死と転生、そして死
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「流石に二徹は体に来るな……。」
青年は独り言をつぶやきながらパソコンから顔を離し、チェアに寄りかかる。この状態にあと3秒でもいたら眠ってしまうのではないかというくらい体は疲労困憊だった。
ただひたすらにソシャゲでレベル上げのために耐久レースをこなす。そんな生活を二徹もしながら続けていれば当然、精神は参ってしまう。
友達がいるわけでもないので、外に遊びに行くわけでもなくただただ淡々とレベリングをこなす。それでも青年はやめようとはしなかった。
「よし!エナジードリンク買いに行くか!」
青年は体を無理やり起こして目的のものを買いにコンビニへと向かった。時刻は深夜2時を回ろうとし、三徹目に突入をしようとしているところであった。
「うぅ……久しぶりに体を動かすと結構きついな……。でも買えたしこれでまだまだイケるな!」
精神は屈強なため起きようとする意思はあるものの、体はそれを拒むため彼は千鳥足となりながらコンビニから出てきた。
普通の私服、普通の黒髪、普通の青年の顔、ただ彼には徹夜の影響のため目が腐っているような隈が出来ていた。
見た目は青年なのに後ろから見たらまるで泥酔している人見えるというくらい、ひどい歩き方をしながら青年は歩道を歩いていた。
「おっと。」
そして彼がバランスを崩し、歩道から車道にはみ出た瞬間―――
青年は車に轢かれた。
轢かれた音はかなり強烈なもので耳にまだ反響をしていた。そして横たわった青年の視界には車に搭乗していた人の叫ぶ姿や、車についた血痕が見えた。
体の疲れがあったせいか、痛みなど感じもせずに自分がなぜこのような状況にいるのかが分からなかった。薄れゆく意識の中でこの世界もゲームだったら……と考えてた。
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青年は『仲村 悠介』という名前であった。18歳のいたって普通のどこにでもいる高校生だ。ただ、高校3年生の夏休みに二徹もしてゲームをするような人間である、ということが周りの普通の高校生との違いであろうか。目が覚めて起き上がると先ほどまであった自動車やアスファルトなどは一つもなかった。
「ハハ……どこだよ……ここ……。」
彼は自分の置かれた状況にただ笑うしかなかった。先ほど轢かれて死んだという状況もしっかりと理解していたはずだった。しかし、いざ死んでみると実体があり、自由に動けるという状況に違和感を感じずにはいられなかった。
「さっき車に轢かれたはずだよな……。」
車にはねられた傷も痛みも全くなく、先ほどまで徹夜していたとは思えないほど頭はすっきりしていた。
中世ヨーロッパのような建物が広がり、人々の活気で満ちている市場が目に入った。コンクリートジャングルと呼ばれている東京に住んでいた彼からは石材によって作られた家はとても珍かった。
「そういえば俺のエナジードリンク!」
彼は自分の持っているものを確認するとしっかりと、エナジードリンクが右手にはあった。
それどころか、服装も今まで自分が着ていたものだった。しかし、周りの人々はみな昔の格好をしていたため、彼の柄物のTシャツが奇怪に思えたのだろうか。こちらのほうをまじまじと見ている者もいた。
「金は……?」
急いで衣服のポケットを漁ると出てきたのは先ほどまで持っていた財布があり、その中にはコンビニに出てくる段階で持っていた彼の全財産があった。
「俺の持っていた持ち物はすべてここにある……。」
彼はこの状況がかなり危ない状況であるということを理解するのには少しの時間を要した。何せこの世界で日本円が使える可能性なんてたかが知れているので、今の自分の財産は0といっても等しい状況であったためだ。
その前にまずこの地では言語が同じかすらわからない。
「店の人に話しかけて言葉が通じるか確かめるか……?」
しかし引きこもっていた彼にそんな行動力はなく、とりあえず通行の邪魔にならないよう道の端にしゃがみ、持っていたエナジードリンクを飲みながら考え事していた。
「これからどうするか……。確かにアニメや漫画の世界なら俺でも生き残れそうとか思っていたけど……シャレになんねえって……。RPGだったら王様とかから身支度金貰えるのにな……。でもマジで魔物とかいても俺戦えねえよ……。」
まずこの世界に『魔物』というものがいるのか、わからない状況だ。しかし馬車が通行していたため元の世界にいた動物はいることが確認できた。
彼は自分の今の状況が八方塞がりであるということに気づき、すでに泣き出しそうな様子で空を見上げていた。
「行動を起こすしかないのか……。」
冒険者ギルドってあるものなのかな?武器とかってどうやって調達するものなんだ?この街の物価は?いやその前にここがどこの街だかわかってすらいない。もしこの街の周りの魔物がかなり強いところだったら一撃でやられちゃうよ俺……。
彼は頭を抱え、下を向き、ただひたすらに自分が今これから何をすべきか考えていた。ぶつぶつと独り言をつぶやいていると、目の前に一枚の金貨が降ってきた。金貨は音を立てて何回かはねた後、彼の目の前で止まった。
「へ?」
彼が顔をあげると目の前には今まで見たこともないようなかわいい女性がこちらを微笑みながら見ていた。明るめな茶髪の髪色にセミロングのストレート。前髪は軽く切りそろえられた身長が160程の女性であった。
彼が女性に気づくと、両手を組み、女性は祈るような姿勢をし、
「この年で可哀そうに……。神はいつもあなたのそばに。」
と、言った。
え?俺のこと?もしかして物乞いと間違えられた!?だから金貨を俺に渡したのか!?
彼は焦り、急いで訂正をしようとした。
「ちょ、ちょ、ちょ待ってください!俺は物乞いじゃないです!」
「へ?」
女性もまた彼のように驚き、拍子の抜けた反応をする。
「確かにすごく困ってはいて悩みまくってはいましたけど!」
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「そうだったのですね……すみません、早とちりをしました……。」
「いえいえ、俺のほうこそ誤解を生むようなことをして申し訳なかったです。」
二人は市場をぶらぶらとしながらこの街についての会話をしていた。
「この街の外には魔物の類っているんですかね……?」
悠介が恐る恐る聞くと女性は不思議そうな顔で答えた。
「当り前じゃないですか?不思議なことを聞く人ですね。あ!もしかして生まれてからこの街の外へ行ったことはないんですか?」
「あ……あぁ、実はそうなんだよね!聞いたことはあっても見たことがなかったから都市伝説かと思っていたよ!」
彼は自分が別の世界からこの世界に来た者ということはバレないように必死に隠そうとした。
「この街の外の魔物って強いの?」
「というよりかはどこの街でも魔物の強さは同じくらいなんじゃないですかね?」
「そうなのか!?じゃあ魔物ってあまり強くないんじゃ……」
「いえ、そういうわけではありません。どこの街でも強い魔物と弱い魔物が共存しているということです。そうじゃないと魔物間での均衡が保てませんから。」
「あ、そういうことね……。そ……それでこの世界の魔法ってやつを君はできるの?」
魔物がいる中世ヨーロッパってことは魔法とか絶対あるだろ!
彼は自分の頭の中にあるラノベや漫画、アニメでためた知識を全力で引っ張り出そうとした。
「使えますよ。どの職業になるにしても少しは魔法が使えないといけませんからね。」
「へ、へぇ~。俺もそろそろ狩りとかに行ってみたかったんだよね!冒険者ギルドはどこにあるの?」
「冒険者ギルドならこの道をまっすぐ行ったところにありますよ。」
やっぱりか、大量にファンタジーもの読んどいて正解だったわ!結構あるもんだな。
「ありがとう!後さ……武器とかっていい店とか知ってる?なるべく値段の張らないところで……。」
「あぁ、それならあそこにあるお店なんかいいですよ。店主さんも優しいですしね。」
「そうなんだ。何から何まで助かるよ。後は……そうだ!自己紹介がまだだったね。俺は悠介。仲村 悠介って名前だ。君は?」
「私は、ルシール・カーライルです。ナカムラ ユウスケ……結構変わった名前ですね。
「あはは……よく言われるよ……。」
やっぱり西洋だと俺って浮いてる名前なのかな……。
「ユウスケさんは新人冒険者らしいので、もし迷惑でなければこれからクエストへ一緒に行きませんか?」
「あぁ、いいよ!」
正直こんなにいいチャンスはない。まだこちらの世界に来て、ほとんど過ごしていなかったので、戦いの指南をしてくれる人がいるとかなり助かる。
「着きました!ここが冒険者ギルドです!」
悠介は少しおどおどしながらギルドの中へと入った。
「すみませーん、冒険者ギルドに所属したいのですが……。」
「はい!こちらのほうへどうぞ。」
悠介は受付の女性のいる、カウンターのほうへと向かった。
「新人冒険家の方ですね、でしたらこちらのほうへサインをお願いいたします。その後、こちらの水晶へと手を触れてください。魔法の適性が見れます。」
「魔法の適性?」
「はい、魔法が得意かどうかですね。苦手でしたら戦士などをお勧めすることが出来ますし、潜在能力のチェックといったところですね。」
「なるほど……。」
言われるがままサインを書いた後、水晶に手を触れると水晶がまばゆく光を発した。
「そうですね……。」
女性はその水晶を見た後こちらの顔を困ったような顔で何度も見返し、視線が悠介の顔と水晶で往復をしている。もしかしたら俺の魔力値が常人よりも圧倒的に高いだとか超人的な身体能力といったことなど、彼は自分に対し期待に胸を躍らせていた。
「何かあったんですか?」
「いや、その……ですね……。」
「?」
「あなたの魔力適性が0なんですよ……。」
「え?」
悠介は正直耳を疑った。少なくともこの世界に来たからにはきっと俺は魔法なりは使えているだろうと思っていた。きっと彼は受付嬢が言っていたがしっかりと耳に入っていただろう。しかし、今の彼には予想もしていなかった事態が起きてしまったため、もう一度聞かざるを得なくなってしまっていた。
「あなたは魔法を……使うことが出来ません。」
しかし現実は非情であった。
もともとの世界で魔法を使えなかった人間がこの世界でどうやって魔法を使うのだという話だ。
はっきり言われてしまった受付嬢の『出来ません』という言葉が頭の中で何度も反響をしていた。
彼は自分の状況が全く分からなくなってしまっていたためただ愛想笑いしかできなくなっていた。そして頭の中をどうにか整理をしながら震えた声で彼女に質問をしようとした。
「ハハハ……そうですか……。で、でも戦士とかなら……。」
「戦士は前提条件として初級魔法であるエンチャント魔法が使えないといけませんので……。」
「じゃ、じゃあ俺にできる役職は何かありますか……?」
彼はこの瞬間ルシールの言っていたことを思い出した。『どの職業になるにしても少しは魔法が使えないといけませんからね!』
「すみません……存在しておりません。」
彼女は申し訳なさそうに一言小さな声で伝えた。
「そ、そうなのか……じゃあ職業になれないってこと……?俺どうやって戦うの?」
「職業になることが出来ないということは『絶対』に武器を装備し、戦うことはできません……。」
RPGは常に職業によって装備できる武器が存在している。例えば戦士ならば剣や槍などといった近接の武器。魔法使いや僧侶は杖など限定がされている。
「じゃあ素手で魔物を倒せばいいじゃない?」
彼はただ自分がどうやればこの状況から抜け出せるかに躍起になっていた。どうにかこの状況を抜け出さなくては俺はこの世界で生きていけないだろう。
「魔物相手に素手で戦うことはできません。魔物の体表には毒や棘といった防衛装置が付いていることが多いからです。仮にスライムなどといった毒も棘もない敵に攻撃を行ったとしても有効なダメージを与られることは現在確認されておりません。」
「そ……そっかぁ。まぁ、どうにかなるよ……。」
魂の抜けたような様子で悠介は伝えると、女性は難しい顔をしながら頑張ってくださいと、言った。
所詮元の世界で弱者だったものは『常に』、『どこにいても』弱者なのだろうか。
素手でしか戦えないという今の状況、そして俺に今冒険者というものはただの飾りでしかなくなった。
「どうでした?」
ルシールが笑顔で俺のことを迎え、どの職業になったかを聞いてきた。彼女に話そうか迷ったが彼は今誰も頼ることがない状況では彼女に失望され、捨てられることが恐怖でしかなかったため、切り出せなかった。
「あー……まだ特には決めてないかなー……。」
「あ、そうですか。やっぱり迷いますよね!自分のこれからの職業ともなれば!」
『これからの職業……か……。』
彼はもう何にもなることのできない状況のため、頭の中は真っ白になっていて、彼女の声を頭の中で復唱ばかりしていた。
「では本日のクエストは延期ということにしましょうか!街の案内を私がしますよ!」
「ありがとう……。」
俺が視線を落とし、感謝をしているとルシールが不思議そうにこちらの顔を覗いた。するとどこからか声が聞こえた。特に自分には関係のないことであろうと無視していると徐々に声が大きくなっていった。
『緊急!緊急!ゴブリンの群れが街に襲来しました!至急戦える冒険者は西門のほうへ集まってください!』
先ほどの受付嬢の大きな声が頭の中に響き渡った。これも魔法の類だろうか。
もう冒険者にはなれない自分にとってはどうでもいい状況だったので、聞いた後ぼーっとしてしまっていた。
「――ケ!ユウスケ!」
ルシールが俺のことを揺さぶりながら必死に声をかけていた。何やらかなり焦っている。俺がルシールにどうしたのか聞こうとした瞬間
「――――――え?」
脇腹に激痛が走った後、悠介の体は吹き飛ばされ地面にたたきつけられた。
「あ………ぁ……。」
痛みのせいでほとんど声も出せない状況で視線を脇腹へ移すと、槍に刺されたような跡が見えた。そして顔を少し上げるとゴブリンたちがニヤニヤしながらこちらを見下ろしていたのが分かった。
そこで自分に何が起こったのかやっと理解できたが、時すでに遅し。
ルシールのほうへ向くと彼女も吹き飛ばされたらしく地面にうつぶせになって倒れていた。
そう、自分の脇腹が槍に突き刺され、ゴブリンたちに吹き飛ばされたのだ。しかし彼が自分の状態に気づいたころには意識がもうろうとして目がかすんでいった。
『こんな世界……くそくらえ!』
声が出ない彼が最後に考えたことは『恐怖』よりも『怒り』、ただそれであった。
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気が付くと悠介は元いた世界の歩いていた道に立っていた。彼の後ろにはコンビニがあった。
「夢……だったのか……?」