CASE 4
微妙に続き物です……、がここでは1話完結で載せます。
『別れ』から何かが始まるときもある。
漠然と想像した未来の自分は――自分の未来は、この男の横にあるのだと思っていた。
人生は予測もしない方向へと分岐する。
運命は交差し、離れ、そしてまた交差する。
繰り返される出会いと別離。
そして再び、出会いの章が始まる。
「六花」
耳を掠め自分を呼ぶ声に、そこにいるはずの無い人を想い、鼓動が速まる。
時が止まる。
……『戻る』といったほうが、正しいのかもしれない。
纏わりつく空気は水。
まるで、水中にいるような感覚。
世界が低速になる。
振り返った先、車のライトを背に立つ男のシルエット。
信じられない。
こんなところにいるわけが無い。
そう思うのに、口は男の名を刻んでいた。
「…あいざわ?」
ホントに?
訝しむ心とは裏腹に、足がそちらへと向かう。
まだ、信じられない。
その男の顔を見るまでは。
近づくほどに男の輪郭が知っている男のそれと重なる。
思わず駆け出していた。
駆け寄り男の背中に腕を回してきつく抱きしめた。
その存在を確かめるように。
煙草とトワレ、そして熱いほどの男の体温。変わらぬ男に、知らず張詰めていた気が弛む。
懐かしい男の香りを胸いっぱいに吸い込み、安堵のため息が漏れる。こうして落ち着いてみれば、先刻までのイライラがウソのように消化されていく。
見上げた六花の瞳には感傷や感慨といったものは見えない。
「久しぶり」
六花の、どこか挑むような瞳に男は苦笑を漏らした。
当り障りの無い台詞。なのに、瞳だけではなく声にも何故か、挑戦的な響があった。それすら男は苦笑して受け止める。
「どうした。嫌な事でもあったって面だな」
聞きたかった、この声。
深みのある落ち着いた声は離れていても良く通る。この声だけを聞いて生きていたいと思ったこともあった。
今はもう、…昔のことだけれど。