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40話 ただし魔法士を除く

 その依頼書にあるいくつかの項目の内、ある一カ所にこう書かれていた。


 依頼を受ける条件:ランクFまたはランクEの冒険者。ただし魔法士を除く。



「そんな……まさか、魔法士だからってだけで、依頼が受けられないだなんて……」



 ショックのあまり床に崩れ落ちたカズトは呻くようにそう呟く。

 それを聞いたマルティンは急に床に崩れ落ちたカズトに驚いていたがすぐさま納得し、やや気まずそうな顔をした。

 するとそこでニーナがマルティンに声をかけた。



「あの、マルティンさん。どうかカズトさんを護衛依頼に参加させてあげることはできませんか? 彼はたしかに魔法士ですが、その実力は折り紙付きです。ですのでなんとか護衛として雇うことはできないでしょうか?」



「……申し訳無いですが、それはできかねます。こちらも商品を扱っているので、確実に次の街の売り場に行きたいのです。ですが魔法士といえば、他はともかく戦闘には向かないのでしょう? それなら他の剣士や槍士の方を雇う方が確実では無いですか」



「たしかにそうかもしれませんが、カズトさんはこう見えてもEランク冒険者です。ランクF冒険者を雇うよりも遥かに確実だと思いますよ」



(こう見えてもって、僕は普段どんな風に見られているんだ……)



 崩れ落ちながらも聞き耳だけはしっかりと立てているカズトは、ニーナの言葉に半ば突っ込むようにそう思った。

 だが今はニーナが自分のためにマルティンを説得してくれているのだから、余計な事は言わない。

 するとニーナの言葉を聞いてしばらくの間考え込んでいたマルティンが口を開いた。



「……いえ、カズトさんには申し訳ありませんが、今回はこのままということでお願いします」



「そう、ですか。無理を言って申し訳ありませんでした」



「いえいえ。こちらこそすみません。カズトさん、もし次回ご縁があれば、その時はよろしくお願いします」



「……はい。その時はこちらこそよろしくお願いします……」



 マルティンは崩れ落ちたカズトに申し訳なさそうな声をかけてそう言うと、冒険者ギルドを出て行った。

 するとニーナもまたカズトに申し訳なさそうな顔をしながら声をかける。



「すいません、カズトさん。お力になれなくて」



「いえ、気にしないでください。それより僕のためにマルティンさんに考え直すよう言って下さってありがとうございました」



 カズトは立ち上がりながらニーナに向かってそう言った。

 するとこれまでマルティンがいたため大人しくしていたベラがここぞとばかりに口を開く。



「ま、これが魔法士に対する扱いってやつよ。嫌だったら冒険者止めてどっか行きなさい。シッシッ」



 そう言ってベラはカズトに向けて手で追い払うような仕草をする。

 それを見たニーナがすぐさまベラを諫めようとするも、その前にカズトが口を開いた。



「自分はとりあえず一旦帰って、また出直して来ます。ニーナさん、今日はありがとうございました」



 そう言って頭を下げてから、彼は肩を落としながら《熊の手亭》に帰った。

 どうやら今日ばかりはベラの悪口も彼の心にダメージを与えたみたいで、普段カズトを毛嫌いしていたベラは愉快そうな顔をした。

 その後、彼女はニーナからこっぴどく叱られたのだが、自業自得である。







 夜。

 あれから《熊の手亭》に帰ってきたカズトは他に何かロットの街へと安全に行ける方法が無いかひたすら考えを巡らせた。

 しかし結局何も思い浮かばなかった彼は晩御飯を食べた後、約束していたダイアナとの会話の中で相談することにした。



「ーーってことがあったんだ。だからロットの街にどうやって行くか途方に暮れているんだよ」



「なるほど、そんな事が……。たしかに魔法士は戦闘に向かないと言われているから、商人としては魔法士を外したくなる気持ちは分からないでも無いが……。うーむ、それは困ったな」



「そうなんだよ」



 カズトは思わずはあ、とため息を吐く。

 そんな彼から今日何があったのかを聞いたダイアナは、不愉快そうに眉をしかめながらそう言った。

 だがいくら不愉快そうにしても彼女もまた、カズトが魔法士だと初めて聞いた時はその実力を疑ったのだから、マルティンのことを悪く言うようなことはできない。



「何かいい方法とかない?」



「そうだな……」



 カズトにそう相談されたダイアナは、腕を組んでしばしの間考える。

 しかし彼女もまた良い案が思い浮かばないのか、しきりに腕を組んだり低くうなり声をあげたりと繰り返している。



「……すまない、カズト。良い方法が全く思いつかない。さすがに私の権限で騎士団を動かすわけにはいかないし、私も今は仕事中だからカズトを向かいにいくわけにはいかないんだ……。すまないな」



 申し訳そうな顔した後、シュンと落ち込むダイアナ。

 彼女はカズトが困っているというのに、何もできない自分が残念でならないのだ。

 そんな彼女を見てカズトは慌てた。



「いやいや、ダイアナが謝る必要なんて全くないよ。こうやって相談に乗ってくれていること自体ありがたいしね」



 そう言うとカズトもまた腕を組んで再び考え始める。

 その様子を見てダイアナもまた、ホログラムの画面の向こうで考え始める。

 しかししばらくしても良い案は出ない。

 やがてダイアナは結果が分かり切っている提案をするしかなくなった。



「……カズト、この際だから馬に乗る練習をしたらどうだ?」



「うーん、馬かあ……。馬は落馬した時が怖いからなぁ」



 カズトはこれまで馬に乗ったことはないが、その知識だけはある。

 そして同時に落馬すればどれだけ危険かも知識として知ってあるため、馬に乗るには抵抗があった。

 そしてそれはダイアナも知っていたので、これまで積極的に勧めなかったのだ。



(源頼朝が落馬して死んだってのは有名な話しだからなぁ……)



 そう言った理由でカズトは馬に乗ることに対する忌避感がある。



「たしかに落馬すれば命の危険はある。だがそれ以外に方法は無いぞ? 馬の一頭ぐらいなら大金貨で買えるからな。カズトだったらそれぐらい稼げるだろう?」



「まあ、稼ごうと思えば時間がかかるだろうけど稼げると思うよ? でも馬かぁ……。それなら馬車を買った方が安全そう……あ!」



 カズトがダイアナの意見を聞いてもなお気が引けた様子でいると、彼は何かに気づいたのか唐突に声を上げた。



「そうか! 馬車か!」



「んん? 馬車がどうかしたのか?」



「うん。馬車なら馬に乗るほど危険じゃないし、馬に乗っている時と変わらないスピードが出せるんだよ!」



「いや、馬車は単騎よりも遅いぞ? それはこの前馬車に乗ったカズトも知っているだろう?」



 突然カズトが意味のよく分からないことを話し出したため、困惑しながらも突っ込みを入れるダイアナ。

 しかしカズトはそんな事は百も承知だとばかりに、彼が思い描いている内容をダイアナに話し始めた。

 それを聞いたダイアナは自分でも表情のコントロールができないほど、顔を引きつらせる。



「お、おい、カズト? 君の言っていることは分かるのだが、それは馬に乗るより危険な事じゃ無いか?」



「それは上手くコントロールすれば大丈夫だよ!」



「そ、そこまで自信満々なら大丈夫、なのか? とにかく気をつけろよ」



 カズトの自信に満ちた言葉を聞いても、ダイアナの不安は大きくなるばかりであった。

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