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14話 ダイアナとの対面

「!? 待て! カズトとやら!」



 カズトが背を向け走り出した瞬間、セリオは咄嗟にそう叫んだ。

 だがカズトは全く足を止める気配を見せない。

 それどころか全力で走っている、いや自分から全力で逃げているようにさえ見える。



(理由は分からないが仕方あるまい。あまり体力は消費したくなかったのだが全力で走るか)



 セリオは心の中でそう決めると、その場から全力で走り出した。

 その速度は先ほどまでとは比べものにならないほど早い。

 セリオの耳にはザワザワとした周りの人間の声は全く聞こえず、代わりに風切り音だけが聞こえてくるだけだ。

 そして彼が全力で走ってから五秒も経たない内にカズトはあっさりと捕まえられた。



「うえええ!? 早すぎでしょ!?」



「……当たり前だ。我々騎士は貴様ら冒険者よりも過酷な訓練を毎日こなしている。それに格上の魔物討伐も頻繁に行われるからな」



 セリオはカズトの、騎士である自分に対する態度にイラッとさせられながらもそう答えた。

 というのも、この世界の騎士は誰でも成れるといったものではなく、貴族の子供や余程実力を持った冒険者だけが成れるものなのだ。

 そのため平民は基本的に騎士に対して敬意を持って接さなければならないとされている。

 もちろんそこらへんの事情も神様から説明されていたカズトは知っている。

 だがそんなことは頭からすっかり抜け出てしまい、自分が全力で走っていにも関わらずたった五秒で捕まったことに対して素で驚いた。

 そして彼はセリオが眉をしかめながらそう言葉を発してようやく自分が敬語を使っていなかったことに気づいた。

 慌てて頭を下げて謝罪する。



「失礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした!」



 そんなカズトの様子を見たセリオは、普通ならまともな教育を受けているはずがない根無し草の冒険者がここまで丁寧な態度を取ったことに対してかすかに驚いた。

 そして謝罪を終えたカズトは頭を上げてセリオに質問する。



「それで、自分に何のご用でしょうか?」



「ああ。殿下がお呼びだ。すぐに冒険者ギルドに来てもらおう」



「……わかりました。ちなみに何故自分が呼ばれたのか聞いてもよろしいですか?」



「それに関しては向こうに着いてから説明があるだろう。行くぞ」



「……はい」



 セリオはカズトにそう告げるとさっさと冒険者ギルドに戻っていく。

 その後ろ姿を見て、カズトは面倒なことになったなぁ……。と、こっそりとため息を吐き出し、セリオの後をついていった。







 そして二人は冒険者ギルドに戻ってきた。

 セリオが扉を開けると受付の前にダイアナと騎士達が待っている。

 すぐさまセリオはダイアナの前まで行き、カズトを連れてきたことを報告する。



「殿下、カズトという冒険者をつれて参りました」



「あ、ああ、ご苦労。それでそのカズトという冒険者だが……」



「はっ。カズト、こちらがダイアナ殿下だ。……カズト?」



 カズトにダイアナを紹介しようとセリオが彼に話しかけるも一向に返事がない。

 不審に思ったセリオは後ろを振り向く。

 しかし……そこにはカズトの姿がなかった。

 つい先ほど、それこそ冒険者ギルドの中に入る直前までは後ろにいたのに、だ。



(まさか、逃げたのか!?)



 理由は分からないが先ほどカズトはセリオから逃げていた。

 だからセリオは自分の目をかいくぐって、カズトが再び逃げ出したのかと疑う。

 しかしその直後、ギルドに併設されている酒場の方から呑気な声が聞こえてきた。



「なにこれ? 美味しそうなお肉だね」



「な、なんだよお前。なんでこっちに来たんだよ」



 ギルドにいる全員がシーンとする中、そんなこと知ったことかとばかりにカズトは酒場にいたゾンゲ達の集団の中に紛れ込んでいた。

 ちなみにカズトはセリオと一緒に冒険者ギルドに入った直後に自分はセリオとは無関係ですとばかりに酒場に直行していた。

 当然セリオ以外の全員はカズトの行動に気づいていたが、カズトの常識外れの行動に皆驚いて声を出せなかったのだ。

 かろうじて声を出せたのはカズトの横に座っていたゾンゲだけである。


 一方カズトはカズトでこれから起こることは明らかに厄介事であろうと予想がついていた。

 そのため少しでもそれから逃れる可能性があるのならば、それを実行することにしたのだ。

 だがやはりその可能性は限り無くゼロに近い。

 現にセリオがカズトの姿を見つけて声を荒げた。



「おい! カズト! おまえはそこで何をしている! こっちへこい!」



(はあ。やっぱり見つかったか……)



 もうここまで来たら諦めるしかない。

 カズトはそんな心境で隣に座るゾンゲの肩をポンと叩き、口を開いた。



「おい、カズト。呼ばれてるぞ」



『お前がカズトだろ!!』



「おおう!?」



 最後の手段、ゾンゲに自分の代役を押し付ける作戦は、ギルド内にいる全員の突っ込みによってものの見事に崩壊した。

 カズトはまさか全員から突っ込みが入ってくるとは思わず驚いたが、その後は素直にセリオの下に戻っていく。

 一方、ダイアナはそんなカズトの様子を興味深けに見ていた。



(第二王女である私がいる前でこの振る舞い。愉快なやつだが単なるバカなのか、それとも相当な胆力を持った人間なのか)



 第二王女の目の前でこんなことをする人間はまずいない。

 当たり前である。

 なにせダイアナは国のトップの一族であり、平民から見れば天井人であるからだ。

 そのため普通の人間ならダイアナが呼べば、すぐさま彼女のもとにやってくる。


 だがカズトは普通ではない。

 いや、現代日本人という枠組みで見れば真面目で普通の人間なのだが、オーランドで見れば当然普通という枠組みから外れてしまう。

 というのも日本で生まれ、日本から一度も出ることなく育ったカズトからすれば、王族や貴族は平民より偉いということは知識で知っていても実感がないのだ。

 そして今の彼はなんとしてでも厄介事の塊であるダイアナから逃れたいと思っている。

 そのためカズトは気後れせずにこのような行動にでることができてしまった。


 だがやはりとても偉い人の前であるという意識はあったようで、カズトはダイアナの前に立つと開口一番謝罪を口にした。



「この度はご迷惑をおかけしまして、申し訳ございませんでした。以後、このような事がないよう気をつけます」



 そう言ってカズトは頭を下げた。

 そんなカズトの態度に対してダイアナは、彼が単なるバカではないのかもしれないと見直し、相当胆力がある人間なのだろうと思った。

 だが、ダイアナがそう思ったのは一瞬だ。

 たしかに彼女はカズトが謝罪をしてきたことにも驚いた。

 だがそれより、彼が自分を見ても言葉を詰まらせることなくごく自然に話し、頭を下げたことになによりも驚いた。



(私に、見惚れない……!?)



 親しい人間以外であれば誰も彼もが自分に見惚れ、話そうとすれば緊張からか言葉を詰まらせるのが普通であった。

 にもかかわらず、目の前の男は初対面ながらも流暢に言葉を発し、さらには自分に見惚れずに頭を下げてきたのだ。

 ダイアナにとってそれは青天の霹靂と言っても過言ではないことだった。


 しかしカズトがダイアナを見ても見惚れないのには理由がある。

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