表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

男としての覚悟


 再び覚めた空気が漂った。俯き感情を押し殺す葛城。

「喧嘩も商いも出来ん極道は、極道失格っちゅうこっちゃ」

 それに追い討ちを掛けるように佐渡が吐き捨てた。

 その台詞に、葛城の中の感情がブチ切れた。

「俺はそれぐらいの腕力と器は兼ね揃えておるわ!」

 敢然と佐渡を睨み、言い放った。

「なにを半端な台詞、ほざいているんじゃ! ガキが調子に乗るなや、まだ尻の青い分際で。葛城のオジキの失敗は、喰らってた懲役の長すぎたことじゃのう、高齢過ぎて“くたばる”まで後継者が育たなかった」

 呼応して声を荒げる佐渡。

 葛城の顔色が、感極まり真っ赤に染まる。

「親父が死んだような言い方、してんじゃねーよ! 俺の親父は、てめーみてーな小者とは違うんじゃ!」

 憤怒の感情を爆発させるように叫んだ。

 それは会の大物に吐き捨てる台詞ではない。だが我慢がならなかった。全てを捨ててでも守りたい一線だった。

 対する佐渡の額に青筋が走った。

「ガキがぁ! いくら葛城の実子とて許さんぞ、ワレの組、断絶させたろか!?」

 場の空気が凍りつく、一触即発の空気が漂う。それには会長も気が気ではない。堪らずその場から立ち上がろうと腰を起こす。


 ズダーーン! 不意にテーブルを叩く音が響いた。

「佐渡さんよ、あんた小僧相手に熱くなり過ぎじゃねぇ?」

 それはサングラスの男だった。背もたれに大きく背中を預けて、右足をテーブルに投げ出していた。

「なんじゃと、“赤城あかぎ”もう一遍言ってみろや」

 負けじと視線をくれる佐渡。

 サングラスの名は赤城恭介あかぎ きょうすけ。弱冠四十にして仙波組若頭を務める人物。場の空気にも拘らず、ひどく冷静な男。それでも業火のように熱く、それでいて凍り付くような覇気を放っている。

「さっきから訊いていりゃ、器だ資格だと細かいことをベラベラと。要するにその小僧、それなりの腕力と器を備えていれば問題ない訳だろ?」

「じゃから、このガキにそんな器は……」

「答えは単純だ。数十人を腕力で捻じ伏せて、数百人を器で取り込む。それが極道のあり方だ。違いますかオヤジ」

 赤城が傍らの老人に訊ねた。

「そうじゃのう」

 老人が頷いた。老人の名は仙波せんば。仙波組々長にして貴神会理事長。会長や文左衛門とは昔からやんちゃしてきた仲だ。

「ワシら昔は、そうして関東の荒野を切り拓いたもんじゃ」

 懐かしげに呟く仙波。

「そうじゃな、ワシらの青春よ」

 会長も呼応して笑う。

 そのほのぼのとした空気に、流石の佐渡もそれ以上の追及は出来なかった。既に場の空気は赤城擁護で進んでいたのだ。


 口惜しげに歯を噛み締める佐渡。

「誠……」

 さっきまでにない真面目な表情だ。葛城もその気を読む。

「……はい」

 神妙な面持ちで答えた。

「葛城組、継いで貴神会の末席に名を連ねさせたけりゃ、ワシらを認めさせてみろ」

「認めさせるって?」

 その意味が分からず佐渡を見据える。

「ワレの通う高校、確かオークだったな。県下一の悪たれ校」

 意味深な台詞だ。

「はい。……それが?」

「そこのてっぺん、奪ってみろや」

 そして通達した。

「オークだって? ……よりによってあの高校か」

「なんじゃそのオークって?」

「極悪の最悪校さ。あそこのてっぺんなんて、神奈川の覇権を握るに等しい」

「……成る程、兄貴らしい難題だ」

 ひそひそと囁きあう男達。

 その話を赤城は腕を組んで覚めたように聞き入っている。『ふん、所詮はただの人。下らなすぎる……』そう痛感して静かに瞼を閉じた。


「……そいつが葛城組五代目への手みやげじゃ」

 佐渡の口元がかすかににやけた。彼自身も分かっていたのだ。オーク学園の凄まじさ、てっぺんを掴むことの難しさを。

「さ、佐渡の兄貴。……そいつはあんまりだ。あの高校は……」

 堪らず言葉をひねり出す英二。だがそれを葛城が腕をかざし制した。

「承知しました」

 グッと佐渡を見据え深々と最敬礼した。


 それは葛城にとっても無謀と承知のことだ。まるで、広大な荒海に丸太ひとつで挑むようなこと。鋼鉄の戦車に竹槍ひとつで挑むようなこと。

 それでも確率は0ではない。無謀だと諦めるよりは大分マシ。病床に伏せる父の為、その父を必死にサポートしてきた義兄の為。そしてなにより多くの同胞なかま、そしてその家族の為にも、前に進むより道は無かった。

 そしてなにより、それこそが仁に生き、義に散る者の覚悟だから__


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ