78話 サンダーグリスリー(2)
「グルルアアアアアア!?」
いくら生命力が強くてタフでも痛みの強さまで変わるわけではない。
サンダーグリスリーは苦痛を伴った叫び声を上げながら、必死になってカズトとリディアを引き離そうとする。
しかしいくらサンダーグリスリーがカズトとリディアを囲っている結界を引き離そうとしてもピクリとも動かない。
それどころかサンダーグリスリーが加えた力の反動でも、サンダーグリスリーの体は動かない。
まるでピタリと地面に縫い付けられてしまっているようだ。
これはカズトが身につけている陸亀守護獣の指輪の自動防御機能の一つだ。
その機能で生成される結界は必要な魔力を強制的に着用者から吸い取ってできるわけだが、その性質は攻撃を防ぐだけではない。
敵からの攻撃によって結界ごと吹き飛ばされないように、それが接触している場所に強固に固定されるのだ。
そして今のカズト達の場合、生成された結界に接しているのは彼らの足下の地面とサンダーグリスリーの顔の一部である。
そのためサンダーグリスリーがいくら力を入れようともカズト達を囲む結界は動かないのである。
もっともそうして固定させるためにも使用者の魔力を強制的に吸い取るので、長時間その結界を張り続けるのは基本的に不可能なのだが。
しかしカズトは陸亀守護獣の指輪に膨大な量の魔力を吸い取られ続けているにも関わらず、ケロリとした様子で結界の中からサンダーグリスリーの奮闘を眺めていた。
「おー魔力が減ってく減ってく。こんなに大量に減っていくのは初めてだなあ」
「本当に体調は大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。魔力量だけは自信があるから」
「……前から思ってたけどカズト君の魔力量はおかしい。いくら陸亀守護獣の指輪が守ってくれても着用者の魔力を使うことには変わりないのに。ランクAの魔物相手に余裕過ぎる」
「いやあ、それほどでも」
リディアは今もずっとサンダーグリスリーの眼球から体内に向けて電流を流し続けているため、魔力が減っていく事による倦怠感を徐々に感じ始めている。
しかしサンダーグリスリーの攻撃を防ぎ続けているカズトは、陸亀守護獣の指輪の効果によって彼女より何百倍もの量の魔力を消費し続けているにも関わらず、余裕そうな表情で彼女の言葉に照れた様子を見せた。
それもそのはずで、カズトは神でさえも莫大と評した魔力の持ち主だ。
そのためサンダーグリスリー程度の相手に陸亀守護獣の指輪から魔力を吸い取られても、彼の全体の魔力量から見れば非常に微々たるものなのである。
するとカズトは照れた表情を一転させて真面目な顔で口を開いた。
「でもいくらこの状況が安全だからといってもずっとこうしているわけにはいかないからね。その内呼吸できなくなってくるから」
「分かってる」
カズトの言葉にリディアは首を縦に振って、サンダーグリスリーにさらに多くの雷を流し込み始めた。
カズトもまたリディアと同じようにサンダーグリスリーに魔法を次々と当てる。
今彼らを守っている陸亀守護獣の指輪の自動防御機能による結界は、カズトが使用することで最強の盾となっている。
しかしそれにも欠点がある。
その機能から生み出される結界の性質は決まっており、途中で変更する事ができないのだ。
その変更する事ができない性質の内、結界内外の空気の出入りまで防ぐというものがある。
主に毒ガスなどの対策の為だ。
これによって自動防御機能を使った場合、中にいるカズト達は外からの酸素の供給ができなくなるのだ。
そのため最強の盾に守られるのは時間制限がある。
その制限は結界内にカズトだけいるならば約十分、今はリディアと二人でいるので約五分といったところだ。
なのでその時間以内にサンダーグリスリーを倒さなければならない。
もっとも例え倒せなかったとしても、カズトはこの次にどうするかの策は考えてあるので特に問題はない。
彼はマーレジャイアントとの戦いでランクAの魔物のタフさを実感し、確実にサンダーグリスリーの息の根を止める事のできる作戦を練ってきているのだ。
それももちろん安全を最優先させた作戦だ。
そのため彼らの表情に焦りはない。
だがこの段階でサンダーグリスリーを倒す事が一番望ましいので、彼らは焦らずとも急いでサンダーグリスリーにダメージを与えていく。
カズトは次々に指を鳴らして魔法を発動させていく。
その中でももっとも多くダメージを与えている攻撃は、サンダーグリスリーの口内とカルロスが負わせた切り傷の内部にある血液の水分を水素と酸素に分解して水素爆発を起こさせる攻撃だろう。
この攻撃によってサンダーグリスリーの傷はドンドン広がっていき、絶え間なく血が流れ出る。
さらにカズトは大気中の窒素と酸素、そして水素から強引に硝酸を作り出してサンダーグリスリーに振りかけている。
徹底的にサンダーグリスリーの息の根を止めるつもりなのである。
そうしたカズトとリディアの攻撃によってサンダーグリスリーは体内に電流を流され、傷口の内部と口内を爆発させられ、全身を溶かされるといった想像を絶する苦痛を味わっている。
それも痛みから逃げることができずに一方的にダメージを受け続けているという拷問のような苦痛だ。
そのためサンダーグリスリーが次に行う行動は自然と痛みつけている者の排除となる。
しかしカズト達は結界に守られているため握り潰す事ができない。
そのため握り潰すこと以外の攻撃方法を採った。
下半身が地面に埋もれていながらも片足を上げ、勢いよく地に叩きつける。
「ガルルルアアアア!!」
「っ!? リディアさん!」
魔法で攻撃しながらもサンダーグリスリーの行動を観察していたカズトはその攻撃の仕草を見逃さなかった。
彼は咄嗟にリディアを抱き寄せる。
直後、倒れたサンダーグリスリーを中心に雷でできたドームが形成される。
それはサンダーグリスリーを中心に全方位に雷が放たれているため、当然カズトとリディアを巻き込む。
しかし彼らは陸亀守護獣の指輪の自動防御機能による結界で守られているためその雷は受けない……訳ではない。
確かに結界は張られているが、リディアの槍は結界の中と外を貫通してサンダーグリスリーの目玉を抉っている。
これは陸亀守護獣の指輪の利点でもあり欠点でもあるのだが、自動防御機能によって結界が張られるとき、その結界の中と外を隔てる物があればその物体を切断して結界が張られるのではなく、その物体を避けるように張られるのである。
つまり今サンダーグリスリーが放った雷は、槍を通してリディアを感電させんとしたのだ。
そのためそれをすぐさま見越したカズトは、リディアを抱き寄せて槍から手を離させ、その未来を回避させた。
しかし。
手負いとはいえランクAの魔物であるサンダーグリスリーの攻撃がそんな生易しいものであるはずがない。
たしかに陸亀守護獣の指輪がカズトの魔力を使用して張った結界は強固だが、槍に電気を帯びさせる事ができれば、例えそれを持っていなくてもカズト達を感電させる事ができる。
そう、サンダーグリスリーが放った強力な雷は、槍を経由してカズト達がいる結界内をことごとく蹂躙したのだ。




