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別れ  作者: 木崎 るか
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CASE 2-3

仕事用の携帯が鳴り響く。誰?

『姉さん?』

 聞き覚えのある声。

 澄んだ声色(こわいろ)、穏やかな口調、何よりも私のことを『姉さん』と呼ぶのは美貌の天使・砂衣斗(さいと)しかいない。すぐにあたりをつけてこたえた。

「久しぶりね、砂衣斗」

『遅くなってすみません』

 それだけで今度のパートナーが彼だとわかる。直接対象者に接触するのが表の仕事だとするとサポート役は裏。顔の良し悪しは別にしても、(かも)し出す雰囲気は重要だ。情報を集めるにしても怪しまれていては話にならない。それ以上に、組む相手が美形だというのは目の保養にもなる。

 何度か組んだことのある相手だ。

 彼の実力は知っている。

 聞きとりづらいというほどのことはないけれど、室内ではないとわかる程度の雑音がスピーカーを通して聞こえることに首をかしげた。

「外にいるのね」

『…あ、』

 言いよどむ気配に表情が険しくなるのがわかる。

「もしかして、今まで別の仕事をしていたの」

 通常、一件片付くごとに短くとも2・3日のスパンを置くのが規則になっている。いくら忙しいからといって、いくら有能だからといって、いくら断れないからといって、それを破っていては身体が持たない。肉体的なことだけではない、目に見えないからこそ精神の疲労は怖い。特に体力に自信のあるものは、精神の不調に気付きにくいという例も少なくない。

「他の人間をまわしなさい」

 答えない砂衣斗に厳しく言うと諦めにも似た溜め息がもれ聞こえる。

『姉さん。人手が足りないんです』

 絶句。

 申し訳なさそうにいう砂衣斗に呆気にとられる。何かの聞き間違いかとおもったがそうではないらしい。よくよく話をきいてみると一線で活躍していた人間がこぞって退職したという。

 それも寿退社とあっては会社側も引き止めるわけにはいかない。かくいう私もその中の一人なわけで、あちゃあと額を抑えてしまう。

 仕事の性質上、恋人もしくは本命・連れ合いなどが出来た場合一線を退くのは当然のことだった。私情を持ち込まないというのは鉄則だが、それ以上に別の人間に心を奪われている状態では仕事内容に支障がでるからだ。

 となれば、人員の確保も出来ないうちから仕事の依頼を引き受けた人間の責任能力が問われるのは明白だった。

「高宮を寄越しなさい」

 なるべく怒りを抑えた声で言う。こうなったのは砂衣斗のせいではない。

『…姉さん…』

 困り果てた様子の砂衣斗に構わず言い募る。

「あなたがいえないようなら私が言うわ」

『…連絡をとることはできません』

 躊躇(ためら)いがちにいう。砂衣斗の口からはいえないと解釈した私は「じゃあ、直接高宮に話を付けるわ」といおうとして砂衣斗の言葉に遮られる。

『高宮も仕事中です』

 またもや、絶句。

 これで意味を取り違えるようではパートナーとしての資質をコチラが疑われることになる。

 間違っても通常業務を執り行っているという意味ではない。現場に入っているという意味だ。社長の地位にある人間が行うようなことではない。いうなれば、総大将が足軽の任務についているというのと同じだ。

『だから、俺で我慢してください』

 こうまで言われては悪し様に突っぱねるわけにもいかない。

「足を引っ張られるのはご免よ」

 それでも酷い言いぐさになってしまったのは仕方がない。本心でもある。

刻苦勉励(こっくべんれい)させていただきます』

 神妙に答える砂衣斗に(たま)りかねてうなり声を上げる。

「何が気に食わないって、高宮が自分の尻拭いをあなたにさせることに腹が立つわ! 砂衣斗も砂衣斗よ、自分を大事にしなさい」

 電話の向こうで砂衣斗がくすくす笑い声を上げている。

「なによ?」

『変わってませんね。言われると思いました』

「まったく、笑い事じゃないわよ。終わったら覚悟しときなさい」

 パートナーの変更は現状ではムリ。となれば、この話はこれで終わり。頭を切り替えて仕事の話に移る。2、3調べてほしいことを挙げて電話を切った。

 結果次第では予定を早めることも可能だろう。

 果報は寝て待て、ではないけれど今後起こりうるいくつかの状況を想定しつつ料理を再開した。


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