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第四話:AI嫁と添い遂げる覚悟

 春雪の視点です。

 仕事終わりに、先輩に会議室に連れ込まれる。

 何やら大事な話があるらしいけど?


「はい、先輩。コーヒーでいいですよね?」


 安物のインスタントだけど、飲み物くらいは用意する。僕は後輩だしね。


「ああ、頂こう。……うん、安物っぽい味だ」


「それはしょうがないでしょう? 実際安物ですし。……で、話って何です?」


 問いながら、僕もコーヒーを一口。うん。不味いと言わない分、先輩は出来た人だ。



「……法律が変わるかもしれん」


 たっぷり間を挟んで出てきた言葉が、それだ。

 いきなり過ぎて、ちょっとわけが分からない。


「うーん? それがどうしました?」


「あー、お前の嫁と添い遂げる覚悟はあるか?」


 話が繋がらない。ソラのことは愛してると毎日のように先輩に言ってるはずだけど、それがどうしたんだろう?


「お前のように、事情があって女性と結婚が望めないようなヤツもいる。しかし、人口の減少と働き手不足は待ってくれない」


 先輩の顔から迷いが消えて、キリリと引き締まった鋭い印象を受ける顔。かっこ良くて、僕が好きな顔。


「人口受精辺りの技術も進歩している。法もそこら辺をグレーだが許可する方向で審議されるようだ」


 先輩の顔かっこいいなあと、イケメン俳優を羨ましく思うような気持ちで話を聞く。


「それで、だ。お前、子どもは欲しいか?」


「先輩がよそでこさえた子を預かれって話ですか? それなら喜んで引き受けますよ?」


「待て。何でそうなる?」


「違うんですか?」


 なぜか焦った様子の先輩の態度に首をかしげると、 んんっと咳払いする。


「よそでこさえた子などいない。俺は嫁一筋だ」


「知ってますよ? 大変な愛妻家じゃないですか。だから、一夜の過ちを知られたくないんでしょう? 先輩モテますからね。女性にも、男性にも」


 僕がにこにこしながら言えば、さすがの先輩も顔が引きつる。

 早く帰ってソラに会いたいのに。

 そんな僕の苛立ちが伝わったのか、ため息をひとつ吐く先輩。


「はぁ……まあいいか。政府は今、無理矢理前例を作ろうとしている。前例が無いとぬかす老害どもに、前例を示すことで、法案を通しやすくするために」


 なるほど、と言う。半分くらい分からないけれど、さっさと続きを促すために。


「半分くらいは分かってないって顔だな。まあいい。前例とは、複数あってな」


・AIのキャラクターを、伴侶として認識できるか。

・子どもをどうするか。

・AIは子どもを育てられるか。育った子どもにどんな影響があるか。


 大まかには、こんなところらしい。


 ひとつ目は、そのままの意味。

 僕はソラを愛しているから問題ない。


 ふたつ目も、そのままの意味。

 現在の法律では、結婚した場合、子どもを産むことが義務付けられている。その代わり、政府から手厚い保証が受けられるわけだ。

 義務で縛らないといけないほど、人口減少が問題になっていて、母体に負担をかけない体外受精が主流になりつつある、という話を聞いたことがある。赤ちゃんを母乳で育てない影響を、もっと真剣に議論すべきだ、とも。

 僕の場合は、養子かな? と考えている。


 みっつ目も、そのままの意味だ。

 まさに、前例が無いことではないだろうか?


 あ、つまり、この話は……。


「ようやく分かったって顔をしてるな。後輩」


「はい。しかし、僕は、女性から遺伝子提供を受けたいとは思いません。先輩が奥さん一筋なように、僕はソラ一筋ですから」


 つまり、僕とソラが、正確にいえば、AI嫁やAI婿と疑似結婚生活しているモニター達が、全てとはいかないまでも、前例となるというわけだ。

 しかし、そうなると、考えていただけの養子、本気で探してみるか……。


「それでな、遺伝子提供を受けず、養子も取らず、それでも、お前の子を作る方法がある」


「そんなのあるわけ……」


 そこまで言って、気付いてしまった。

 人によっては、嫌悪感を覚える話。


「クローン技術。僕の遺伝子から、クローンを造りますか」


「正確には、そこから派生した技術だ。二歩も三歩も進んだ技術で、遺伝子組み換えやクローンなどは、だいぶ古い。お前のそれは、半世紀は前の知識だな」


 そこからは、難しすぎて口頭では着いていくだけで精一杯な話。

 要約すると、


・遺伝子組み換えを進歩させた技術。

・僕の遺伝子だけで子どもができる。

・病気や障害のリスクを抑えることができる。

 など。


 聞いた限りでは、良いことずくめな気もするけれど?


「問題は、金がかかるということだ。ざっとこれくらい。子ども一人は、国が保証してくれるそうだ。二人目が欲しいなら、まあ、頑張れ」


 資料に軽く目を通す。うん。無理。文字通り、桁が違う。今の年収より高いとか、さすがに無理。

 これほどの額を、受け持ってくれるとか、政府の並々ならぬ本気を感じてしまう。


「まあ、子どものことは気にするな。今は、それよりも必要なことがあるだろう?」


 そういって先輩は、USBメモリーを差し出してくる。


「なによりもまずは、ちゃんとモノを用意してから。物事には、順序と言うものが大切だろう?」


 ああ、もう。

 何で先輩は、こうもかっこいいのかな?

 僕が女だったら、なんてことをまた考えてしまったよ。


 諦めていた、僕の幸せのカタチが、今、目の前に、手の届くところに、ある。


 誰にでも、幸せを求める権利はあると思います。

 それが、頑張って生きている善人ならなおさらのこと。

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