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語られぬ者たちのサーガ  作者: 武田コウ
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運命の悪戯

「悪魔」


「疫病神」


「呪われた血・・・」


「気持ち悪い」


「こっちを見るな」


「悪魔」「悪魔」「悪魔」





 少年は物心ついた頃から、聞こえてくるのは自身をなじる罵詈雑言の嵐。


 ”悪魔” という言葉の意味を知る前から、ずっとそう呼ばれてきた。


 自身の名を知る前から、数え切れないほどの罵倒の言葉がこの身を叩いた。


 何が悪いのかも、 ”悪” とは何なのかも知らない。


 ただ、大人達の冷たい瞳が、その巨大な拳が、まるで ”悪” とは自分の事であると分からせるかのように・・・・・・。


 だからだろうか?


 魔物のはびこる森の奥に置き去りにされた時、恐怖よりも安堵の感情を覚えたのだった。



(ああ、やっと終われる・・・のか?)



 わからない。


 何かを深く考えるには、少年が歩んできた人生はあまりにも激しすぎた。


 痛みを伴わない時間を過ごすことが、酷く久しぶりに感じられる。伸び放題になった草花の上に寝転んでいると、自分の全身がくまなく痛む事に気がついた。


 無理も無い、物心ついてから今にいたるまで、ずっと周囲の人々に迫害され続けてきたのだから。


 しかし、束の間の休息にも終わりの時が訪れたようだ。


 足音を殺すことを考えていない、無造作に草花を踏みしめる荒々しい音が聞こえ、少年はそっと目を開いた。


 視界に広がる灰色の毛並み。ツンと鼻を刺すような野性の獣の臭気。少し視線を上げると、凶悪な顔をした狼のようなモンスターが、ギラリと鋭い牙を覗かせてこちらを見つめていた。


 生まれて初めて見る本物のモンスターの姿。


 不思議と、恐怖という感情は沸かなかった。


 ただ、ひどく寂しいと感じる。


 数秒後、おそらく自分は命を落とすのだろう。


 呆気なく、


 まるで最初から、村中から忌み嫌われた少年なんていなかったかのように、その存在ごと消えていなくなる・・・。


 嫌われて、恐れられ、迫害されるだけの人生。



(ならば何故生まれてきた?)



 寂しかった。


 そして、悔しかった。


 生に執着など無い・・・その事実自体がたまらなく嫌だった。


 モンスターが、その巨大なアギトをカパリと開く。ぬらりと唾液で濡れたその牙は、呆気なく少年の命に届きそうだ。


 抵抗などできない。


 疲れ切った少年に、そんな力は残っていない。


 ただ、透明な涙がタラリと力なく頬を伝った。




(・・・・・・ああ、死ぬな)




 何の感情も無く、ただ事実としてそう思った。


 次の瞬間、視界を占領していた灰色のモンスターが、真横から飛来した何か巨大な物体によってはじき飛ばされた。


 巨大だと感じていたモンスターより、さらに巨大な存在。


 どうやらシルエットは人型に近いようだが、焼けただれたようなケロイド状の皮膚と、口から覗く長く鋭い、肉食獣の犬歯がその存在を人外であると悟らせた。


 巨人は、どうやら少年になど興味が無いようで、タックルではじき飛ばしたモンスターに馬乗りになると、その巨大な拳でモンスターの頭を思い切り殴打する。


 堅いモノで肉を打つ、鈍く湿った音が響き渡る。


 灰色のモンスターも幾分か抵抗をしていたが、力の差は圧倒的で、為す術も無く巨人の鉄拳の前にその命を散らした。


 返り血で真っ赤に染まった巨人は立ちあがると、大口を開けて、空に向かって咆哮した。


 鼓膜が破れんばかりのその咆哮を聞いて、何故か少年は、ほんの少しだけ高揚している自分に気がつくのだった。



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