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37話 対話の腕輪

 宿に帰ったカズトは紙切れに書かれてあった通りに袋の中から青色の腕輪を取り出し、それを身に着ける。



「それで? これに魔力を流し続ければいいのか」



 カズトは紙切れを片手に持ってそれを読みながら、そこに書かれてあるように腕輪に魔力を流す。

 すると僅かに振動した後、目の前にホログラムの画面のような物が浮かび上がった。

 そしてそこに映っているのは……。



「ダイアナ!」



「わぁ!? カズトか! 急に大声を出されたから驚いたぞ」



 目の前のホログラムの画面にはダイアナの顔が鮮明に映っていた。

 カズトが思わず画面の中のダイアナに大声で呼びかけると、彼女は驚いた声を出してそう言った。

 だがそこに映っているダイアナは決して嫌な様子はしておらず、むしろ嬉しそうだ。

 そんな彼女の顔を見て思わずカズトも笑顔になる。

 が、先に言わなければならないことを思い出した。



「そうだ! ダイアナ、見送りに行かなくてごめん。すっかり寝坊してしまって……。必ず行くって言ったのに、嘘ついて本当にごめん……」



 そう言ってカズトはダイアナに頭を下げる。

 しかしダイアナは、そんな事は気にしてないと言ってカズトの顔を上げるように言った。



「大方疲れが溜まっていたせいでぐっすりと寝ていたんだろう? それは仕方ないさ。私も今のスケジュールに慣れるまでは寝坊してばっかりだったからな。だから気にしないでくれ」



「そうは言っても、本当にごめん」



 例えダイアナに気にしないよう言われても、それでもカズトは謝ることしかできなかった。

 そんな彼の様子にダイアナは苦笑するも、それなら、と話しを続ける。



「それなら、一つ私の願いを聞いてくれないか?」



「うん。もちろんいいよ」



 カズトはもちろんダイアナの言葉に即座に頷いた。

 するとダイアナは少し顔を俯けて顔を赤くし、そして何かに気づいたように顔を上げた。



「そ、そうだ! 今更だが紙に書いた通りに周りに誰もいない場所にいるんだよな!? こんな会話を聞かれることもまずいが、それ以上にこれを聞かれたら羞恥で悶え死にそうだ」



「そ、そんなに恥ずかしいことなの? まあ、今は宿の部屋にいるから周りには誰もいないよ」



「そうか、それはよかった」



 ふぅ、と一つ安堵のため息をつくダイアナ。

 そして再び顔を赤くし、やがて意を決したように口を開いた。



「わ、私と寝る前でいいから、毎日、話しをしてくれないか!?」



「ま、毎日!?」



 カズトはどんな頼み事でも不可能でない範囲で引き受けようと心の中で決めていたが、さすがにそれは予想していなかった。

 そのため面食らって思わずそう言ってしまったカズトだったが、ダイアナはその言葉を聞き、あわてた様子で訂正しだした。



「す、すまん。えっと、毎日は流石に厳しいよな。そ、それなら、一週間に三回程度で、どうだろうか?」



 慌てながらもカズトの様子を伺うようにそう言うダイアナ。

 そんな彼女の様子を見て、不思議と落ち着いたカズトは自然に笑顔を浮かべながら口を開いた。



「一週間に三回程度どころか、僕もダイアナと毎日話したいぐらいだよ。でも、依頼の関係で話せない時とかはあると思うから、そのときは事前に連絡することにするよ」



「本当か! それなら、これから寝る前に毎日話せるんだな!」



 やった! とダイアナは小さく喜びの声を上げる。

 その可愛らしい様子は普段凜としてる彼女とのギャップもあり、カズトは彼女のことを可愛いと思った。

 しかしその想いは顔に出さずに、未だにホログラムの画面の向こうで喜んでいるダイアナに声をかける。



「それよりこの対話の腕輪なんだけど」



 カズトは腕に着けたそれを指差してそう言った。

 対話の腕輪とはダイアナがカズトにあげた物の内の一つで、今の彼らのように同じ対話の腕輪を着けている者同士だとこうして会話をすることが可能なのである。

 しかしこうして会話をすることができるのは、対となっているもう一つの対話の腕輪を着けている者のみである。

 対ではない対話の腕輪を持っている者とは会話することができない。



「ん? 対話の腕輪がどうかしたのか?」



「会話できる時間って何時間までとか制限はあるのかなと思って」



「いや、そのような制限はないぞ。ただ、話す時間に応じて魔力が必要となるからそこだけは気をつけねばならない」



「そうなんだ。あと、洞窟の中では会話できないとかってあったりする?」



「それも大丈夫だ。どこでも会話する事ができるぞ」



 そう言ったダイアナはとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 カズトも釣られるように笑顔になる。



「そうだ。紙にも一応書いたが、他にも紋章が入った懐中時計があるだろ?」



「うん。これって僕がもらっても本当によかったの?」



「もちろんだ! カズトには命を救われたから、そのお礼として受け取ってくれ。さすがに野宿での料理と寝袋だけでお終いというのは申し訳ないからな。そ、それに……いや、なんでもない!」



 ダイアナは突然顔を赤くして指をもじもじとさせたが、その先を言う勇気が無かったのかそうごまかした。

 カズトはその様子を不思議に思うも、素直にそれを受け取ることにする。



「わかった。それならありがたく貰っておくよ」



「ああ、そうしてくれ。ただし、取り扱いには気をつけてくれよ。紙にも書いたが、王家の紋章が入ったその懐中時計は王族と親しい者しか持っていない物だ。だからそれを見せつければバックに私達王族がついていることの証明になる」



「うん。分かってる。なくしたりしないように常にこうやって身に着けておくようにするつもりだよ」



 カズトはそう言って、懐中時計についているチェーンを首にかけた。

 そしてその懐中時計を服の内側に入れ、隠す。

 それを見たダイアナは満足そうに頷いた。


 それから二人は他愛ない話しをしながらのんびりと時間を過ごす。



「そうだ、ダイアナって今どこに向かっているの?」



「今はマールの街から西に行ったところにあるアシュリーの街に向かっている。そこからさらに西に進んで一旦王都に帰るつもりだ。父上に魔人を討伐したことを報告せねばならんからな」



「そっか。大変だね」



「なに、そうでもないさ。カズトはどうするんだ?」



「どうって?」



「マールの街に留まって依頼を受け続けて生活をするのか、はたまた別の街に行って旅をするのか、だ」



 冒険者は基本的に自由だ。

 そのため一つの街にこだわってそこで依頼を受け続けて生活をする者もいれば、世界中を旅しながら生活をする者もいる。

 だからダイアナはこれからカズトがどのようにして生活していくのか気になったのだろう。



「ああ、なるほど、そういうことね。僕は別の街に行って旅をするつもりだよ。いろんなところを見て回りたいからね」



「そうか。なら次はダンジョン都市に行ってみたらどうだ?」



「ダンジョン都市? たしかダンジョンで採れる物を中心にして栄えている都市のことだっけ?」



「そうだ。そこのダンジョンなら安全マージンをしっかりと取れば死ぬことはない。なにせ深く潜る程敵の強さも上がっていくからな。いきなり強敵が出てくることはないぞ。それに運が良ければカズトが欲しがっていた亜空の腕輪もそこで手に入る」



「……そっか。たしかに亜空の腕輪は欲しいし、安全マージンをしっかりと取れば死なないのなら魅力的な提案だな。……なら、次はダンジョン都市に行こうかな」



 ダイアナの提案と説明を聞いてしばらく考え込んだ後、カズトはそう言って頷いた。

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