最強ふたつ
「がははは!」
「真っ昼間からの酒は、腹の内から効くのう」
「メタノールは飲み物じゃなかったがな。アルコールランプの中身で喉を洗ったら、マジ気持ち悪い」
「俺はハラキリのし過ぎで気持ち悪い」
「お、俺は、北条を勘違いしとった。お前は、いい奴じゃ」
「相沢お前、ここまで泣き上戸だったのか」
「よーし、この勢いで二次会に繰り出すぜ! まずは“ブルセラムーン”だ!」
一方その頃、永瀬達はボルテージも最高潮に達し、学園内を意気揚々と闊歩していた。
バラバラだった三年生。それらが徒党を組み、廊下を歩いているのだ。他の一般生徒は遠巻きに眺めるしか術がなかった。
その状況を余所に、北條が横道に進んでいく。
「なんだ便所か?」
「ああ、少しばかり飲みすぎた」
「早く済ませろよ。ブルセラムーンか待ってるんだ」
どうやらトイレに立ち寄るらしい。永瀬達は窓際に集まり、その帰りを待つことにする。
トイレの死角から、ドカッとなにかぶつかる音が響いた。『いってーな気をつけて歩けや』そしてムカつくように響く北條の声。
ズダーン! 激しい凶音が響き渡った。永瀬達の目の前を、北條の身体が勢いよく飛んでくる。対面の壁に背をぶつけて、ずるずると崩れ落ちた。
「どうしたんだ北條?」
「酒の飲みすぎか」
事態が飲み込めず、慌てて駆け寄る。北條の頬は激しくひしゃげていた。完全に気絶していた。
「気を付けんのはてめぇの方だろうが」
そこから現れたのはいかついガタイの男だった。筋骨隆々で、黒髪をリーゼントで決めている。ジメジメした暑さにもかかわらず、詰め襟を腕まくりもせず羽織っていた。
ごくりと息を飲む永瀬達。背筋を寒気が襲う、ガクガクと震えて青ざめる。
「年寄りなら年寄りらしく、道の端っこ歩けってんだ」
低くドスの効いた声が響き渡った__
「この方、お強い!」
神社境内、女生徒が愕然と立ち尽くしていた__
地面には倒れ込む男達の姿がある。そしてその中央には、必死の形相で立ち尽くすリーダーの姿。
そしてなにより、その手前に悠然と立ち尽くすシュウの姿が鮮烈だった。
「なんちゅう野郎や。俺達相手に、有り得ねー闘いっぷり……」
リーダーが口元に滲む血を腕で拭った。
「有り得ねーなんて、この世に存在しねーんだよ」
すかさず拳を振り放つシュウ。それがリーダーの顎を捉えた。そのまま吹き飛ばされて、松の幹に背を預けた。
「き……貴様……名前は?」
「まったく、昔は有名人だったのにな。シュウ、黒瀬修司。覚えておきな」
「シュウ、魔王か? ……参ったわ、先にそいつを聞いとくべきやったわ」
耳の穴をかっぽじるシュウ。同時にリーダーが崩れ落ちた。
「黒瀬修司? この御方が……」
女生徒の胸中、今まで感じたことのない衝撃が去来していた__
「が……はっ」
ズルズルと崩れ落ちる永瀬。多くの生徒が見つめる最中、周りには北条達が血まみれで寝転がっていた。
「一年のヒョッコ共に負けてながら、デカい面してんじゃねーよ」
そしてその様子を、先程の巨漢が冷めたように見下ろしている。
「くそっ、ハラキリなんかしてなきゃ……」
必死に立ち上がろうとする永瀬。
「あんたはただの御輿だったのさ。それを勘違いしたのが運の尽きだ」
だがその顔面を巨漢の足の裏が襲った。瞬時に意識が吹き飛び口から泡を吹いた。
「戦場に於いて二度目はねーだろ。先輩だと思って見逃しておいたが、所詮あんたには学園を仕切る器量はなかったのさ。これは俺なりのせめてもの情けだ、このまま引退しな」
巨漢が静かに通達した。
「騒がしいって思ってたら、ヤッパここっすか葛城先輩」
「逃げろって誠。ジャイアンが騒ぎを聞きつけたぞ」
人混みを掻き分け、仲間と覚しき生徒が駆け寄ってくる。
「あららぁ。永瀬達、お寝んねさせちまったのかよ?」
「しゃーないっす。葛城先輩にかかれば、こんなモンっす」
そして当然の如くあっさり吐き捨てた。
「そうさな、逃げるとするか。明日の予定もあるしな」
ヘラヘラと笑う巨漢。その名は“葛城誠”。オーク学園二年生。古から続く任侠団体“葛城組”の組長実子だ。
キングダムオーク学園の“四天王”が動き出したのだ__




