人猫パート1
「ミーンミミミミーン」
夏を象徴しているとも言えるセミの鳴き声に起こされ、少々気分が悪い。木々の間から指す光に感動しながら今日も飼い主のことを考えている。寒い冬の日に段ボールに入れられ、現在の住処となっているこの森に捨てられた。思い出すだけで寂しくなる。「いつか迎えに来てくれる」そんな叶わない希望を持ち、春夏秋冬を何回も繰り返してきた。かなり歳をとっていたお爺さんだっただろうか。持病があるようで病院へも何回も行っていた。捨てられた直後は憎んでいたが、心配になってきた。
「探しに行こう」
この決断が自分の運命を大きく左右するのはこの時考えもしなかった。
おんぼろ脳内ナビで自分の前住んでいた家へと向かった。かなり古い平屋で誰でも一瞬でわかる。確か右隣が魚屋で、よく魚を盗み食いをしていたものだ。ところどころ昔の街並みの面影はあるが、随分と変わっている。30分くらい歩いていると魚屋が見えてきた。しかし様子がおかしい。いつもなら朝早くから店が開いていたのに、シャッターが閉まっている。そして何より隣に家がない。立ちすくんでいると急に声をかけられびっくりした。
「あの時の猫じゃな。久しぶりじゃの。あの飼い主を探しているんだったら、さっさと帰った方がいい。もう病気で死んでしまっているからな。去年の春くらいだったかのぉ」
死んでしまったという事実を認めることが出来ず、現実から目を背けるために全速力で走った。倒れそうになるまで走り、石でできている橋についた。「もう生きる意味なんてない」そう思った俺は、橋から川に向かって飛び降りた。川の流れに飲み込まれ意識が遠のいていく。しかし
「バシャバシャ」
誰かが泳いでくる音がしてきた。
「止めてくれ。来ないでくれ。」
最後にそう思い意識がなくなった。
パート2へ続く