イジメっ子の野望
「……葛城くん」
「悪かったな小林、余計な仕事をさせてよ」
それを尻目に葛城とコブ茶は、淡々と会話している。
「……ボクは……」
「問題ない、後は任せて帰りな。もちろんてめーに手出しはさせねーよ、俺の命がある限り、ちゃんと守ってやるからな」
コブ茶の表情が安堵感からか崩れる。葛城の背中に深く最敬礼すると、そのまま赤く染まる光景に消えて行った。
「まさかお前の差し金か? ……コブ茶を使って、俺達を嵌める為に」
緊張からゴクリと唾を飲む広海。
「ああ、てめーらは狡賢いからな。こうでもしなきゃ、同じ土俵にあげられない」
ゆっくりと動き出す葛城。それに気圧されて広海達も後退る。
陽がゆっくりと西の空に沈んでいく。一瞬の輝きが葛城の姿を克明に照らし出す。
……真っ赤だった。その制服の隙間から見せるシャツは、おびただしい血飛沫で真っ赤に塗られている。夕陽に染められ、まがまがしく輝いていた。
「成る程、昼間大瀬良達が馬鹿やって早退したそうだったが、全部てめーの仕業か葛城」
全てを理解した広海。グッと身体に力を籠める。
「ああ、始まりのゴングは鳴らした。既に引き返すことは不可能だ!」
すかさず拳を放つ葛城。それを広海は両腕で咄嗟にガードする。
「くうーっ。流石は四天王、ビリビリシビれるぜ」
まるで丸太で殴られたようだ。凄まじい痛みを両腕に覚え、後方に飛び退いた。
「……ガードしやがったか。一発で決める予定だったのに」
「そこら辺の雑魚と一緒にすんなや」
こうして双方、間合いを取って対峙する。ざわざわと木々の梢がざわめく。バサバサと黒い影が一斉に羽ばたいた。
「てめーひとりなのか?」
不意に広海が問い質した。
「見ての通りさ。俺の単独よ」
「玉木に愛想でも尽かされたか? たった一人で、大瀬良達と俺達、それと連戦だなんて」
そして口元に笑みを浮かべる。
「意味深な言い方じゃねーか。なにが言いたい?」
「言葉通りだよ。大瀬良の件は訊いていた。奴を含めた五人、酷い有り様だったらしいじゃねーか」
大瀬良拓未が、誰かに敗北した事実は、ごく一部の間では広がっていた。その怪我の状態から、激しい死闘を繰り広げただろうことは安易に予測される。
「あいつをそこまで追い詰めたんだ、てめーだって無傷じゃ済まなかったよな?」
そしてその台詞で、その場の仲間達も理解する。
「確かにそうだよな。大瀬良拓未はその実力だけで、本牧レジェンド特隊まで掴んだ猛者だぜ」
「それを相手にしたんだ。怪我のひとつや二つ、下手すりゃ骨の数本イカれてっかもな」
その視線が捉えるのは、葛城のシャツに染み付いた血飛沫だ。多くは大瀬良達のものだろう。しかし葛城自身のものも含まれていると思われる。
「そんな状態で、俺達とやり合おうなんて、頭がイカれてるとしか思えねーよな。しかもたった一人でよ」
「それも言えてる。最近の葛城躍進の陰には、必ず玉木の姿があったからな。奴がいなけりゃ、その価値も半減だよ」
「馬鹿なヤローだぜ。飛んで火にいるなんとかってやつだよ」
「しっかり決めてやろうぜ。いい画面期待してるから。俺達はユーチューバーだな」
鼓舞するような広海。それに呼応して仲間達が葛城を取り囲む。
対する葛城は完全孤立の状態だ。普段なら玉木やサトル、その他多くの仲間を従えた、"学園最強軍"と恐れられた状態ではなかった。
それでも葛城は少しも動じない。
「戯言は済んだのか?」
ゆっくりと辺りを見回した。夕陽で赤一色に染まる光景、どこからともなく、夕焼け小焼けのメロディーが聞こえてくる。それはまるで地獄の光景にも思えた。やがて暗闇に包み込まれて、沈黙だけが支配するだろう。
「面白れーじゃねーか。俺はいずれ、チームのリーダーになる男だ」
「リーダーだって? てめーのような姑息な奴が、リーダーなんかになれる訳がねーだろ」
「ところがなれるんだよ。美野獣を攻略して、俺の配下にしちまえばな。そうなりゃナイトオペラだって恐くない、沖田一弥とも相対することになるだろう。その前哨戦として、てめーの首を討ち取るのも面白い!」
「よく喋る奴だな。喧嘩に言葉は要らねー、最後にモノを言うのは己の身体と拳だけ。その覚悟は出来てるんだろうな?」
「当然だろ。その余興、付き合ってやるさ!」
「そうこなくちゃ!俺の野望はこれから始まるのよ。たとえこの身が滅びようと、この学園のてっぺん、掴んだるわ!!」
一斉に動き出す広海と葛城。
徐々に闇が支配しだす校舎裏。めらめらと燃え上がる焔は、やがて来る地獄の業火をも表す。儚くも激しい、闘いの焔が揺らめきだしたのだ__




