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別れ  作者: 木崎 るか
8/9

CASE 4

微妙に続き物です……、がここでは1話完結で載せます。

『別れ』から何かが始まるときもある。


漠然と想像した未来の自分は――自分の未来は、この男の横にあるのだと思っていた。

人生(みち)は予測もしない方向へと分岐する。


運命は交差し、離れ、そしてまた交差する。

繰り返される出会いと別離。


そして再び、出会いの章が始まる。





六花(りっか)

 耳を(かす)め自分を呼ぶ声に、そこにいるはずの無い人を想い、鼓動が速まる。

 時が止まる。

 ……『戻る』といったほうが、正しいのかもしれない。

 纏わりつく空気は水。

 まるで、水中にいるような感覚。

 世界が低速になる。

 振り返った先、車のライトを背に立つ男のシルエット。

 信じられない。

 こんなところにいるわけが無い。

 そう思うのに、口は男の名を刻んでいた。

「…あいざわ?」

 ホントに?

 訝しむ心とは裏腹に、足がそちらへと向かう。

 まだ、信じられない。

 その男の顔を見るまでは。

 近づくほどに男の輪郭(りんかく)が知っている男のそれと重なる。

 思わず駆け出していた。

 駆け寄り男の背中に腕を回してきつく抱きしめた。

 その存在を確かめるように。

 煙草とトワレ、そして熱いほどの男の体温。変わらぬ男に、知らず張詰めていた気が弛む。

 懐かしい男の香りを胸いっぱいに吸い込み、安堵のため息が漏れる。こうして落ち着いてみれば、先刻までのイライラがウソのように消化されていく。

 見上げた六花の瞳には感傷や感慨といったものは見えない。

「久しぶり」

 六花の、どこか挑むような瞳に男は苦笑を漏らした。

 当り障りの無い台詞(コトバ)。なのに、瞳だけではなく声にも何故か、挑戦的な響があった。それすら男は苦笑して受け止める。

「どうした。嫌な事でもあったって(つら)だな」

 聞きたかった、この声。

 深みのある落ち着いた声は離れていても良く通る。この声だけを聞いて生きていたいと思ったこともあった。

 今はもう、…昔のことだけれど。


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