているの、聞こえているよな?」

「『鬼』って言っているのかと」

「馬鹿な! あいつにそんなひどいことは、し、てい、な、い?」

「やはり鬼」

「そ、それはそうとして、あいつめ、これでは動けん」

つぶやくふりして状況説明。

するとリルが意外なことを言い出した。

「何とかしてあげましょう」

「マジか」

「貸しひとつ、でいいですよね?」


リルが店を出て、シノに歩み寄っていった。

「そこのかわいいお嬢さん」

「なんだ、お前」

シノが振り向いた。

「かわいいお嬢さん」で振り向くずうずうしい妹。

「誰か探しているのですか」

「うん、お兄ぃを見なかったか」

「どんな感じの人ですか」

「黒目黒髪の男だ」

「他には?」

「間抜け面をした十六歳」

リルが、ぷぷっ、と吹き出した。

あの女!

心の中で毒づく。

が、状況を見守るしかない。

「ここ二、三日、その間抜け面はよく見ます」

「ほんとか!」

「あっちの方にいきました」

「う~ん」

「どうしました?」

「でも、においはこのあたりからする」

「さっきまでこの辺にいましたから」

「そうなのか! ありがとう! おねーさん!」

「じゃーねー」とシノは去っていく。

ちょろすぎる妹。

その背中を見送ってリルが戻って来た。

「間抜け面で悪かったな」

ほっぺたをつねってやる。

「いひゃい」

そんなおれの手をリルがぺしっと払いのけた。

「助けてもらってその態度」

「ああん?」

「おーい!」

リルがまだ背中が見えるシノに向かって大声を出す。

とっさに口をふさいだ。

「わかったから」

「ふがふが」

「ありがとう! 助かった!」

手を放してやると、もう叫ぶことはしなかった。

「別にあなたのためにやったわけじゃないですし」

「じゃあ、誰のためだよ」

「ホント、誰のためでしょう」

「お前、頭悪いだろ」

「失礼な」

「まぁ、いい。とりあえず、でかけてくる」

「いってらっしゃいませ」

「今日もこの宿に泊まる。部屋を一つあけといてくれ」

「かしこまり」


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