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16話 待ち合わせ

(良かった。まだ来てないか)



 翌朝。

 カズトはダイアナ一行の調査隊に同行するために、集合場所である門のすぐ外にやってきていた。

 しかしそこには朝早くから仕事をしている門兵以外、まだ誰もいない。

 それもそのはずで、カズトは偉い人を待たせる訳にはいかないと思い集合時間より一時間ほど早めにここにやってきたのだ。

 しかしもしかしたらダイアナ達は既に集合場所にいるかもしれないという思いもあったため、彼女らがまだ来ていないことにホッと安堵した。

 すると途端に退屈してきたので、何をしようか考える。



(何もない草原をただただボーッと眺めるのも良いけど、それ以上に魔力制御の練習をしたほうがいいよな。魔力制御の技量が上がればさらに威力の高い魔法が放てるようになるんだし)



 カズトはこの世界が現代日本よりも弱肉強食の面が遥かに強いことを知識としても実体験としても知っている。

 なので彼はオーランドに来てから、自分が死なないために毎日真面目に努力をしている。

 その癖で、彼は今の時間を少しでも有効活用しようと魔力制御の練習をはじめた。







 そうしてカズトが魔力制御の練習をしながら時間を潰していると、彼に声がかけられた。



「おはよう。私達もそれなりに早く来たつもりだったのだが、カズトの方が早かったな」



「あ、王女さま。おはようございます……?」



 その言葉を聞いた時点で即座にその声の主がダイアナだと気づいたカズトは、魔力制御の練習を中断して彼女に向き直り挨拶を返す。

 しかしそんな彼女を見てカズトは困惑した。

 なぜなら彼女は昨日五人ほどいた親衛隊の騎士達の内、一人しか連れていなかったからだ。

 その騎士は親衛隊ただ一人の女性であり、オレンジ色の髪をボブカットにしている。

 そして身長はダイアナよりも少し低い。

 ついでに言えば戦いで頼りになりそうな屈強な男騎士ではなくダイアナと同じ様に華奢な体つきをしている。



(あの女騎士さんも親衛隊らしいから戦いで頼りになるんだろうけど、この人より頼りになりそうな男騎士達はどこいったんだ?)



 するとそのカズトの疑問を読んだかのようにダイアナが口を開く。



「男騎士達には今馬車の用意をさせている。すまないが彼らが来るまでもうしばらく待ってくれ」



「馬車を? ということは馬車を使って調査を行うのですか?」



「いや、馬車を使うのは山の手前までだ。そこからは徒歩で行う」



「そうなのですか。分かりました」



(おお! ということはそれまで馬車に乗れるってことかな!? 人生初の馬車、楽しみだ!)



 ダイアナの言葉を聞いたカズトは、ワクワクした気持ちを表に出さずに返答したが、当然ダイアナにはバレバレだった。

 だがダイアナはそれ以上に、カズトが自分を見たときよりも馬車に乗ると聞いた時の方が明るくなったことについて気になった。



(本当に奇妙なやつだ。だが、身内以外でこうやって普通に話せるのは存外良いものだな)



 ダイアナがそんなことを思っていると、今度はカズトから質問が飛んでくる。



「そういえば何故王女さま自らが巨大個体の調査に出向いたのですか?」



「ん? ああ、それはだな、この件に魔人が関わっている可能性が高いからだ」



 魔人。

 それは肌の色が茶色で白目が黒、黒目が金という違いがあるものの、他は人と瓜二つの容姿をしている魔物のようなものの事だ。

 そいつらは群れる事こそ殆どないが、人間に近しい知能を持っており、普通の人間より遥かに強い。

 そのため魔人が関わっている可能性が高い事件などには実力が高い者が派遣される。


 ちなみに魔人には4つの種類がある。

 まず一つ目は大柄な体型をしている物理攻撃特化型魔人。

 二つ目に上半身は極端に細く下半身が異様に発達しており、魔人にしては小柄な速度特化型魔人。

 そして三つ目は他の型の魔人より遥かに魔法に秀でた長身の魔法攻撃特化型魔人。

 最後に四つ目の物理攻撃も、素早い移動も、魔法攻撃もそつなくこなす万能型魔人。

 この4つの種類があるのだ。



「魔人ですか……。それなら相当危険な調査になりそうな気がするのですが。王女さまは調査に出かけない方がいいと思いますよ」



「なに、心配はいらない。これでも私は戦うのが得意だからな」



 ダイアナはそう言うと、おもむろに空中へ手をかざす。

 するとその瞬間、どこからともなく氷のように青く透き通るような両手剣が彼女の手の内に現れた。



「うえ!?」



 それを見てギョッと驚くカズト。

 だがダイアナはそのような反応は見慣れているのか、慣れた様子で腕に着けている腕輪をみせて説明をはじめた。



「驚いたか? これは亜空の腕輪といってこの中にいくらでも道具を出し入れできるマジックアイテムなのだ」



「そんな便利なものがあるのですか……」



 そう言ってカズトはダイアナの腕輪に装備されている亜空の腕輪をまじまじと見つめる。

 ちなみに亜空の腕輪は一見すると普通の銀の腕輪にしか見えないため、カズトはこれがマジックアイテムだと俄かに信じられないでいた。


 それから一通りカズトが満足するまで亜空の腕輪を見せたダイアナは、その場で一度剣を上から下に振るう。

 するとその余波で彼女が立っている場所を中心に、周りの草がザーッと音を立てながら揺れた。

 それは誰がどう見ても、例え剣について全く詳しくないカズトから見ても相当な技量とパワーがあると分かるものだった。

 それもそのはず。ダイアナは冒険者ランクで言うとBランク相当の実力があるのだ。

 これくらい簡単にできなければ魔人の相手など到底務まらない。



(僕より圧倒的にパワーがあるよな。その華奢な体のどこにそんな力があるんだよ……)



 カズトはその光景を見て心底驚いた。

 同時にダイアナの見た目からでは想像できないほどの力が彼女にあることが、受け入れられないでいた。

 だがオーランドでは強い魔物を倒せば倒すほど身体能力は上がっていくのだ。

 それは見た目には反映されない。

 そのためダイアナや女騎士のように、華奢であるにも関わらず常人とは並外れた身体能力を得ることがままあるのだ。


 すると今度はダイアナがカズトに質問を投げかけた。



「そういえば君の武器はどうしたんだ? 何も持ってきていないようだが」



「きちんと持ってきてますよ。ほら」



「それは……短杖か?」



「はい」



 カズトはバッグからついこの間武器屋で一番安く売られていた短杖をダイアナに見せる。

 それを見てダイアナは一瞬ぽかんとした表情を見せた後、確認するようにそう呟いた。

 そして返ってきた答えは肯定である。

 ダイアナは信じられないものを見たとでも言うように驚いた顔をした。

 そして今一度確認するようにカズトに問う。



「短杖が武器ということは、カズトはもしかして魔法士、なのか?」



「そうですよ」



 その答えを聞いた途端、ダイアナは今度こそその答えが信じられなくなった。

 何故なら普通の魔法士は魔法の発動速度は遅く、その威力も使い物にならないほど低いからだ。

 仮に発動速度を重視して無詠唱で魔法を放ったとしても威力が殆ど出ない。

 逆に威力を重視すると発動速度が極端に遅くなる。

 エリート魔法士の代名詞である宮廷魔法士レベルになると、なんとか対人戦を行えるといったようなものなのだ。

 そのため魔法士は戦闘に向かないとされている。

 唯一の例外は他国との戦争など大規模な戦闘が行われる時だ。

 その時は何十人もの魔法士が威力を重視した魔法を長々と唱え、発射する。

 だがその例も極端に限られた時の話しだ。

 魔法士が巨大個体と一対一で戦えるとは思えない。

 それにカズトはエリート魔法士ではなくただのFランク冒険者なのだから、なおさらだ。


 そのためカズトが魔法士だと知ったダイアナは頭を抱えた。

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