42話 金属箱と荷車改造
カズトは化学や物理の知識は豊富だが、ファンタジーに関しては疎い。
そのためドワーフの男が出てきても特に何を思うでもなく会話をし始めた。
そしてドワーフである男もまた、カズトはドワーフに見慣れているのだろうと判断し、紙と羽ペン、そしてインクを取り出して会話を始めた。
「それで作って欲しいものってどんなやつだ? 一応誤解がないようにこの紙に簡単な絵を書いて説明してくれ」
「わかりました」
紙と羽ペンを渡されたカズトは初めて見た羽ペンに対して内心驚いたが、インクをつけて書くといった程度の使い方は知っている。
そのため特に苦戦することもなくサラサラと紙に書き始める。
そしてカズトが手を止めると、その紙には直方体の箱に煙突が一本横に刺さったような物とその大きさなどが描かれていた。
「端的に言えば大きな穴が空いた箱ですね。それもただの箱ではなく分厚い金属で作られた丈夫な箱です」
「穴のついた箱? そんなもんでいいのか?」
「はい。これを四つ欲しいんです。作れますか?」
「ああ。丁度今の時期は注文がないから、それくらいなら明日までには作れるぞ。値段は一つ大銀貨1枚、四つで4000ノアだな」
「わかりました。お願いします」
カズトはその場で大銀貨を4枚取り出してドワーフの男に渡す。
それを受け取ったドワーフの男は、すぐさま作業に取り掛かると言って店の奥へと戻っていった。
カズトもまた女性店員に、また明日来ますと言って店を出て《熊の手亭》に帰った。
そして借りている部屋に帰ってきた彼は、おもむろにバッグの中から全てのお金を取り出す。
「お金が、ない……」
その手には大銀貨が数枚と大銅貨や銅貨が僅かにあるばかり。
ダイアナ達の調査に同行した依頼で得た金貨三枚は荷車と穴があいた金属の箱、そして寝袋や保存食といった野宿に必要な物に全て費やしたのだ。
そのため手元にあるのはたったこれだけになった。
「まあ、この世界に来た最初の状態と比べれば遥かにましか。あの時は大銅貨一枚しか無かったからなぁ。それにあらかじめ宿代は余裕があるように払っているから追い出される心配はない」
しかしカズトは今よりも素寒貧の状態を経験しているため、なんとかなるだろうと考える。
加えてこれからカズトがやろうとしていることが成功すれば、一人でもダンジョン都市に行くことが可能となる。
そしてダンジョン都市に着けば魔物が狩り放題なので、お金の心配をそれほどしなくても良いという考えもあった。
次の日。
カズトは持ってきた荷車を止め、ドワーフの男の鍛冶屋に顔を出した。
金属でできた穴のあいた直方体の箱を受け取るためである。
「おう、これでいいか?」
「おお、まさに理想通りの形です。ありがとうございます」
「いいってことよ。それが俺の仕事だからな。一人で持って帰れるか?」
「大丈夫です。これでも冒険者なんで」
「そうかい。なら持っていきな」
ドワーフの男は店の奥から次々に金属の箱を持ち出し、カズトの腕に乗せていく。
しかしその箱は予想以上に重かったのか、四つの箱を持つ頃にはカズトの腕はプルプルと震えていた。
「……おい、本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。外に荷車を置いてあるんで」
「そうか。それなら良かった。じゃあまた何かあったらうちに来いよ」
「はい、ありがとうございました」
ドワーフの男にそう言われたカズトは作ってもらったばかりの箱を落とさないように気をつけながら、されど重いためできるだけ急ぎながら店を出る。
そして慎重に全ての箱を荷車に乗せ終わったカズトはそれを引っ張って外壁の外へと向かう。
「ふぬぅ! ふんぬぅぅぅぅ!」
……謎の力んだ声を上げながら。
これは余談だが彼はその調子のまま道を進んで行ったため、外壁の外に行くまでに変質者扱いされて数人の騎士に捕まりそうになった。
「いやー、ありがとうございましまた! おかげで助かりましたよ!」
騎士達に捕まりそうになった後、カズトはすぐさま事情を説明した。
すると騎士達は親切にもカズトの手伝いを申し出た。
そして彼らは無事外壁の外にやってきて今に至る。
「それは良かったが、次回からはこういうことはするなよ」
「……はい」
騎士達に捕まりそうになったことで自分でも端から見たら変質者であるということを自覚したのか、カズトは思いのほか落ち込んだ様子を見せた。
その様子を見て、これなら次からは同じことをしないだろうと判断したのか、騎士達は街の治安を守るための巡回へと戻っていった。
「よし。作業に取り掛かるか」
騎士達が門の中に入っていったのを見送ったカズトは、早速とばかりにあらかじめ荷車に入れておいた大工道具と木材、そして釘を取り出す。
これらの大工道具はカズトが《熊の手亭》の主人に交渉して貸してもらった物で、木材と釘は市場に行ったときに別の用途に使おうと思って買っておいた物だ。
(まさか木材と釘を本当に大工仕事のために使うとは思ってなかったけど、まあいいか)
荷車に乗りこんで早速作業を開始する。
まずはギコギコと音を鳴らしながら、ノコギリで荷車の正面と背面の壁を取っ払う。
次に荷車の正面と背面に、金属の箱を穴がそれぞれ外側に向くように設置。
そして先ほど取っ払った壁を金属の箱の穴が空いている面とは反対の面にぴったりとくっつけるように設置する。
もちろん釘を打ってその壁を固定するのも忘れない。
最後に市場で買った木材と釘を使って金属の箱がビクともしないように固定すれば完成だ。
「ふぅ。大工仕事なんて技術の授業でしかやったことはないけど、案外なんとかなるもんだな」
額の汗を拭いながらもカズトは一人そうこぼす。
そして完成した荷車を引っ張ってできるだけ門から離れた場所に行く。
「ふんぬ……あ、これやっちゃだめだった」
カズトは一度失敗したら学ぶ子である。
それからカズトはなんとか無言で荷車を門からある程度離れた場所まで引っ張ってきた。
その際スライムが三匹程バラバラに襲いかかってきたが、アームホーンゴリラと魔人を倒した経験を得たカズトにとってそれらは雑魚でしかなかった。
「さて、実験を始める前の準備をしますか」
カズトはダイアナに説明したことを実現するにあたって、失敗すればそれは自分が死ぬかもしれない程危険な事なのだという事は理解している。
そのためいきなり本番をするのではなく、前もって実験をしてそれが上手く行くかどうかを確かめる事にしたのだ。
もっともカズトはこれまでの経験から、それが失敗することは無いだろうと確信しているため、実験というより練習という意識が強いのだが。
まずカズトは金属の箱にそれぞれ魔力を流し込み始めた。
こうすることによって金属の箱の強度が上がるのである。
そうしてカズトは二時間ほどかけて自身が持っている、神でさえも莫大と評した魔力量の内、一割をも使って四つの箱に魔力を流し終えた。
これでそれぞれの金属の箱はもはやカズトの魔法をもってしても壊せない程の強度を得た。
「これで準備完了、と。それじゃあ実験を始めるとしますか!」




