やって来ました炎の海に
出だしは、よくある話しだ。
気づいたら、異世界。これはまだいい。
転生なら、神やらその世界のシステムやらに、チートな能力を付与されたり、比較的安全な場所からの出発。
キミヒロは眼前の光景を見て、瞬時にそんな事を思い浮かべ、
自分をこの場に転移させたアホウ(神?)を恨んだ。
火の海。
自身の身長ほどの炎が、視界を覆い、炎の燃え盛る音に紛れ、金属の激しいぶつかり合う音がする。
「バカ!よけろ!」
転移先第一声が罵声…。
事前説明無しか…転移担当アホウ(神?)め。
その刹那、後ろから衝撃をもろに食らって、キミヒロは火の海の奥へ押し出され、幸運にも火の海から脱する。
前のめりになりながら、自分が思ったほど焼かれていないと確認し、顔を上げつつ、状況把握を始める。
「あら、もう一人?ファン、この子の相手をしなさい」
キミヒロの正面には傾国の美女が、やたらデカイ刃物らしきモノを両手にもち、仁王立ちしてこちらへ視線をよこす。
その脇には、その女性と同じ高さに頭がある、炎をまとった狼のような魔物を従えて。
その炎狼(仮称)がキミヒロに向かって、のそりと歩きだす。
「そうはいくかよ!俺だろ!そいつらの相手はよ!」
ああ、さっきキミヒロを跳ね飛ばした声の主だ。
その声に呼応するように、炎狼(仮)は飛びかかりを始め、声の主はキミヒロの前に踊り出て、炎狼(仮)の顎をそれぞれの腕で受け止める。
キミヒロは視界を覆う巨体に、
「え?サモハ…」
食い気味に、その巨漢が背中のキミヒロへツッコミを入れる。
「それ以上いうな!それが助けた相手に言う事か!」
腕を噛みつき、振り回そうとする二頭の炎狼(仮)を腕のみで抑え込み、その男は確かに、キミヒロに向かう炎すら防いでいた。
しかし、脅威はまだある…炎狼(仮)たちの主であろう、傾国の美女。
微笑んでいるかのような切れ長の目、淡く輝き流れる白金の髪、眼前の炎すら映しだすキメの細かい肌、遠目に見ているのに、キミヒロの脳裏に深く印象が焼き付いた。