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関東の雄



 ~都内某所~


 多くの豪邸が建ち並ぶ、高級住宅街の一角。


 玉砂利の敷き詰められた邸内庭先には、多くの高級車が停められている。そしてその周りを黒いスーツを着込んだ男達が、剣呑な面持ちで警備していた。

 ここは関東一円を統べる広域指定暴力団・関東貴神会々長の邸宅だ。

 邸宅内の広間には幾多の屈強な男達が集っていた。その場に居合わすのは、貴神会・執行部役員。

 この日この場で、会の今後を質疑する定例会が開催されていたのだ。


「……それでは決議を。……貴神会としては、"違法ドラッグ、セブンスヘヴン"への介入は御法度、それで宜しいですな?」

 議長らしきパンチパーマの男が通達する。

「異議なし」「問題ない」「ああ、良かろう」それに男達が同意した。

「……本日の議題は以上で終了となっております」

 こうしてその日の議題は終了した。同時に場にガヤガヤした会話が生まれる。

「いゃあー終わったな」

「ワシらが、ヘヴンなんて外道にはまる訳なかろうに」

「しかしヘヴンも侮ったものじゃないぜ。神奈川を中心に流行だしつつある」

覚醒剤ポンに比べて若い連中には受け入れやすいしな」

「だけど卸元が分からんから難儀しよる」

「……では改めて会長、一言宜しくお願いします」

 しかしその議長の一言でざわめきが掻き消える。誰もが一点を見据えた。

 その視線の先、上座に威風堂々と控えるのは、ピカピカに輝く頭の老人。おちょぼ口に団子っ鼻と、愛嬌こそあるものの、その刺すような視線、威圧するオーラがあった。この人物こそ関東の覇を担う人物、関東貴神会々長だ。

 とんとんと、禿げた頭を右手で撫でる会長。

「今日の総会、葛城の身内の姿がないようじゃな」

 ゆっくりと席を見渡す。

「ドン会長、その件に関して、一言いわせてもろうて宜しいでっしゃろか?」

 すかさず一人の男が言った。がっしりした体格の、角刈り頭の男だ。

「“佐渡さど”か。いいじゃろ、言ってくれ」

 男の名は佐渡竜一さどりゅういち。佐渡組々長で、貴神会の執行部本部長をも務める人物だ。

「今回の会合、ワシの一存で葛城の組には、連絡入れなかったんですわ」

 誰もが信じられぬ台詞だ。場にひそひそとしたざわめきが生まれる。

「ほほう、何故そのようなことを?」

 同じく会長も寝耳に水の様子だ。探るような視線を佐渡に向ける。

 ゴホンと咳払いする佐渡。

「結論から言いますわ。葛城のオジキには、役員の座から退いて貰いたいんですわ」

 それで場の空気が一変した。

「馬鹿な? あの方は貴神会の功労者だぞ!」

「そうじゃ、文左衛門公は数々の武勲ぶくんを挙げた、昭和最後の侠客じゃ」

「……じゃが、かなりの高齢だ」

「確かに。若頭の英二には執行部の器などないしな」

「入院中のオジキには悪いが、佐渡の兄貴の言葉、一理あるわ」

 さまざまな意見で紛糾ふんきゅうする。それだけ葛城文左衛門は多くから尊敬され、同じくらい佐渡竜一は多くから擁護されていた。

 しかしそれには興味を示さぬ者がいるのも確かだ。サングラスをかけた黒髪リーゼントの男だけが、覚めたようにそっぽを向いていた。


「佐渡、お主の意見は分かった。……確かにウチの執行部は高齢化が進んどるしな。血の若返りも必要じゃ、それは認めよう」

 組織とは人の繋がりだ。カリスマと呼ばれた人物が牽引して、更なる発展を目指す。そうして磐石な体制を敷いていき、益々の発展を目指す。

 しかしいつまでもそのままではいられない。時代は移り変わり、人は必ず老いていく。だから人は人を育て、新たなる人を育てていく。古い世代は消えて行き、新たなる世代が牽引していくのだ。

 つまりそれこそが血の若返り。安定などないのだ。突き進むことだけがそれを可能としていく。それこそが時代だから。

「流石はドン会長ですわ、話が早い」

 佐渡の口元が緩む。対して高齢な長老方の表情が強張った。

「……だがな」

 神妙な面持ちで口を開く会長。古い世代が消え去るのは仕方ない。しかしだからこそ、言っておきたい本音もあった。

「堪忍して下さい! 今は会議の最中ですけ!」

 しかしそれを遮るように、外の方から怒号が響いた。

「急用なんじゃ!」

「すんません。会長に話があるだけですから」

 激しい言い争いだ、どうやら押し問答をしているらしい。

「……なんじゃ、外が騒がしいのう。いったいどうしたんや?」

 怪訝そうに言い放つ佐渡。

 それに反応して、後方の若い男が立ち上がる。そして庭先へと続く襖を開いた。

 庭先には邸内を警備していた若衆が数人、それと葛城と英二の姿があった。

「……お主らは?」

 その様子を会長の視線が捉える。

 警備の若衆は気まずそうな様子だ。『すみません』と頭を下げる。

「まあよいわ、葛城は身内じゃしな。下がってよいぞ」

 それでもその会長の一言で、『失礼します』とそそくさとその場を後にした。

 こうして葛城と英二は、二人並んで貴神会幹部達とまみえることとなる。

「これはこれは、葛城の若頭」

 佐渡が言った。馬鹿にしたようなにやけ顔だ。

「ご無沙汰してます、佐渡の兄貴」

 深々と最敬礼する英二。その後ろでは葛城も無言で最敬礼する。

「挨拶はええが、なんや物騒やの? 会合の席に殴り込みとは」

 ゆっくりと廊下に歩み寄る佐渡。卑下た目つきで見下ろした。

「滅相も御座いません。ウチとしては、こんな手荒な方法したくなかったのですが、どう言う訳か今回の会合の件、ウチへの連絡がなかったもので」

 英二の方も見透かすように、上目遣いで見据える。互いに思いは違うが、腹の内を探るように睨み合う。辺りにビリビリとした緊張感が張り詰めた。

「ドン会長、この件、ワシに一任して貰っても宜しいんでしたな」

 念を押すように問い質す佐渡。その問いかけに無言で頷く会長。

「連絡せんで正解なんじゃ。葛城組には、執行部役員会から退いて貰うつもりじゃ。葛城文左衛門が健在でなけりゃ、葛城組なぞ喧嘩のひとつも出来ぬ寄せ集め集団じゃからな」

 大胆な台詞だ。会長の御墨付きを貰ったことが、それを可能にしたのだろう。

「……なんだって?」

 納得出来ず、わなわなと震える英二。グッと唇を噛み締めて拳を握る。

「なんじゃその拳は?」

「……いえ、これは……」

 そして続く沈黙。

「文句があるなら、ワシらと戦争してみるか?」

 理不尽な台詞ではあった。それでも相手は会の大物、英二は格の違いに身を引くしか術がなかったのだ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! そいつは理不尽すぎるだろ!?」

 しかし若い葛城は納得出来ない。身を乗り出し反論する。

「葛城の小僧か。ここはてめぇのようなガキがでしゃばる場所じゃねー、素直に家に帰りな」

 それを佐渡が一蹴した。

 葛城組と佐渡組は、隣接する縄張り同士。故に互いに面識があった。

「ガ、ガキじゃねーよ! 俺は葛城の代紋を継ぐ男じゃ!」

「ダメですよ実子。相手は貴神会の本部長でっせ」

 今にも襲い出しそうな剣幕で喰い寄る葛城を、英二が後方から羽交い絞めする。ここで拳を奮えば、真っ先に咎められるのはこの二人だ。それどころか貴神会からの除名は確実となるだろう。それを理解しているからこそ、佐渡の態度は大胆になっていく。

「まったく、昔から変わらんガキじゃ。ガキの分際で代紋じゃと? 貴神会は世襲なぞ認めておらん。例え実子だとしても、それなりの腕力・器を兼ね揃えた者のみが、組を継ぐ資格が与えられるんじゃ」

 なにもない宙をこれ見よがしに掌で払い、冷ややかに言い放った。

 全ては葛城と佐渡の問題だ。それとは関係ない他の面々は、冷めたようにその様子を窺っている。

「ようやるのぉ、佐渡の兄貴も」

「若い頃は、さんざん葛城のオジキにしごかれたからな」

「……坊主憎けりゃ、袈裟けさまで憎いってか? ……英二だけならまだしも、あんなガキまでなぁ」

「あの調子で、葛城のシマ、乗っ取りそうだな」

「聞こえるぞ。こっちまで飛び火したら難儀やからな」

 多くの者は理解していた。これは個人の恨みだと。佐渡竜一による、葛城文左衛門への逆恨みによるものだと。

「おう佐渡、いくらなんでも、子供相手に言いすぎだろう」

 それでも流石に堪らず、白髪の老人がとがめた。

しつけですわ。世の中知らんガキに、世の中のルールを教えてやってるだけです」

 しかし佐渡の対応は一切変わらない。冷静にその言葉を受け流した。


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