秘めた意思、困惑する友
~二年C組~
放課後の教室内は、いまだざわめきに包まれている。
「葛城の野郎、ついにやっちまったな。流石は狂犬だよ」
「ホントだよ、せっかく平和な日々が続いてたのにな」
教室の片隅では、三人の男達がひそひそと会話している。
その視線が捉えるのは前方の窓際に座る葛城の後ろ姿だ。一人ポケットに両手を突っ込み、机に足を投げ出している。誰を気にするでもなく覚めた表情だ。音楽を聞き入り、窓の外に視線をくれていた。
「しかし相変わらずの強さだよな。たった一日で、大瀬良と広海を潰したんだぜ」
「奴の能力からすれば、それもありじゃねー。解せねーのは、奴がその能力を解放したことだ。あいつはあの戦争以来、校内での行動を控えていたんだぜ。校内で争えば、志士の会の残党が動き出す。そうなれば危機的状況に落ちるのはてめーだからな。だから他校との抗争を重視してた。その男の所業とは思えねーな」
「傑作なのは広海だよ。あの外道は葛城に敗れたのを否定してるけどよ、ユーチューブで流出してんだもんな。自分の野望をあれだけ大々的にほざいておいて、完全敗北だもんな」
「ホント笑える。そんな実力もねーくせにな」
ガヤガヤと他人事に話し込む二人。
「笑ってる場合じゃねーだろ」
しかしそれをもう一人の生徒が一蹴した。短い髪を紫に染めた男。鋭い視線と右頬の傷が特徴的だ。
「問題があるとすれば、この画像であの雑魚がほざいた一言だ」
腕を組み、鋭い視線をスマホに向ける。その画面に映るのは、夕闇の中で宣戦布告する広海の姿。
それに感化されて他の面々も聞き耳をたてる。
「……美野獣攻略ってか?」
「馬鹿げた台詞だな。これだけ大々的に宣伝してちゃ、野望もへったくれもねーべっての」
そして再びガヤガヤ話し込む。
「違うだろ、沖田一弥を潰す、って台詞だ」
右頬の古傷を神妙な面持ちで擦る男。
「あんな雑魚に、そんなことを言われるなんて、ナイトオペラのリーダーとして最悪だろ?」
「確かにそうだが……」
「言いたい奴には言わせとけばいいんだよ。一弥としても、気にしてはいないし」
「それがナメられる要因なんだろ?」
「馬鹿だな、それが一弥の良さなんだよ。喧嘩に行っては無類の強さを発揮するしな」
「お前だってそれを理解してるから、"あの時"一弥に加勢したんだろ?」
「あの時はあの時さ。俺はまだ、あの男を信頼してる訳じゃねーんだ」
仲間達が諫めるが、その苛つきは治まらない。
「今回の件にしてもそうだ。奴がもたもたしてるから、葛城なんかに先を越された。このままじゃ、あいつに学園の覇権、奪われちまうだろうが」
その場から立ち上がると、一人教室の入り口目掛けて歩き出す。
その背中を仲間達は呆気に取られたように見つめる。
「まったく熱い男だな。この学園の恐ろしさ、それと一弥の良さを理解してない」
「翔は転校してきて半年だかんな。あの悪夢を肌で感じていない。同じくして、一弥が俺らのリーダーになった経緯、それと訳あって辞めた件もな」
「大事なのは力だけじゃないんだ。時に必要なのは、内に秘めた志」
「そういうこと」
同じくしてそこに進入してくる集団もあった。それは玉木だ。後方からはサトルなど数人の仲間が続く。
「…………」
「…………」
玉木の視線が男を捉える。それを相手も気付いたようだ、ピクリと眉をひそめて身体を交錯させる。
サトルはその男の姿を認めて顔面蒼白になる。
「い、伊藤先輩お疲れ様です」
すれ違い様に深々とお辞儀した。
「なに俺らの教室に、汚ねー足、踏み入れてんだ!」
「クソ野郎共がウゼーんだよ!」
「はぁ、ここはてめーらの貸しきりじゃねーだろうが!」
「殺すぞ馬鹿野郎!」
「殺してみろや、俺ら喧嘩上等ナイトオペラだぜ!」
「皆さん落ち着いて、ボク達は喧嘩しに来たんじゃ」
他の面々は即座に交戦状態。すかさず止めに入るサトルを巻き込んでの激しい口論だ。
その間に玉木は葛城の近くまで歩み寄っていた。
「誠。行くぞ縁日だ」
へらへらと笑顔で言い放つ。
「ほら、なーに見てんだよ? また永ちゃん聴いてんのか?」
玉木が葛城のイヤホンを奪い、自分の耳にあてがった。
「やっぱサイコーだね」
そして何気に葛城の視線の先を見据えた。そこは乗降口、話し込むシュウ達の姿がある。
すかさずイヤホンを奪い返す葛城。
「なにか用か玉木?」
「なにか用かって。縁日だよ縁日、浴衣姿のねーちゃんが沢山来るだろ。……そんなことよかあれ見てみろよ?」
窓の外を指差す玉木。
「いつも言ってるだろ。気にするなって」
「ああ、だったな」
怪訝そうな表情だが、葛城は少しも気にしない。
「縁日なんぞ、サトル達と勝手に行ってこい。…ナンパ師」
吐き捨てて席を立ち上がる。
「あぁ! なんだよ誠、ナンパ師って?」
いつものように玉木が捲くし立てるが、その対応は覚めたもの。
「悪いが俺は、そんなに暇じゃねーんだ」
「はぁ?」
視線さえ合わせず教室を抜けて行った。
「玉木先輩。葛城先輩はどうしたんですかね?」
サトルが訊ねた。
「へっ、いいんじゃねぇ? あいつは昔からああなんだよ」
それに玉木が答える。髪を掻き上げ、さばさばと呑気な様子だ。
「なんだよ、昨日の件、てめーらも把握してなかったか」
「相変わらずの狂犬だな。玉木の野郎も適当過ぎるし」
「うるせーな。てめーらには言われたくねーぜ。ナイトオペラもまだ一枚岩じゃねーんだろ?」
「さっきの伊藤もそうだ。……支部長だってのに、沖田に遺恨を感じてる。あいつは松田時代のメンバーだからな」
その仲間達は困惑した様子だ。口論を止めて、ナイトオペラ共々不安げな視線を向けている。
「ほっとけや、内部の事情なんだ」
「それは俺達だって同じだ」
玉木とサトル、そしてその他の仲間達も、昨日の葛城の事件は耳にしていた。
何故、十二神将を襲ったのか。何故、ひとりで強行に及んだのか。その誰もが、知る由などなかった。
それでもNo2たる玉木はテキトーな性格が持ち味だ。それもあって誰もが詮索などしなかった。
「それより縁日だ。浴衣美人が待ってるぜ」
飄々と伝える玉木。踵を返し外に出て行く。
「玉木?」
「仕方ねーナンパ師だな」
仲間達も呆れたように後に続く。
「勉強になります」
一人呟くサトル。ナイトオペラの面々に挨拶をすると、玉木達の後を追った__




