その④
次の町にたどり着いたのは、日が暮れる寸前だった。
「暗くなる前でよかった。とりあえず、宿をとらないと」
目についた宿に飛び込む。
この国の宿は一階が食事処で、二階が客室になっているようだ。
一階では大勢の客が飲み食いをしている。
忙しそうに働く店主のそばまで行った。
声をかける。
「泊まれるか?」
「銀貨五枚」
一泊の値段は、トウエイと変わらないらしい。
「ついでだから、食事もしたい」
「別料金。その辺のテーブルに座りな」
店主が奥のテーブルを指さす。
素直に、そこに座った。
しばらく待つと給仕がやって来る。
「え?」
目を疑った。
透き通った青い瞳と流れるようなきれいな金髪。
それは、昼間に会ったあの美しい給仕にそっくりだった。
「別の食堂にもいなかったか?」
間違いない、と思ったが。
「なんのことでしょう?」
こんなことを言う。
「ひょっとして、あっちの町に姉か妹でもいる?」
「わたしはひとりっこ」
小さな声でぼそりと言う。
この話し方は、昼に会った給仕そのものだ。
「おすすめを聞きたい」
「貝類のオイル焼きがおいしいです」
「昼に食った魚もよかった。なんて名前の魚だっけ?」
「ブルーサーディンで、す……」
給仕は、ハッとして口をつぐんだ。
「おい」
「なんでしょう」
「下手か!」
「失礼な」
「なぜ、正体を隠す」
「なんのことやら」
じっと、目を見つめる。
さっと、そらされる。
この女!
「もういい。その、オイル焼きを持ってきてくれ」
「かしこまり」
焦っていたのか。
変な返事をして、そそくさと逃げてった。
あの給仕が料理を持ってきたので、さっそく食事を開始する。
怪しい人間が持ってきたので、警戒する。
ひょっとして毒でも入っているかもしれない。
時間を空けてちょっとずつ口に運んだ。
結論から言えば、大丈夫だった。
なにか盛られてはないようだ。
ちなみに貝のオイル焼きは、あんまり美味くなかった。
食べ終わった後、テーブルでのんびりする。
ふいに店の外から「お兄ぃぃぃ」と犬の遠吠えのような声が聞こえてきた。
「あいつ! しつこすぎる!」
慌てて、借りた部屋に入って、寝台に潜り込んだ。
「今日はいろいろあったな」
頼まれ仕事で、魔物と戦った。
うっすらと血のにじむ手のひらを見て、今日のことを思い返した。