CASE 2-5
則子(仮名)編 終了
駆け寄ってこようとする男に私は拒絶の声を上げた。
「こないでっ!」
暴力を受けた痕の残る顔を背け、砂衣斗の腕を、縋るように握り締めた。
乱れた衣服をもう一方の手でかき合わせる仕草に男は躊躇した。
「…姉さん」
気遣う砂衣斗の眼にも、哀れみと労わりの色がある。
男の視線から守るように私を背にかばうと、砂衣斗が静かに男に告げた。
「姉さんにはもう、近づかないで下さい」
美貌の砂衣斗。
彼の表情が見えないのは残念だけど、声だけで判る。やっぱり上手い。
自分の冷たい表情が、どれほどの効果を発揮するか知っている。
男は砂衣斗の、怜悧な視線を受け止めることもできず。
ただ、苛酷な現実を突きつけられ、打ちのめされるのだった。
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あの夜から三日が経っていた。
頬の腫れも引き、すっかり元通りだ。
疲れを感じさせぬ笑みで仕事を終えた二人を高宮が迎えた。
砂衣斗が報告をしている間、私は目を閉じ腕を組んだまま、時折報告内容に修正を加えていく。
「―――以上です」
そう締めくくった砂衣斗に高宮が「ご苦労様」と声を掛けるのを聞いて目をあけた。
「まだよ」
二人の視線が同時に私を見た。
高宮は「来た!」と緊張に表情を硬くし、砂衣斗からは「あまり苛めないで下さい」的なオーラが感じ取れた。
「高宮、私が言いたいことはわかっているわよね?」
「…」
「人員の確保は出来ない、社員の体調も気遣えない。あげく、貴方も今回は動いていたらしいじゃないの」
そして、延々続く説教を食らった高宮はげんなりとやつれた顔に無理やり笑みを貼り付け、今日(自分)のために用意した二枚のチケットが入った封筒を渡し、お引取りいただくことになるのだった。
今日はクリスマスイブ。
なんとか間に合ったみたいね。
機会があれば外伝も書きたいなあと思っております。