47話 ダンジョン都市到着
ダンジョン都市に近づくにつれて魔物が多くなってきているのもそうだが、カズトはもう一つ気になること変化を見つけた。
「だんだんとアリの魔物が多くなってきてないか?」
これまで緑の草原の中にそれなりに別の色が混ざっているように魔物達がいたのだが、今になっては草原の中にコームアントやノーブルアントといった黒色のアリ魔物達がまるでゴマをバラまいたかのように存在している。
それらのアリ魔物達は積極的に他の魔物と戦っており、倒した魔物は強力な顎で掴んで引きずっている。
そしてその引きずっていく方向はダンジョン都市がある方向だ。
そんな様子があちこちで見られ、カズトは一抹の不安を感じた。
だがさらに進んでいくと、さらにカズトの不安を煽るような光景が彼の目に入ってくる。
「うわ……。気持ち悪……」
それは一匹のコームアントが引きずっているゴブリンの死体だ。
しかしその死体は普通の死体ではない。
体中が腫れ上がり、異形のものとなっているのだ。
そしてカズトには何故ゴブリンの死体がそうなっているのか見当がついた。
「蟻酸か……」
蟻酸が皮膚に接触すると重度の火傷をしたときのように水泡ができるのだ。
そのためおそらく異形のゴブリンの死体はコームアントの蟻酸を全身に浴びたのだろう。
「もしアリの魔物達を相手にしたとき、蟻酸攻撃には気をつけないとな」
これからカズトが行くのはダンジョン都市だ。
ダンジョンに入れば、もしかすると今周りにたくさんいるアリ魔物達と戦うことがあるかもしれない。
そのためカズトはアリ魔物達の動きを見てそれらの動きを分析していきながらダンジョン都市へと向かう。
そうしてさらにしばらくの間ダンジョン都市に向かって走っていると、ダンジョン都市の外壁の門が開いていた。
そしてそこから街の中がはっきりと見える位置までやってきた。
その辺りでカズトは明らかにおかしいと思える出来事に直面する。
「……何で街の中が魔物だらけなんだ?」
門の中からはゴブリンやフォレストウルフ、ホーンボアといった低ランクの魔物が外に出続けている。
それだけでなく街の東西南北の順に、背中に不気味な憤怒の顔の模様があるクモや全身雷雲のような深い灰色をしたクマ、さらには紺色の肌をした四つ目の巨人やヘラクレスオオカブトの角を大砲にしたような昆虫が存在している。
四体の生物は全て巨大で、当然魔物だ。
しかしそれ以上に目を引くのは街の真ん中に陣取るようにしている一際巨大なアリだ。
そのアリの腹部には無数の穴があり、そこからアリ魔物達がワラワラと出たり入ったりを繰り返している。
そして入っていくアリ魔物は全て魔物の死体を顎で掴んでいる。
その様子に嫌悪感を覚えるも、何故これまで出会ったアリ魔物達が他の魔物の死体をダンジョン都市に向かって引きずっていたのか合点がいった。
「あの巨大アリの穴の中に魔物の死体を運び込むためか」
しかしなぜ巨大アリの中に他のアリ達が魔物の死体を運び込んでいるのかが分からない。
だがその疑問の答えを解き明かすよりも先にするべきことがある。
「とにかく何故か知らないけどダンジョン都市には魔物が溢れている。多分ダンジョンがスタンビートを起こして魔物が溢れ出てきたからだと思うけど……。とにかくこのままじゃダンジョン都市に入るのは愚かここで生活ができそうにないな。一旦さっきの分かれ道まで戻ってバッセルの街とやらに行ってみるか」
オーランドに来るときにカズトは神からダンジョンの事もスタンビートの事も聞いている。
そのため彼には今のダンジョン都市が何故こうなっているのかの見当がついた。
そしてバッセルの街へと行くことに決めたカズトは、後方の金属箱の中で起こしていた水素爆発を止め、変わりに前方の金属箱の中で水素爆発を起こす。
そうしてダンジョン都市に向かっていた荷車のスピードを落とし、逆方向に発進させた。
するとダンジョン都市を離れるカズトは服の内側に隠してあるダイアナから貰った懐中時計を見て、胸中に渦巻く不安をポツリと呟く。
「日暮れまでに着くかなぁ……」
カズトは事前にマールの街からロットの街までの道のりとだいたいの距離の情報は仕入れていた。
しかしバッセルの街に行く予定は無かったため、それらの情報は仕入れていない。
道に関してはニーナの手書きの略地図に書かれている道の他に分岐点が現れない限り大丈夫だろう。
だが時間が問題だ。
朝早くにマールの街を出発したことと、道中荷車を猛スピードで飛ばしてきたおかげで今はまだ午後四時過ぎだ。
しかしここからバッセルの街までの距離次第ではそこに到着する頃には夜になっている可能性がある。
「……あまり気が進まないけど、限界まで飛ばすしかないか」
そう呟くと、カズトは水素爆発をさらに強く起こして荷車を前進させた。
そして太陽が半分ほど沈んだ頃。
カズトはボバン! ボバン! という凶悪な爆音を繰り返し鳴らしながらバッセルの街へと続く道を駆け抜ける。
ここが地球であれば、もはや苦情が来るレベルではなく警察が出動しているレベルである。
そんな爆音を辺りに撒き散らしながら、カズトは馬が走るスピードよりも速く荷車を走らせる。
彼の気分は高速道路を走る車に乗っている気分である。
するとその凶悪な音を鳴らしながら走ったかいがあったのか、バッセルの街の外壁が見えてきた。
「よかった。ギリギリだけど間にあいそうだ」
ホッと胸を撫で下ろすカズト。
しかしさらにバッセルの街に近づくと、街の中からワラワラと鎧を着た騎士達と冒険者らしき人間がたくさん出てきた。
「ん? どうしたんだ?」
冒険者だけでなく騎士達が出てきたということは街に何かしらの危険が迫っているということだ。
その何かしらの危険とは、たいていの場合高ランクの魔物の襲撃を指す。
「!? ……あれ?」
そのことに思い至ったカズトはすぐさま後ろを振り向いてどんな魔物が迫ってきているのか確認した。
しかし後ろには高ランクの魔物はおろか、スライムの一匹さえいない。
見えない程遠くにいるのかと思い、眼を細めて地平線の彼方を見るがやはりいない。
「まだ姿が見えないだけかな? 一応騎士さん達の邪魔にならないように街に入るか」
カズトは金属箱の中で起こす水素爆発の強さを調整して、門の正面で隊列を組んでいる騎士達とそれに混じっている冒険者達を避けるように道から外れ、門に近づく。
すると隊列を組んでいた騎士と冒険者達は慌てたように移動し、まるで街の中に入るのを許さないとばかりにカズトの正面で隊列を組み直した。
「……どゆこと?」
カズトはもう一度水素爆発の強さを調整し、組み直した隊列を避けるために道に戻る。
すると騎士達と冒険者達はまた、カズトの正面に回り込み隊列を組み直した。
カズトは念のため後ろを向いて、再度魔物がいないことを確認する。
そして悟った。
「どう見ても僕のこと警戒してるよね……」
それはそうである。
なにせカズトは未だにボバン! ボバン! という凶悪な爆音を辺りに撒き散らしながら荷車を走らせているのだから。
その音はそれなりに離れた距離にあるバッセルの街の中にまでしっかりと届いており、それを聞いた冒険者と騎士達が魔物の襲撃と勘違いして急いで門の外にやってきたのだ。
そして外に出てみれば、凶悪な爆音を鳴らしながら街に近づく荷車のようなものがいる。
それを魔物だと勘違いして彼らが隊列を組んだのは仕方無いと言えるだろう。
「でも、何で僕のことを警戒してるんだろう?」
しかしカズトは気づかない。
なぜなら彼は耳を真空の膜で覆っており、凶悪な爆音など殆ど聞こえていないのだから。




