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44話 第二波来襲

「マズいな……」



 それが戦場に出てきてその様子を直に見たブランドンの感想だった。

 彼は鎧と大槍を装備したあと、すぐさま騎士達を引き連れて戦場にやってきた。

 そのおかげで崩れかけていた戦線は維持された。

 むしろ冒険者達も遅れて助太刀に来てくれたため戦線が前に移動し、外に出てきた魔物達を押し返している状態だ。

 さらに言えば騎士と冒険者の被害は重軽傷者合わせて十数人と言ったところ。

 いずれも命に別状はない。

 だがそれでもブランドンは今の状態を見てマズいと言い切った。

 そしてそれは彼のそばにいたゾアルという名の騎士団長もまた同じように感じていた。



「そうですね。魔物一匹一匹の強さはランクGやランクHばかりなのでそれほどでもないですし、これぐらいの数なら冒険者達だけでも十分でしょう。ですがこれだけだとあまりにも数が少なすぎます」



 ダンジョンは階層構造になっている迷宮だ。

 そしてスタンビートとは正確に言えば、ダンジョン内の全ての魔物が出てくるわけではなく、一定の階層以上に住む全ての魔物が出てくるのだ。

 ちなみにこの一定の階層というのはその時のスタンビートによって変わる。


 ここまでの説明を聞けば、ブランドン達が直面している弱い魔物しか出てこないスタンビートは浅い階層に住んでいる魔物しか出てこない小さな規模のものなのだろうと察しがつく。

 だが、スタンビートの本当の恐ろしさはそれではない。


 スタンビートは地震と同じように第一波、第二波、第三波といった魔物の群れの波があるのだ。

 この波はそれまでの波の規模が小さければ小さいほど、そして波の数が多ければ多いほど、最後の波の規模が大きくなるという傾向がある。


 この波の数もどれだけあるのかはその時に起こったスタンビートによってまちまちだが、ブランドン達の経験から今起こっている第一波のスタンビートだけでそれが終わるとは思えなかった。



「ゾアル、次の波が来るまでに時間はまだあるはずだ。今の内に住民の避難を完了させろ」

「はっ!」



 ブランドンにそう命じられたゾアルはすぐさま身を翻してその場から駆けてゆく。

 その背中を見送ったブランドンは再度戦場に視線を戻した。







 それから数時間が経ち空が赤に染まってきた頃。



「来たぞ! 第二波だ! 総員構え!」



 第一波よりも明らかに個々の魔物の強さや全体的な数が上の群れがダンジョンの入り口から溢れ出てきた。

 ゾアルの声が、騒ぎ声だらけの戦場の中でもしっかりと各人の耳へと入る。

 その直後に魔物の群れと騎士達が衝突した。



『ウオオオオオオオオオ!』



 あちこちから騎士達の雄叫びが聞こえ、同時に魔物の鳴き声や剣戟のような音も鳴り響く。

 今度の波はランクGの上位の魔物やランクFの魔物が中心となっているため、先程よりも戦闘が激化した。

 そのおかげで冒険者の中には死者がちらほらと出始めた。

 だが基本的に騎士は並みの冒険者が経験する戦いよりも遥かに過酷な訓練を受けているため、まだ死者は出ていない。

 そんな戦場を見ながらブランドンは眼を細め、険しい表情をした。



「第一波の規模が小さすぎるから第二波は相当な波だと覚悟していたが、まさか第二波もまた小さいとはな。これは第三波が来ることは覚悟した方がいいな」



 遥か昔にこの街ができてから、スタンビートの記録はブランドンの家であるロット家に全て残っている。

 それらの記録から考えるに、今回のスタンビートは過去のスタンビートと比べてまだ小さすぎる。

 そのためブランドンはまだ第三波が残っていると予想したのだ。



「はあ……」



 そしてその予想は当たっているだろうと思うと彼の表情が憂鬱そうなものになり、ため息が出る。

 さらに季節はまだ夏でないのにも関わらず、スタンビートを前にして彼は激しく汗をかきだした。

 そして心を落ち着かせようとしているのか頻りに目を閉じて深呼吸をしている。

 そんな彼の様子を見た冒険者ギルドロット支部のギルドマスターであるドロテオが声をかけた。



「ブランドン殿。大丈夫ですか? なにやら普通ではないようにお見受けしますが」

「それはドロテオも同じだろう」



 ドロテオに声をかけられたブランドンが彼を見ると、彼もまた尋常ではない量の汗をかいていた。

 どうやら彼も今回のスタンビートは第三波も来るだろうという事に思い至ったらしい。

 ドロテオはぎこちない笑みを浮かべる。



「ははは。それもそうですね。でも仕方ないでしょう? なにせ第三波が来るスタンビートなんて約五百年ぶりなんですから。不安にもなりますよ」

「……そうだな」



 ここのダンジョンで起こるスタンビートの殆どは第二波までやってくる。

 それは過去のデータから明らかで、第三波まであるのは非常に稀だ。

 そして第二波までの時は、街に被害が出るのはどれだけ多くても一割といったところだ。

 殆ど被害を出さずに乗り越えた時だってあった。

 だが、第三波がやってきた約五百年前の街は、全体の七割も壊滅したのだ。

 そして記録ではその時の第三波の全ての魔物はランクDを越えており、最高でランクAのキマイラと呼ばれる魔物がいたと残っている。

 幸いその時は街にランクS冒険者がいたためなんとかなったらしいが、それでも街が七割も壊滅したのだ。

 それだけ第三波まで来るスタンビートは恐ろしい。


 そのためブランドンやドロテオが不安に思うのも仕方がない。



「ドロテオ、今この街にいる冒険者の中で最高ランクはいくつだ?」

「ランクAパーティーの暴風の宴と大地の目覚めですね。他に戦力になりそうなのはランクBですがソロ冒険者のリディアです。雷霊の二つ名持ちですよ」

「ほう? ソロ冒険者でしかも二つ名持ちか」



 冒険者の二つ名とは、端的に言えば冒険者ギルドが個人の冒険者につけた正式なニックネームである。

 ただし二つ名を得るには最低でもCランク以上であり、なおかつ特別な功績を挙げなければならない。

 そのため冒険者にとって二つ名とは正式にその実力を認められたという特別な意味を持つのだ。



「ランクS冒険者がいないのは痛いが、それだけの戦力があれば例えキマイラが現れたとしてもなんとかなりそうだな」



 そう言ってブランドンはぎこちない笑みを浮かべる。

 彼の中ではキマイラが現れてほしくないどころか街に被害を出さないでほしいという思いでいっぱいだった。

 だが現実的に考えて街に大きな被害が出るのは確実だ。

 そのためそちらに関してはもうなるべく考えないようにしていた。

 するとドロテオが不安そうな顔を隠しもせずに口を開く。


「……しかしブランドン殿。私には一つ懸念があります。戦力もそうですが……」

「……ああ、そうだな」


 ドロテオは上を見てそう言った。

 それだけでブランドンも彼が何を言いたいのか察したのか、同じ様に赤い空を見上げる。


「波は数時間ごとにやってくる。おそらく次の波が来るのは……」

「夜、になるでしょうな……」

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