表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

えんにち


 ~翌日~


 放課後の活気溢れる廊下。多くの生徒がそれぞれの時間を楽しんでいる。

「今日ってバイト休みだよねシュウ?」

「ああ、たまの休みだぜ」

 そこをシュウと太助が並んで歩いていた。

「それじゃあさ、近くで縁日やってるんだけど、四人で行かない?」

「縁日だぁ?」

 気だるそうに視線を向けるシュウだが、太助は後方を向いている。

「真優とマリアちゃんも行くよね?」

 その視線が捉えるのは、後ろから付いてくる真優とマリア。

「ええ? ……シュウと太助と?」

 その台詞に一瞬立ち止まる真優。

「どうするマリアちゃん?」

 そして横のマリアに訊ねる。とはいえ嫌がっている訳ではないだろう。その表情は笑顔、小悪魔真優のいつものパターンだ。

「そうですね、私は大丈夫ですよ」

 それを理解するマリア。笑顔で答えた。

「縁日だと? ……なにをやるにも金が掛かるしな」

 しかしシュウは乗り気ではないようだ。腕を組み、ぶつぶつと考え込む。

「いいじゃんよ。今日は天気も良いし、絶好の縁日日和だよ」

「……縁日日和だぁ? そんなもんあんのかよ、てめーはホントにボキャブラリーに乏しいな。ってかそんなもん、春菜と二人で行けばいいじゃねーか。あいつは誘ったのか?」

「春菜は誘わなくてもいいよ」

 のほほんと言い放つ太助だが、シュウの問い掛けでその表情が暗くなる。

「はぁ、なんでだ?」

「いいものはいいの。今日は部活だし、どうせ口も訊いてくれないから……」

「口も訊いてくれなって、てめーら喧嘩でもしたか」

「……春菜が悪いんだよ。買い物に行って、ゲームを眺めていただけなのに、『もう、太助は子供なんだから』……なんて馬鹿にするから」

 口をとがらせブーたれる太助。どうやら、春菜とケンカの真っ最中らしい。

「どうせそのゲームの前で、数時間眺めていたんだべ」

「そのうえ、欲しいって駄々こねたとか?」

 すかさずツッ込むシュウに、真優が追い討ちをかけた。

 太助は無言だ。顔色を紅潮させ、モジモジと俯くだけ。

「なんだよてめー、高校生にもなってマジで駄々こねたのか?」

 それには流石のシュウも呆気に取られるだけだ。

「……うん」

 そしてその太助の告白に、堪らぬ衝動に駆られる。

「ぎゃははは、流石太助! 悪いが春菜の言い分が正解だぜ」

 太助を指差し、腹を抱えて大爆笑した。

「もう、子供なんだから」

「ふふふ、太助さん、ちゃんと春菜さんと仲直りした方がいいですよ」

 こうして爆笑の渦が巻き起こる。

「分かってるよ。後でちゃんと謝るよ……」

 太助の顔色が益々赤く染まった。

「まったく、笑わせんなよ」

 眼に涙を溜めて、笑いを堪えるシュウ。

 窓の外は久々の青空に包まれ、爽やかな風が吹いている。太助の言う通り外出するには絶好の天気だ。

「しゃーねーな。行くか縁日」

 指先で瞼の涙を拭い、マリアに訊ねた。

「はい」

 マリアが答えた。


 こうして会話に興じながら、四人は校舎の外に歩み出る。

 眼につくのは木々の緑と、制服の鮮やかな白。スーッと心地よい風が髪を撫でる。燦々と降り注ぐ陽射し、それさえも心地よく思える。

「お疲れ様です。シュウ先輩」 

 多くの生徒達で賑わう乗降口脇には、琴音の姿があった。

 それをチラリと一瞥するシュウ。

「よう小娘。風邪は治ったのか?」

 躊躇いもなく挨拶を返す。

「はい、おかげさまで元気です」

 対する琴音も笑顔。そこに少しの違和感も感じられない。

 その様子は太助からすれば不思議なようだ。

「……いつの間にか仲良くなったんだね」

 探るように訊ねた。

「バーカ、そんなんじゃねーよ」

 それをシュウはアッサリ受け流す。

「はい」

 琴音の表情も穏やかなものだ。

 シュウは琴音の存在を無理矢理否定することはなくなっていた。対する琴音も無我夢中でシュウを振り向かせることを止めていた。愛だ恋だ、好きだ嫌いだと言う前に、同じ人間同士だと気付いたからだ。

 しかしその二人の思いは太助には理解不能。口をポカンと広げて、呆然と見つめている。

「琴音ちゃん、良かったらこれから一緒に縁日行かない?」

 そして突然投げかけた。

 場の空気も考えない、呆れた台詞だ。それで真優の表情が一変する。

「ちょっと太助、ダメだよ。だれ彼と見境なく、他の人を誘っても。……琴音ちゃんだって忙しいだろうし」

 慌てたように投げ掛ける。戸惑うような視線、それが捉えるのはマリアの姿。

「私は大丈夫ですよ」

 しかし琴音はそれを快く快諾する。

「おいら焼きそばが食べたいな」

「バーカ、縁日ったらたこ焼きだべ」

 太助とシュウは別の話題で盛り上がっている。


 真優としては琴音の存在自体を否定する気はなかった。裏表ない真っ直ぐな性格だし、同性である彼女からしても共感すべき凛々しさは感じていた。しかしそれより大事にしたい存在があった。大切にしたいから、大切に出来ない。そんな矛盾に満ちた感情だ。

「……もう、勝手にしたら?」

 言葉に出来ぬもどかしさからか、呆れたようにため息を吐く。

「行こう、マリアちゃん」

「……え?」

 そしてたじろぐマリアの手を掴み、すたすたと歩き出す。

 もちろんそんな真優の複雑な感情など、シュウが知る訳もない。

「なんだぁ? ……真優の奴、なんかコエーな」

 過ぎ去る二人の背中を呆然と見つめるだけだ。

「なに言ってんのさ、シュウ。あれが真優の普通だろ。早くおいら達も行こうよ。遅れたら、それこそ真優に怒られるから」

「まあ、真優の天気はともかく、空は晴れてて爽やかだからな」

 ともかく爽やかな空だ。両腕を開き、空に向かって大きく伸びをする。

「これぞ絶好の縁日日和ってやつだな」

 そしてゆっくりと二人の後を追った__

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ