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61話 ダンジョン都市奪還作戦二日目

 翌朝。

 リディアと一緒のベッドに入ってからは変に緊張していたが、目を瞑ったら意外にも早く寝れたカズトは彼女よりも先に目が覚めた。



(んん……ぬぁ!?)



 カズトが目を開けると同時にその視界に入ってきた光景を見て、思わず息を止めた。

 さらに声を出さないように瞬時に唇を噛んだのはファインプレーと言っても良い。

 そのおかげで大きな口内炎ができることは確定したが、同時にリディアを起こさなかったのだから。



(ち、近い……)



 そんなリディアはと言うと未だにぐっすりと眠っている。

 それもカズトと向かい合わせになり、額同士をくっつけた状態で。

 カズトはジンジンと痛む唇を無視して顔を後ろに反らし、次いで体をゆっくりと後退させる……が、動かない。



(あ、あれ?)



 どうしたのかと可動範囲が狭い状態の頭をなんとか動かしてその原因を探る。

 そして見つけた。

 なんとリディアの両手がカズトの体を抱き寄せるように彼の背中に回されてがっしりと掴んでいる。

 そしてよく見ればそれだけでなくリディアは足でもカズトの腰を捕まえるように絡ませていた。

 というのもリディア本人は大して意識していないが、彼女は布団を抱き枕のようにして寝る人間なのだ。

 そのためすぐ側にカズトという布団よりも抱きやすい存在がいれば、寝ているときでも無意識に彼に抱きついてしまう。

 しかしカズトからしてみればたまったものではない。

 彼はどうにか彼女の束縛を逃れようと、彼女を起こさないように慎重に身動きを取る。

 しかしリディアの身体能力は例え寝ていたとしてもカズトよりも遥かに高いため、彼女の束縛から逃れることができない。

 そんな彼は何度かリディアの腕の中でもぞもぞとしていたが、やがて諦めたようだ。



(だめだわ、これ。リディアさん力強すぎるわ)



 体へ向けていた意識を目の前の光景に向ける。

 すると視界いっぱいにリディアの顔があるため嫌でも彼女に注目してしまう。

 部屋の明かりを艶やかに反射させる銀色の髪や、ちょこんと赤く存在を主張している小さな唇。

 カズトは恥ずかしくなりなんとか別の所に視線を向けるも、彼女のきめ細やかな白い肌やほっそりとした手足が目に入る。

 さらには控えめな胸が自分の胸に接触しているため、そこからゆっくりとした相手の鼓動を感じる。



(うん。良くない。今の状況は精神的に非常に良くない)



 これから戦う身であるカズトにとって精神的な動揺は致命的な弱点となる。

 そのため彼は一度諦めたリディアからの脱出

にもう一度チャレンジする。



(とはいっても両手両足の動きは封じられてるし、体は密着しているから動かない。となれば後は魔法でどうにかするしかないんだけど……あ)



「んんぅ……」



 するとその時、リディアが小さく声をあげながら目を覚ました。

 その瞳は爽やかなエメラルドグリーンの色をしており、カズトの顔がドアップで映っている。



「……え」



 しばらくの間リディアは何が起こっているのか分からないといった様子で目の前のカズトを見ていたが、状況を理解したのか徐々に顔が赤くなっていく。



「わ、わわ……」

「あー、おはよう、リディアさん。後、腕と足を離してくれると助かる」

「え? ……え!? ご、ごめん!」



 ここでようやくリディアは自分の手足がカズトの体に絡みついていたのに気づいたのか、すぐさま彼から手足を離した。

 そしてようやく解放されたカズトはとりあえず彼女から距離を取り、普通の顔を装って口を開いた。



「とりあえずご飯にしようか」



 それに対してリディアは顔を赤らめながらも頷いた。


 朝食は昨晩の時のように外に出て、二人で焚き火を囲みながら干し肉ではない料理を味わった。

 その際カズトは顔を赤くしたリディアに何度も頭を下げられたが、彼は特に危害は無かったので笑って気にしないように言った。

 そしてしばらくの間二人で話していると、やがていつも通りに話せるようになった。

 それから彼らは亜空の大箱や使った食器などを全て片付け、戦う準備をする。



「いよいよだね、マーレジャイアントと戦うの。なんだか緊張してきたよ」

「大丈夫。対策はしっかりと建ててきたから」

「そう、だね。後は全力を出すことしかできないか」



 これから彼らが戦うマーレジャイアントはランクAの魔物だ。

 リディアはともかくカズトはこれまで戦ってきた魔物の中で一番強い相手だ。

 しかしリディアもまたランクAの魔物と戦ったのは他のパーティーと協力して倒したのが数回あるだけだ。

 そのためカズトだけでなくリディアもまた緊張していた。

 するとそんな彼らに声をかける者が現れた。



「よぉ、おはようさん。調子はどうだ?」

「カルロスさん、おはよう」

「おはよう。どうしたの」



 カルロスだ。彼は大きな斧を背中に背負っている。

 いつでも戦えるといった様相だ。



「なに、これからマーレジャイアントと戦うお前ぇさんらの様子を見に来ただけだ。とはいっても二人とも緊張してるみたいだな! まあランクAの魔物と戦うなんてそうそうあることじゃねぇから緊張するのも当たり前か! がっはっはっ!」



 そう言ってカルロスは豪快に笑った。

 そんな彼の様子を見て、カズトとリディアも思わずつられて笑顔になる。



「まあ、死なねえ程度に気楽にやれや。俺たちはできるだけお前らの近くにいるから、何かあったらすぐに駆けつけるからよ」

「ありがとう、カルロスさん。その時は頼むよ」

「全力は出す。けどもしダメだったらお願い」

「おう、任せとけ」



 そう言うとカルロスはまた別の場所に行って、他の冒険者達と言葉を交わす。

 どうやらカルロスは冒険者達の緊張をほぐしまわっているらしい。



「カルロスさん、良い人だね。おかげで緊張がほぐれたよ」

「私も」



 するとその時、遠くのほうからカズト達の下に向かってダニーが勢いよく走ってきた。



「リディアちゃあああああん! おはよーーげふぅ!?」

「カズト君、あっちに行こう。ここは汚い」



(うわぁ、痛そう……)



 リディアが光の速さでダニーに拳をめり込ませ黙らせた。

 そして相変わらず彼をゴミ扱いし、カズトの手を取ってそこから離れる。



「えっと、リディアさん。ダニーさんも何か用があるから来たんだと思うんだけど……」

「どうせナンパだから放っといて良い。それより作戦の再確認をするべき」

「そ、そうだね」



 リディアがカズトの手を握ったままスタスタと前を歩くので、彼は引っ張られるままに連れて行かれる。

 それから彼らはダニーが彼のパーティーメンバーに慣れた手つきで担がれるのを横目にしながら、マーレジャイアントと戦う作戦の最終確認を行った。


 そして一時間後。

 冒険者と騎士達は再び昨日と同じように並び、ダンジョン都市に向かって移動を開始した。



「ここらへんになると魔物の数が多いね。特にアリの魔物が多い」

「スタンビートが発生してからアンファングアントが配下をずっと増やしていただろうから仕方ない。でもたしかにこれは予想以上に多い」



 ダンジョン都市まで残り約一キロという地点まで来たところで、一行は既に余裕で四桁に達するほどの魔物を屠っていた。

 相手は全て低ランクの魔物のため怪我人の数はそれほどでもないが、死者も既に出ている。

 だがそれでもダンジョン都市を奪還するために一行は歩を進める。

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