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別れ  作者: 木崎 るか
3/9

CASE 2-2

『別れ屋』それが私の仕事。…といっても今回は短期のバイトなのよね。さっさと終わらせなきゃ。

 バカな()

 則子なんて女いないのに。

 半分は『呆れ』で半分は『同情』。

 コチラにまわされるのは余程女関係に問題ありな(浮気とか不倫とかそういった泥沼化決定みたいな)のが多いのに、調査書にはいたって普通の、う〜ん、ひと月と経たないうちに彼女をとっかえひっかえしている男を『普通』の枠でくくるのは考えものだけど、それでも十分コチラからみたら「普通の域をでない」っていう報告には呆れてしまった。

 依頼主は彼の父親。放蕩息子のしつけを依頼してくるなんて。

 まあ、それも最近では珍しくないんだけど。実の親に『別れ屋』を依頼されるのはなんだか、可哀相。

 もっとも、仕事に入ればそんな同情なんてドブの中にポイしてお仕舞いだけどね。

 その調査書をもってきた社長・高宮に一瞥を投げると男は苦笑して言った。

『本来なら君にまわすような依頼じゃないんだけど、優秀な人材がいまの時期は不足していてね』

 三十半ばの色男。

 青臭さを微塵も感じさせない物腰と人当たりのよさ。眉の形は力強く鼻梁はすっと通り、切れ長の瞳は鋭さだけでなく茶目っ気や温かさまで備えている。長身の体躯には適度に鍛えられた筋肉がつき、中年なんて言葉は『前途有望な青年実業家』の看板に隠れている。

 苦笑すら様になる男は女の母性本能をくすぐりまくってきたことだろう。

 胸元に光るチェーンの先にあるペアリングが、誰にはまっているのか知っている私には通用しないけれどね。

 『この時期』と言われてすぐに察しはついた。二月・三月・十二月、なかでも十二月は繁忙期、またの名をかきいれ時。

 とっくの昔に足を洗ったつもりでいたのに、急な呼び出しに何事かと駆けつけてみたら『バイト』の勧誘だった。

『アイツには俺が話を通すから』

 人畜無害(そう)な笑みがこわい。

 どう『話を通』したのかは知らないが、アノヒトが親友の頼みを断れるはずがない。

 『お仕事頑張って』とガッツポーズ付きで言われた日には、何を吹き込まれたぁ!?と脱力してしまった。

 どうせ、人助けだなんだと理由をつけてあることないこと耳に優しいことを吹き込んだに違いないのだ。


 リミットまで十日。

 仕事用のアパートは会社が用意していた。

 この仕事をしている間はプライベートは一切見せずに行う。

 服装や外見・話し方は当たり前。性格や経歴も勿論、必要とあれば仕事場や家族、友人といった人物までをも仕立て上げる。

 短期間の事例なので仕事場なんかは設定のみで十分だ。

 基本的に細かい指示はない。

 大雑把に依頼内容が伝えられる。

 例えば、元恋人からの依頼でメチャメチャ本気にさせてのぼせ上がったところをバッサリふって欲しいとか、親からいい縁談があるので今付き合っている男と別れさせて欲しいとか、妻から夫の浮気を暴いて欲しいとか、まあ言ってしまえば『希望』?

 とはいえ、浮気をでっち上げて離婚を有利に進める材料を揃えて、なんて人道的に(もと)る依頼は丁重にお断りされる。

 設定はすべて担当者が行うのが原則。

 会社はそれに見合った小物の調達。あとはせいぜい経過報告と結果報告が待っている。実行内容については会社が口出しすることはない。

 担当する人間の性格とかやり方があるので、こうしろああしろといわれてもムリなものは無理。

 問題が発生したときの対処法はやはり同僚に相談するのが一番。

 数をこなしている人間にしかできない、ものの見方や考え方、既に同じ様な事例を扱っていたりするからだ。

 場合によっては応援を要請したりもする。当然縦も横もつながりは強固だ。信用できないものは「使えない」レッテルを貼られてしまう。

 そして、重要に成ってくるのが『パートナー』と呼ばれるサポート役。

 仕事は男女ペアで行うものなので私の相手は男。

 『有能なのを手配してある』と社長は言っていたけど、未だ連絡がないのは心もとない。

 この程度なら一人でもできるかもしれないけど、油断は禁物だものね。

 アパートの一室で夕飯の用意をしながら考えていた。

 その時だった。

 テーブルに置かれた携帯から『ルパン三世のテーマ』が流れ出す。

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