序章
その方は占星術師だったから、わたしのことを星の名前で呼んだ。
「アリオト」
「はい」
「ベネトナシュが動き出しました」
「はい……」
「あなたはどうしますか?」
わたしは少し考えた後、言った。
「どう、とは?」
「わからないふりですか?」
「……。しかし、『アリオト』は凶星。災いを呼びます」
その方は大きなため息をつく。
「では、聞きます。その災いはあなたが引き起こしているのですか? あなたの中に悪心があって、この世に害をなすのでしょうか?」
それを聞いたわたしはカッとなって叫んだ。
「ちがいます!」
「災いはこの世のどこかで生まれて、凶星に引き寄せられる」
「だから、こうして世間から離れて……」
「それは本当に正しいのでしょうか?」
「おっしゃっている意味が……」
「災厄は最終的に、あなたの下に来るでしょう。しかし、その通り道でさまざまな害をなすのです。生き物を殺し、大地を荒らし、悲しみをまき散らします」
「わたしに、どうしろと」
「こちらから出向いて潰してしまえばよい。ベネトナシュは己の運命を、すべて斬り伏せるつもりのようです」
「そんなこと……」
考えたこともなかった。
「メグレズも、呪いを引きうけて奔走しています。凶星同士も惹かれあう。二つの星は、もうじき接触することでしょう」
「……」
「もう一度、聞きます」
あなたは、どうしますか?