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凶星七将記  作者: 神谷錬
一、放浪
2/7

その①

妹から逃げてきた。

故郷を離れ、隣の国まで逃げてきた。

せっかく旅に出たのだから、もっと自分の国を見て回りたかった。

けれど、妹を振り切ろうとしているうちに、隣の国まで来てしまった。

妹のシノは、国境を越えても追いかけ回してくる。

今も、その最中だ。

「お兄ぃぃ!」

叫びながら追いすがってくる。

国境沿いの大きな町。

町中で人の目もあるというのに。

十三歳にもなるのだから、もう少しわきまえてほしい。

かくいうおれも、全力疾走。

すれ違う人達が好奇の目を向けてくる。

いい年した男が女の子から逃げ回っている。

周りからはどんなふうに見られているのか、それがとても気になった。

顔が熱い。

もちろん、これは走っているからだけではない。

「仕方あるまい」

立ち止まった。

両手を挙げて降参する。

シノはそれを見て好機と思ったのか、飛びついてきた。

両手両足でおれの体に取り付いて、がっちり締め上げてくる。

なんか怖い。

大蛇にでも巻き付かれたような。

妹の体重をもろに支える形になった。

腰にも負担がかかる。

「太った?」

「うるさい!」

「動けん」

「くふふ」

シノが不敵に笑った。

体にぶら下がったまま、見上げてくる。

胴体にしがみついているので、お互いの顔が近い。

近いので、おでこにチュウしてやった。

「な、なにする!」

「近かったんで」

「へんたい!」

「否定はせん」

「どうてい!」

「否定はせん!」

シノはまだ体から離れない。

これはもう一発チュウだな。

うー、と口を近づけてやるとさすがに離れた。

離れ際に「汚い!」と言われる。

少し傷つく。

シノはチュウされたおでこを袖でゴシゴシしながら言った。

「『千羽鴉』まで持ち出して、父者もカンカンだよ!」

「カンカンなのはお前じゃないか」

「当然、怒っている! なんで、勝手に家を出る!」

おれは両腕を組んで目を伏せた。

「それには深いわけがある」

「深い?」

「うん」

「それは?」とシノ。

「それは……」

おれが言葉を切ると、シノがごくりとのどを鳴らす。

「なんか」

「なんか?」

「家を出たかった」

「深くなぁい!」シノがキレた。

「いやぁ」と、おれはとぼけて見せる。

「なんとなく家出しただけ!」さらにキレた。

「無理だったか。お前の頭なら納得しちゃうかもと思ったが」

「バカにしてるのか!」

「してる」

「お兄ぃぃぃぃ!」

発狂した妹が襲い掛かってくる。

それをかわして、叫んだ。

「服にゲジゲジがついてるよ」

「え? うそ!」

シノはゲジゲジ虫が苦手なのだ。

足がいっぱいあるのが気持ち悪いらしい。

「え、やだ、どこ? どこ?」

自分の体を見回しながら、あたふたしている。

「え? ゲジゲジ? いない? いない?」

「早く振り払うんだ! もたもたしてると噛みつかれるぞ!」

「うわぁぁぁぁん!」

発狂する妹を尻目に全力疾走。

十分な距離を稼ぐ。

数秒後、だまされたことに気づいたのだろう。

「お兄ぃぃぃぃぃ!」

背後から、叫び声だけが追いかけてきた。


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