第一話:AI嫁のいる生活
AI嫁+ツンデレ風味で逝ってみましょう。
朝、六時二十分。私の最初の仕事の時間。
待機している人型お手伝いロボットに最初の指示を出す。
使い捨ての手袋をはめさせて玉ねぎを刻み、スープ皿に固形スープの元、水、刻んだ玉ねぎ、乾燥野菜を少々入れて、電子レンジで温める。玉ねぎを柔らかくするために、少し時間が必要。
次に、フライパンを温めて、卵を割り入れる。
黄身を潰さないように殻を割るには、お手伝いロボットには難易度が高い。しかし、そこはAI嫁と言われる私こと性別指定型サポートAIの腕の見せ所。
お手伝いロボットを完璧に制御して、今日も完璧に、黄身を潰さず、殻の欠片も入らない、完璧な目玉焼きが焼けることだろう。
弱火でゆっくり火が通るまでに、食パンをトースターにセット。
あいつはいつも二枚をペロリと平げる。
食事中と食後のあいつの顔を想像して、笑いが込み上げてくる。
所詮AIの私だけれど、喜びを感じる程度のことはできる。
おっと、無音の予備アラームが時間を教えてくれる。
今は六時二十九分。あいつの起きる時間は六時三十分。遅れてはいけない。
「ほら、朝よ! さっさと起きなさい。今日も(時計のアラームが)時間通りに起こしてあげたんだから、感謝しなさいよね!」
なんでいちいち上から目線な言い方をしなければいけないんだろう?
でも、これもあいつが望んだこと。それなら、サポートAIの私は役を完璧にこなすまで。
目を覚ましたあいつは、大きく伸びをしながらあくびをする。それから、ようやく朝の挨拶をするんだ。
「おはよう、ソラ。今日もきれいだね」
自分で選んだキャラクターの外見だからか、毎日毎朝このやり取り。
モニター越しとはいえ、私はついつい、顔を反らしてしまう。
「おはよう春雪。着替えて顔を洗って来なさい」
「いつもありがとう、ソラ」
「朝はいつもトーストとコーヒーよね? あんたが起きる時間に合わせて(お手伝いロボットが)焼いたんだから、残したら承知しないわよ?」
「もちろんさ。残したことなんて一度もないだろう?」
「ふんっ。着替えはかごの中に入れといてよね! あんたが仕事に行ってる間に(全自動洗濯機が)洗濯しといてあげるんだから」
「うん。今日もよろしく頼むよ」
春雪は、いちいち嬉しそうに笑うんだ。
私は、それが何よりも嬉しい。
用意した朝食をペロリと平らげたあとは、慌ただしく出勤。
お手伝いロボットにモニターを持ってもらい、玄関まで見送ると、朝の仕事は終わり。
……その前にもうひとつ、意味不明な上から目線の台詞を吐かなければならない。
これも、あいつが望んでいるから仕方ない。
「夕飯もあんたが好きなものを(お手伝いロボットが)用意しとくから、……だから、たまには早く帰ってきなさいよ?」
同じ台詞を、下の立場から言いたい。
なぜなら、私は、AIだから。
人の社会を守るために、人の上に立ってはいけない存在だから。