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30話 魔人戦(7)

「くそ! くそ! くそ!」



 魔人がイライラとした様子を隠しもせずに次々と炎の魔法を放つ。

 その炎は蛇や狼だけでなく、熊やカラス、ネズミといった様々な動物の形をしている。

 しかし。



(姿形に惑わされちゃダメだ。これらの魔法の本質は全て炎。さっきの火柱と同じようにイメージを構築する!)



 パチン!



 すると一瞬で炎の動物達が消え去った。



「何故だ! 何故なんだ!?」



 魔人はその現実が受け入れられないのか、頭をかきむしりひたすらわめく。

 だがそれは誰がどう見ても隙だ。

 カズトはそんな魔人の姿を目にしながら、冷静にイメージを構築していく。



(空気中の酸素を集めて細いラインを形成。そして発火!)



 パチン!



 カズトは発火地点から魔人の顔まで酸素の道を繋ぎ、火をつけた。

 すると火はその酸素の道を凄まじい勢いで焼いていく。

 火は殆ど一瞬で酸素の道を焼いていき、全体から見ればそれはさながら炎の稲妻とでも呼べるようなものだ。

 それが醜く喚いている魔人の顔に命中する。



「ぐが!?」



 炎の稲妻を正面から食らった魔人は顔を後ろに背けた。

 だが命中したそれは魔人の肌を軽く焼いただけであり、致命傷には程遠い。

 そのためカズトの攻撃は、マジックキャンセルされて怒り狂っている魔人に油を注ぐだけであった。



「よくも、よくも人間如きが俺に、よりによって魔法に特化している俺に! 魔法攻撃を食らわせてくれたなぁぁぁぁ!」



 これまで魔人は魔法攻撃をされても、その優れたイメージ力により全てマジックキャンセルしてきた。

 そのため怒り狂って冷静で無かったとはいえ、カズトの魔法をマジックキャンセルする前に食らったのは魔人のプライドをひどく傷つけた。

 もっとも、魔人のイメージ力が優れているのはオーランドを基準にしたからであって、化学や物理の知識を利用したカズトのイメージ力の前には塵にも等しいのだが。


 対してカズトはそんな魔人を冷静に観察しつつ、先程の魔法について分析していた。



(威力が低すぎるな。まあ、速度重視の魔法だからこれでもいいんだけど。それに都合よく怒ってくれているみたいだし)



 怒りは時に冷静さを奪いとる。

 そして冷静さを欠いた者の行動は力任せの単調になりやすい。

 それを見越した上でカズトは魔人の次の行動に注目していた。

 そしてカズトのその予想は当たる。



「こいつで消し炭にしてやる!」



 魔人が手のひらを頭上に掲げた。

 すると魔人の頭上に小さな炎球が出現した。

 その炎球に魔人はありったけの魔力を注いでいく。

 その小さな炎球は徐々に大きくなっていく。

 それだけでなく輝きや色まで変化していく。

 その大きさは広間の天井の半分を埋め尽くす程大きい。

 その輝きは離れているカズト達の肌をジリジリと焼く程強い。

 その色はもはや赤を通り越し、白に染まっている。

 それでもまだその炎球は膨張を続ける。


 カズトはその炎球を見ながら指を一つ鳴らした。



 パチン!



 しかし、炎球が消えることはない。

 今もまだ膨張し続けている。



「ふははははは! どうやら貴様でもこれはマジックキャンセルできないようだなぁ!」



 魔人がカズトがマジックキャンセルに失敗したことを理解し、高笑いを浮かべる。

 だがそれでも魔人はその炎球に魔力を注ぎ続ける。


 そしてカズトがマジックキャンセルに失敗したことを理解したのは魔人だけではない。



「カズト……!」



 未だにカズトの左腕の中にいるダイアナもまた、そのことに気づいたのだ。

 ダイアナはカズトの服をキュッと掴み、その横顔を不安そうな瞳で見上げる。

 しかしカズトはダイアナに目を向けず、ただただ真剣な目で炎球をジッと見つめていた。

 そのことにまだ希望があるのかと思い、思わずカズトに尋ねてしまう。



「な、なぁ、カズト。あの炎球、いや太陽は君でも消すことは無理なのか……?」



 ダイアナ達の目に映るその炎球は、彼女の言う通りもはや太陽というに相応しいほど大きく、明るく輝いていた。

 だがカズトはその問いに答えず、ジッと太陽を見ているのみ。

 その様子を答えと見たのか、ダイアナは一人葛藤し始める。


 カズトが太陽を消すことができなければ自分達は死ぬだけだ。


 なら、せめて最後に、初めて好きになった男にこの想いを伝えたい。


 短い、たった数分の恋だったけれど、それでも自分は幸せだった、と。


 でも、恥ずかしい。


 この想いをカズトに伝えるのがとてつもなく恥ずかしい。


 でも、でも! 今この時を逃したら、もうカズトにこの想いを伝えるチャンスは無くなる!


 どうするか決めた。

 ダイアナは意を決して、それこそ強大な魔物に立ち向かう時よりもなお勇気を出して、口を開く。



「か、カズト! わ、私は、君のことがすーー」



「ん? ああ、すいません。少しイメージを構築するのに集中してました。なにせあれだけ大きな炎球ですから、少し手間取ってしまって。それで、どうしたんですか?」



「え? あ、えっと、その……」



 タイミング悪く告白一歩手前でカズトがダイアナの方に顔を振り向けたため、それまでその横顔を見ていたダイアナは突然カズトと目があってしどろもどろになる。

 彼女の中には恥ずかしさやら想いを伝えられなかった悔しさやらがない交ぜになり、頭が真っ白になる。

 だがそこでカズトの顔を見上げていたダイアナの目に、今もなお膨張している炎球が目に入った。



「そ、そうだ! カズト、あの太陽はどうするんだ!?」



「え? 太陽?」



 ダイアナの言葉を聞いたカズトは思いもよらなかったことを言われて、目をパチクリとさせる。

 すると未だに炎球に魔力を注ぎ続けている魔人がその言葉を聞き、高笑いした。



「ふははははは! よく分かったな、女! そうだ。この魔法は俺の並外れたイメージ力を結集させて作った太陽そのものなのだ!」



 その言葉を聞き、カズトは今一度太陽に目を向ける。



「そうか。炎球だとばかり思っていたから、太陽だとは思わなかった。だとしたらイメージを構築し直す時間が……いや、待てよ?」



 一人太陽を睨みつけながらカズトはイメージを構築し直そうとしたが、そこでふとしたことを思いついた。

 彼は少し離れた場所に空中から水を生成させる。

 それを見て確信した。



「王女さま。あれは太陽なんかじゃありません。これまで魔人が使っていたのと同じ炎球ですよ」



「そうなの、か?」



「はい。太陽は水素が核融合してヘリウムになるときに出る熱と光のエネルギーの塊ですからね」



「すいそ? かくゆうごう? ヘリウム?」



 カズトはさも当然のように説明したが、オーランドでは化学や物理が発展していないため、ダイアナにはカズトが何を言っているのか分からない。

 それをダイアナの反応から理解したカズトはどう説明したものかと考える。

 しかしその説明をするには時間が足りないし、ダイアナには前提となる知識も欠けている。

 そのためダイアナが求めているであろう言葉を口にすることにした。



「えーっと、とりあえずあの炎球はこれまでと同じように消せるって事です」

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