情熱こそがこの世を動かす原動力
~二年B組~
「どうすんだよ!」
二宮が机を叩いた。
「そうだぜあっちゃん。葛城の奴は、既に動いているんだ」
それに相葉が同意する。
教室の片隅には、櫻井一派が集結していた。誰もが真剣な面持ちだ。誰もが突然行動を開始した葛城の動向が気になるようだ。
「もうしばらく辛抱しろよ。……強いてはことを仕損じる。今しばらくの辛抱なんだ、あいつさえ取り込めば事態は有利に動く」
それでも櫻井は冷静だ。口に煙草をくわえ、ギターのチューニングを施している。
その表情を探るように見つめる二宮。
「だから、しばらくっていつまで!? 相手は四天王葛城誠。いきなり現れて、いきなり食らい付くような狂犬なんだぜ。このままじゃ俺らだっていつ食らわれるか!」
間にある机を両手で叩いて捲くし立てる。
「ニノの言うとおりだ、あっちゃん。……噂じゃキティホークやナイトオペラも、覇権の糸口を探ってるとか。そいつに触発されて、他の十二神将もピリピリしてる。時間なんてあってないようなもんだ」
それに相葉が補足する。
「そうだよな、このままじゃ葛城の独壇場になっちまうぞ」
「噂じゃ昨晩キティホーク一番隊隊長前田と、十二神将大雪山がやり合ったらしいし」
「ナイトオペラも慌ただしい感じだったぜ。伊藤の奴がそうとうムカついてるらしい」
その二人の意見には、他の仲間も賛同しているようだ。
しかし松本だけは別だった。窓際に背を預けて、あごに手をあてながら、にやにやと状況を見据えている。
上目遣いで二宮を見つめる櫻井。
「あと三日待て。あと三日待てば、奴が登校する。そうなれば俺達と葛城達は互角。……それからでも遅くはないだろう」
一瞬の沈黙。辺りに棚引く煙草の紫煙。
それを疎ましそうに右手で払う二宮。
「奴を信頼する根拠はあるのかよ? 確かにあいつは強い。だけど一年間も入院していたんだぞ! 東雲との死闘に敗けて、屋上から……」
納得しないとばかりに声を荒げる。
「ニノそれ以上は止めとけ。いつものお前らしくないぜ」
しかしそれを櫻井の鋭い視線が封じる。
「あっちゃん……」
ごくりと息を飲む二宮。酷く混乱して、あらぬ台詞を吐いたなと、少しばかり後悔する。
「分かってるよ。あれが奴の実力じゃなかったってぐらい。全ての流れが、奴に不利だったってぐらい」
櫻井の言いたいことは、心のどこかで理解している。その時を待てば、事態を収拾する術があるかも知れないと。
「……だけど、そんなに待てねーからな」
しかし頭が納得しない。焦れったさを覚え、教室ドアに歩みだした。
「ニノ! どこ行くんだよ?」
その後を追う相葉。
「ゲーセンでも行って、憂さ晴らしだよ!」
そして二人の姿が消えていった。
「まったく、あいつらは。熱すぎるにも程があるだろ」
苦笑するように呟く櫻井。やれやれと頭を振り、携帯灰皿に煙草を揉み消す。
「そいつは仕方ねーだろうよ」
そこに松本が歩み寄った。
「葛城が動き出したことで、他の連中もピリピリしてるんだ。学園中、いや市内至るところ、危険な空気で澱んでいるからな」
いつにないマジな表情、やけに鋭い視線、雰囲気や話し方まで神妙なものだ。
「それは理解してるつもりだ。ニノや相葉ちゃんが焦る気持ちも少しは分かる。シュウは例外として、四天王が動き始めてるしな。……なにより、鳴神や宅ちゃんの動きも気になる」
櫻井としても二人の気持ちは理解していた。宅ちゃんを配下に治めて、学園No1の勢力を握ったルカだが、その後動く気配はなかった。マリアファン倶楽部自体が、その動きを停止していた。まるで嵐の前の静けさ。それが逆に、学園に新たなる恐怖をばら撒いていたのだ。
そしてそれは松本も理解するところ。
「奴らは例外だ、学園のてっぺん争いとは別次元で動いてるからな。……とにかくあいつが復学さえすれば、俺らにもチャンスが巡ってくるさ。それまでの辛抱だろ」
言って櫻井の肩を叩く。彼らは仲間だ、その性格や生きざまは違えど、目指すべき目的、進む方向は同じだから__
「ニノ、待てって!」
ふて腐れたように廊下を歩く二宮の背中に相葉が投げ掛けた。
それで二宮が足を止める。苛ついた心を静めるように、握った拳を振り落とす。
「……なんだよ、あっちゃんの指示か?」
覚めたように振り返る。
「そうじゃない」
頭を左右に振る相葉。
「……俺まで疑うのか? 俺達の関係って、そんなものなのか」
不安そうな表情だ、じっと二宮の眼を見つめる。
同じくその眼を見つめ返す二宮。しばしの沈黙。通り過ぎる生徒達がその二人を怪訝そうにチラ見していく。
「ははっ。……やめてくれよ、そんな趣味はないから」
やがて二宮が言った。意味深な台詞、呆れたように吹きだした。
同時に相葉の顔色が紅潮する。確かに先程自分が言った台詞は、知らない人が訊けばまるで恋人のような台詞だ。
「バカッ、俺だって願い下げだ」
堪らず吐き捨てた。とはいえ他人からどう思われようと関係ない。二人は中学時代からの連れ、互いの気持ちは多くを言わずとも理解している。
そしてどちらともなく歩き出した。
「どう思うよ、あっちゃん達の話?」
窓の外を見つめる二宮。
「さあ? だけどあの二人が言ってるんだ、だから間違いないとは思うんだ」
「俺だってあいつの強さは知ってる。……だけど一年ものブランクが有るんだぜ。しかも元々はシュウの仲間だ」
「そうだけど、シュウ自体は抗争なんて眼中にないし、いまだに派閥さえ持ってないんだぜ?」
「だけどよ……」
不意に二宮が立ち止まった。それに気付いて相葉も立ち止まる。後方を振り返りその様子を黙って見つめる。
「確かに魔王シュウは“死んだ”、それは確かだ。……だけど一年前のあの抗争、結果的に終わらせたのはあいつの“一言”だ。あいつはとてつもないカリスマ性を持ってるんだよ。じゃなきゃ、沖田とあんなに仲良くなんてならない。……奴だってそうさ、最後にはシュウに付く。そう感じるんだ」
それこそが二宮が胸に秘める戸惑いの原因だ。相手を知り、尚且つ自分の弱ささえも曝け出す、不器用な生き方が垣間見えた。
「シュウに惚れたか?」
戸惑いながらもツッ込む相葉。
呆気に取られて視線を向ける二宮。
「馬鹿、沖田と一緒にすんな」
その叫びが辺りに響き渡る。普段通りのいつもの口調だ。不安や戸惑い、今後の行く末には幾多の障壁が立ち塞がっている。時には挫け、悲しみにうちひしがれることもあるだろう。だけどそれでも恐くない、何故ならそこには大切な存在があるから。仲間という誇れる絆が__
そして思考に耽るように遠くを見据える。
「ニノ?」
不思議に思い、相葉が問い質した。
「少しいいか?」
咄嗟にその肩を掴み、廊下の陰に連れ去る。
「今がチャンスだと思わねーか?」
そして投げ掛けた。
「はぁ?」
その意外な行動に戸惑う相葉。
「……あの画像や噂を訊く限り、葛城は玉木達とは別に孤立して行動してるようだ」
「……らしいな」
「だったらあいつは“一”だ。葛城は玉木達仲間がいて十にも二十にもなってた。だけど今は一。……俺とお前が組めば二だろ。同時に襲えば、単純な算数理論、一と二なら俺達に分がある」
「……つまり玉木達とバラけた今の葛城なら、俺達二人で潰せる?」
ハッとする相葉。単純なことだが、思いもしない答えだった。
「しかも今のあいつは、手負いの獣だ。討ち取る術はおおいにある」
二宮の表情もほころぶ。
「……決戦は今夜。学校帰りを狙う」
この世の中、不可能なんて言葉は存在しない。いつだって時代を切り拓くのは、人の熱い気持ちだから__




