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26話 魔人戦(3)

「があああああああ!」



 魔人が肘を抑えながら叫び声を上げる。

 だが結論から言えば、偶然魔人が後ろを振り返ったのは奇跡といっていい。

 そのおかげで体を両断されることなく右肘から先だけで済んだのだから。



「ちっ」



 だが腕を斬った人物は魔人を睨みつけながら、忌々しそうに舌打ちをした。

 そして二撃目を放つも魔人が半透明の板をドーム状に展開しその人物の攻撃を防いでみせた。

 魔人もまた、忌々しそうにその人物を睨みつける。



「なんで、おまえが生きてやがる……!」



 だがその声をかき消すように、セリオとダイアナがその人物の名前を呼んだ。



「「メイベル!?」」



「すいません。へまをしてしまいました」



 メイベルはハルバードを半透明の板に押し付け、魔人を睨みつけたまま二人にそう謝罪した。

 彼女の首には先程まで黒く焦げていた面影はちっともなく、何事もなかったかのような綺麗な肌色をしている。

 そんな彼女が続けて話す。



「それよりも殿下、セリオ。この魔人は攻撃と防御を同時にできないみたいです。だから次々に攻撃を加えて、こいつが攻撃できないようにしてください。そうすればサンケツなるものに陥らせることができるかもしれないそうです」



「サンケツ? なんだそれは?」



 ダイアナが途中までメイベルの話しを理解していたが、初めて聞くその理解できない単語に疑問を持ち質問する。

 しかしメイベルも理解していないのか、僅かに首を傾げる。



「さあ、なんでしょうか? 私も分かりません。でも、カズトが言うにはそれに陥らせれば必ず勝てるそうですよ」



 カズト。

 その名前が出たことによって、ダイアナとセリオがいつの間にか忘れていたその存在に目を向ける。

 すると彼はダイアナ達に向かって一つ頷いた。







 時間は少し巻き戻り、魔人がダイアナ達の足元から火柱を上げて攻撃し始めた頃。

 カズトはひたすら魔人の分析をしていた。



(あの火柱。前に僕がゾンゲと戦ったときに使った物と同じものだ。だけどおかしいな。僕の火柱と同じ威力しか無いように見える)



 その火柱は天井に当たって派手に火の粉を散らしているが、カズトから見たら自分が使えるものとそう大差が無いように見える。

 しかし魔人の魔力制御の技量は自分よりも遥かに高い。

 そのためそれは有り得ないだろうとその考えを捨てる。

 すると魔人がダイアナに対して炎の球を打ち出し始めた。

 彼女がそれを避けている様を見ながらその攻撃もまた、分析する。



(……あの炎の球もどう見ても僕の火を生み出す魔法と規模がそう変わらないように見えるな。着弾した様子を見てもアームホーンゴリラに火の魔法を打ち込んで実験したときと威力がそれほど変わらないように見える。やっぱり僕の魔法と大して変わらないのか?)



 カズトの頭の中ではそれはないだろうという考えがあるが、一方で魔人は魔力制御の技量が高いだけでイメージ力はさほどでもないかもしれないという考えが浮かぶ。

 するとダイアナを助けるためにセリオとメイベルが魔人に攻撃した。

 その直後、魔人が周囲に殺気を放ったのだが、戦闘の素人であるカズトには何か空気が変わったな、という程度にしか感じなかった。

 それに魔人の殺気が主にダイアナ達三人に向けられていたということもあるだろう。

 そのような幸運が重なり、カズトは魔人の殺気を受けても動揺することはなかった。

 そして魔人がメイベルの動きを止め、彼女に向かってその手から蛇のような炎を放つ。



(あれはまずい!)



 これまでの魔人が放った魔法からその威力が大体想像できるカズトから見れば、その蛇のような炎の威力は簡単に人を殺せるものだとすぐにわかった。

 そのためその炎を消すイメージを即座に構築し、魔法を発動させる。

 しかし。



(くそ! 失敗した!)



 原因は指を鳴らすひまが無かったため魔法の発動タイミングを即座に、そして明確に決められなかった事だろう。



(いや、そんな分析は後だ! 今はメイベルさんを助けないと!)



 魔人の注意が完全にメイベルから逸れていることを確認すると、すぐさまその場から駆け出してメイベルの下へ向かう。

 ちなみにカズトがメイベルの下に着いたとき、ダイアナがアイスラインの詠唱を始めたため、魔人とダイアナ達の注意がメイベルの下へ向くことは無かった。

 カズトはすぐさまメイベルの脈拍をみて生きていることを確認すると、治癒魔法を発動させる。



(炭化して死んだ細胞は諦める。まずは一番簡単な血管と皮膚を再生させるイメージ。そして火傷がこれ以上広がらないように火傷の周りを冷やすイメージ。さらにーー)



 カズトは地球では医者ではなかったし、医者志望の学生でもなかった。

 そして火傷の治療をしたこともないし、大きな火傷を負ったこともないため治療されたこともない。

 そのため持っている知識は非常に少ない。

 だがそれは現代日本人を基準にした場合だ。

 医療の発達していないオーランドに生きる人々と比べたら、それらの知識だけでも遥かに有益なものになる。

 そしてその知識からイメージを組み上げてそのイメージを基に治癒魔法を使えば、この世界では治療不可能だと思われている重度の火傷も治癒する事ができるようになる。



(いける。治癒スピードは相変わらず遅いけど、これぐらいの火傷なら完全に治すことができる)



 彼はアームホーンゴリラの巨大個体で行った火傷の治癒実験を思い出しながら治癒魔法を発動し続ける。

 そしてその実験と比べてメイベルの回復具合は殆ど同じだと判断し、完全に治せると確信を持った。

 だが普通の傷ならば治癒魔法を使えば瞬時に治るのに対し、その治癒スピードはとても遅い。

 それはカズトがまだ治癒魔法に慣れておらず、さらにメイベルの傷が大きいからだが、原因は主に魔力制御の技量が拙いことにある。

 もしカズトの魔力制御の技量が高く、一度に込める魔力量が今よりも多ければ治癒スピードはもっと速かっただろう。



(だけど、治癒スピードを速めるには何も魔法だけじゃない)



 カズトはバッグからこれまで採取した薬草を全て取り出す。

 そして片手で治癒魔法を発動させながら束になっている薬草を力の限り握り、メイベルの火傷にその汁を垂らしていく。

 すると僅かだが治癒スピードが上がった。



(よし。この調子でいけば十分で治せる)



 カズトは治癒魔法を使いつつ薬草を握り絞めながら、余裕が出てきた頭の中で考えを巡らせる。



(この傷の深さや回復具合から見るに、やっぱり魔人の魔法は僕の魔法と殆ど威力が同じみたいだ。それなら、イメージ次第では僕の魔法でも魔人の攻撃を妨害できるかもしれない)



 この魔人は魔法に特化しているだけあり、魔力制御の技量はカズトより遥かに高い。

 そしてイメージ力も人間に比べてずば抜けている。

 だがイメージ力はあくまでオーランドで生きてきた人間と比べて、だ。

 カズトのように化学や理科などの知識を使ってより多角的に構成したイメージに比べれば、魔人のイメージなど塵に等しい。

 だがその考えに至ったとしても、今のカズトには治癒魔法と薬草を絞ること以外なにもできない。

 そのため彼はそれらを行いながら、魔人に目を向けて引き続き分析し続ける。

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