その②
「ふぅー」と大きく息を吐く。
こんなやり取りを続けながら、国境を越えてしまった。
ふと、われに返った時、思う。
おれは一体何をしているのだろう。
「それにしても腹が減った」
ちょうど昼だが、この辺りにはいくつも飯屋がある。
「どこが美味いんだろう」
情報がない時は直感に頼る。
ぱっと目についた食堂に入った。
店内を見回して、空いていたテーブルに座る。
「この国は、何がおいしいのかな?」
初めて来る国。
ワクワクが止まらない。
給仕がいたので呼ぶ。
「すいませーん」
「はい」
「このお店のおすすめは?」
給仕はじっとおれを見た。
「おかしなこと聞いたかな」
こちらも相手を見返す。
背中を流れるきれいな金髪。
透き通った青い瞳。
視線がぶつかってどきりとする。
トウエイにはいない人種だ。
思わず見とれた。
他の客も彼女をチラチラ見ているのが、気配でわかった。
「魚介がおいしいです」
ぼそりと言ったので、「どうも」と返した。
焼き魚を注文した。
しばらく待つと、料理がテーブルにやって来た。
塩を振って焼いてあるだけだが美味かった。
食べ終わって顔をあげると、さっきの給仕がこちらを盗み見しているのがわかった。
ぎょっとした。ちょっと気味が悪かったが、気を取り直して聞くことにする。
「あの」
声をかけるとそばまで来た。
「はい?」
「この辺に組合ってあるのかな?」
「それなら」と、場所を教えてもらった。
食事を終えて店を出る。
きびすを返そうとした時、視線を感じた。
そちらを見る。
店の窓から、さっきの給仕がこちらをじっと見ていた。
彼女はおれの視線に気づくと、窓からすっと離れ、店の奥に消えた。
「とりあえず、組合に行くか」
路銀が尽きそうなのだ。
「トウエイのコウウン」
組合に行って仕事が無いか聞いてみた。
受付のおっさんが「ある」と言うのですぐに紹介してもらう。
書類を作るので名前を教えろと言われたから名乗ったのだ。
おっさんが聞いた名前を復唱しながら、書類に書き込む。
「トウエイのウンk……」
「言わせねぇよ!」
「おお?」
「名前! 間違っている! コウウン!」
おっさんは、「ああ」と言いながら訂正する。
「あ、危ないところだった」
とんでもないものと一緒にされるところだった。
ともあれ。
依頼票を発行してもらうことができた。
組合は国境をまたいでいるので、仕事を受ける仕組みはトウエイと一緒だ。
迷うことはなかった。
時間は昼を少し過ぎたばかり。
「すぐ行ってくれ」と受付のおっさんが言うので、指定された場所に向かう。
着いてみると、そこは大きな商家だ。
庭にいた使用人に声をかけて紹介状を見せる。
さっそく家に入れてくれて、そのまま応接間に通された。
とびらを開けると身なりのいい爺さんがいた。
「若いな」とつぶやき、おれの体をじろじろと見る。
「年は?」
「十六」
「やれるか?」
「たぶん」
「得物は?」
答えるように、一本の刀を掲げて見せた。
『千羽鴉』である。
「危険だぞ?」
「だめなら逃げる」
「仕事はわかっているな?」
「街道の魔物退治」
「通行者が何度も襲われている。放って置けん」
「手はずは?」
「巣だけは見つけてある」
「なるほど」
「あとは討ち取るだけだ」
「ちなみにおれで何人目?」
「なにがだ」
「おれの前にも人を送っているはず」
「聞きたいか?」
「参考までに」
「六人」
「そんなに?」
「七人目にならないでくれよ」