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凶星七将記  作者: 神谷錬
二、道連
6/7

その①

目覚めは心地よかった。

寝台から降りて窓の外を見ると、すでに日が昇っている。

「いい天気だ」

今日は何をしようかな。

せっかく国境を越えたのだから、いろいろ見て回りたい。

初めての旅。

しかも、気ままな一人旅。

「とりあえず、朝飯を食わねば」

部屋を出て、食堂に行く。

空いている席を探して座った。

この時間は宿泊客しか利用していないので静かだった。

「すいませーん」

料理を注文するために、給仕を呼ぶ。

背後から足音が聞こえたので振り返る。

宝石のような青い瞳、背中を流れる長い金髪。

いつ見ても、目を奪われる。

が、何を企んでいるかわからない。

あやしい女だ。

油断できない。

「また、お前か」

顔をしかめてやった。

相手は全く気にした様子がない。

と思ったが。

「『お前』はやめてください」

ちょっと怒っている。

「ちゃんと名前、あります」

「なら、教えてくれ」

「名をたずねるなら、まず自分から」

「そっちが言い出したんだろう」

「つーん」

「この女……」

まぁ、いい。こちらが大人になるか。

「トウエイのコウウン」

「トウエイのウンk……」

「言わせねぇよ!」

「ハッ?」と給仕は気づく。

「なにを言わせようとしたんですか」

「なにが?」

「女性に恥ずかしい言葉を言わせて喜ぶ変態……」

「止めたのは、おれ!」

「名前を教えるのが怖くなりました」

「おれもお前の名前を聞くのが怖い」

だって、お互いに名乗れば、知り合いの程度の関係にはなってしまう。

いくら外見は良くても、変な女とは知り合いになりたくない。

「まぁ、言いたくなければいい」

おれもそっちのほうがいいと思ったが。

「待って」

「なんだ」

「リル」

「なに?」

「わたしの名前」

「リル?」

呼ぶと小さくぷるぷる震えた。

「どうした」

「な、なんでもないです」

「リル?」

呼ぶと、やはりぷるぷる震える。

「お前を見てると、実家で飼ってる猫を思い出す」

「え?」

「そいつは名前を呼んでやると、うれしくなって身震いしていた」

「そんなんじゃないです」

「そうか」

「なぜ、私の足元を見るのです?」

「その猫、プルプルしながら、うれションしてたから」

衝撃が後頭部を襲った。

持っていたお盆で殴られたらしい。

後頭部に痛みを感じつつ、朝飯を平らげた。

食後のお茶を飲みながら、一息入れる。

すると、またリルがそばに寄ってくる。

コイツはほんとなんなんだろう。

「この後はどうするつもりですか」

世間話がしたいらしい。

おれは小さく息を吐いた。

「しばらく、町を見て回ろうかと」

「いい御身分ですね」

「態度の悪い給仕だ」

「あなたほどではありません」

「茶をついでくれ」

「ご自分でどうぞ」

「急須……、ポットを持っているのは誰かさんなんだが?」

「これは気づきませんで」

「店主! この給仕、使えないぞ!」

「嫌なら出てけ!」と店主。

なんて店だ!



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