えんにち
~翌日~
放課後の活気溢れる廊下。多くの生徒がそれぞれの時間を楽しんでいる。
「今日ってバイト休みだよねシュウ?」
「ああ、たまの休みだぜ」
そこをシュウと太助が並んで歩いていた。
「それじゃあさ、近くで縁日やってるんだけど、四人で行かない?」
「縁日だぁ?」
気だるそうに視線を向けるシュウだが、太助は後方を向いている。
「真優とマリアちゃんも行くよね?」
その視線が捉えるのは、後ろから付いてくる真優とマリア。
「ええ? ……シュウと太助と?」
その台詞に一瞬立ち止まる真優。
「どうするマリアちゃん?」
そして横のマリアに訊ねる。とはいえ嫌がっている訳ではないだろう。その表情は笑顔、小悪魔真優のいつものパターンだ。
「そうですね、私は大丈夫ですよ」
それを理解するマリア。笑顔で答えた。
「縁日だと? ……なにをやるにも金が掛かるしな」
しかしシュウは乗り気ではないようだ。腕を組み、ぶつぶつと考え込む。
「いいじゃんよ。今日は天気も良いし、絶好の縁日日和だよ」
「……縁日日和だぁ? そんなもんあんのかよ、てめーはホントにボキャブラリーに乏しいな。ってかそんなもん、春菜と二人で行けばいいじゃねーか。あいつは誘ったのか?」
「春菜は誘わなくてもいいよ」
のほほんと言い放つ太助だが、シュウの問い掛けでその表情が暗くなる。
「はぁ、なんでだ?」
「いいものはいいの。今日は部活だし、どうせ口も訊いてくれないから……」
「口も訊いてくれなって、てめーら喧嘩でもしたか」
「……春菜が悪いんだよ。買い物に行って、ゲームを眺めていただけなのに、『もう、太助は子供なんだから』……なんて馬鹿にするから」
口をとがらせブーたれる太助。どうやら、春菜とケンカの真っ最中らしい。
「どうせそのゲームの前で、数時間眺めていたんだべ」
「そのうえ、欲しいって駄々こねたとか?」
すかさずツッ込むシュウに、真優が追い討ちをかけた。
太助は無言だ。顔色を紅潮させ、モジモジと俯くだけ。
「なんだよてめー、高校生にもなってマジで駄々こねたのか?」
それには流石のシュウも呆気に取られるだけだ。
「……うん」
そしてその太助の告白に、堪らぬ衝動に駆られる。
「ぎゃははは、流石太助! 悪いが春菜の言い分が正解だぜ」
太助を指差し、腹を抱えて大爆笑した。
「もう、子供なんだから」
「ふふふ、太助さん、ちゃんと春菜さんと仲直りした方がいいですよ」
こうして爆笑の渦が巻き起こる。
「分かってるよ。後でちゃんと謝るよ……」
太助の顔色が益々赤く染まった。
「まったく、笑わせんなよ」
眼に涙を溜めて、笑いを堪えるシュウ。
窓の外は久々の青空に包まれ、爽やかな風が吹いている。太助の言う通り外出するには絶好の天気だ。
「しゃーねーな。行くか縁日」
指先で瞼の涙を拭い、マリアに訊ねた。
「はい」
マリアが答えた。
こうして会話に興じながら、四人は校舎の外に歩み出る。
眼につくのは木々の緑と、制服の鮮やかな白。スーッと心地よい風が髪を撫でる。燦々と降り注ぐ陽射し、それさえも心地よく思える。
「お疲れ様です。シュウ先輩」
多くの生徒達で賑わう乗降口脇には、琴音の姿があった。
それをチラリと一瞥するシュウ。
「よう小娘。風邪は治ったのか?」
躊躇いもなく挨拶を返す。
「はい、おかげさまで元気です」
対する琴音も笑顔。そこに少しの違和感も感じられない。
その様子は太助からすれば不思議なようだ。
「……いつの間にか仲良くなったんだね」
探るように訊ねた。
「バーカ、そんなんじゃねーよ」
それをシュウはアッサリ受け流す。
「はい」
琴音の表情も穏やかなものだ。
シュウは琴音の存在を無理矢理否定することはなくなっていた。対する琴音も無我夢中でシュウを振り向かせることを止めていた。愛だ恋だ、好きだ嫌いだと言う前に、同じ人間同士だと気付いたからだ。
しかしその二人の思いは太助には理解不能。口をポカンと広げて、呆然と見つめている。
「琴音ちゃん、良かったらこれから一緒に縁日行かない?」
そして突然投げかけた。
場の空気も考えない、呆れた台詞だ。それで真優の表情が一変する。
「ちょっと太助、ダメだよ。だれ彼と見境なく、他の人を誘っても。……琴音ちゃんだって忙しいだろうし」
慌てたように投げ掛ける。戸惑うような視線、それが捉えるのはマリアの姿。
「私は大丈夫ですよ」
しかし琴音はそれを快く快諾する。
「おいら焼きそばが食べたいな」
「バーカ、縁日ったらたこ焼きだべ」
太助とシュウは別の話題で盛り上がっている。
真優としては琴音の存在自体を否定する気はなかった。裏表ない真っ直ぐな性格だし、同性である彼女からしても共感すべき凛々しさは感じていた。しかしそれより大事にしたい存在があった。大切にしたいから、大切に出来ない。そんな矛盾に満ちた感情だ。
「……もう、勝手にしたら?」
言葉に出来ぬもどかしさからか、呆れたようにため息を吐く。
「行こう、マリアちゃん」
「……え?」
そしてたじろぐマリアの手を掴み、すたすたと歩き出す。
もちろんそんな真優の複雑な感情など、シュウが知る訳もない。
「なんだぁ? ……真優の奴、なんかコエーな」
過ぎ去る二人の背中を呆然と見つめるだけだ。
「なに言ってんのさ、シュウ。あれが真優の普通だろ。早くおいら達も行こうよ。遅れたら、それこそ真優に怒られるから」
「まあ、真優の天気はともかく、空は晴れてて爽やかだからな」
ともかく爽やかな空だ。両腕を開き、空に向かって大きく伸びをする。
「これぞ絶好の縁日日和ってやつだな」
そしてゆっくりと二人の後を追った__




