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好きなひと

作者:和上奏
 

 私には好きなひとがいる。


 どのくらい前のことだろうか。
 私は大切な人(好きなひとではない)、オーナーと言った方が正しいのだろうか、その彼に連れられて、私は初めての土地へとやって来た。

 その土地こそ、私が今、普段暮らしている町だ。
ここは海沿いの小さな町で、よく美味しい魚が漁れるのだと町の人たちが言っていた。
いつも港には何隻もの船が波に揺られていて、何匹ものカモメがその上を悠々と飛んでいるのはいつもの光景だ。
海は深い青色で、澄んだ明るい水色と白い雲の組み合わせが、私はとても好きだった。

 私はいつもオーナーと海へ出ていた。
そんなオーナーは私と一緒にいるときは
「いい海だ...」
と言うのが口癖だった。

 そんな日々が続いた頃。
 大好きな『いい海』がある時私たちに牙を剥いた。

 その日は大荒れだった。

 私とオーナーはたまたま海へ出ていた。
海へ出る前、町の人が
「今日は海が荒れるから早めに帰って来た方がいいよ。」
と言っていたのをすっかり忘れて、沖合の方まで出てしまった。
しかも運悪く、この日に限って夕方に出てしまったのだ。
辺りはもう暗かった。

 風がゴーゴーと強く吹き、波で大きく揺れる。
水飛沫がからだを強く叩いて痛かった。

「これは大変だ。急いで帰ろう。」
必死になってオーナーは陸へと目指した。
だが、波がその行く手を阻む。
なかなか前に進めず、オーナーはイライラしていた。

「くそ!!!」
その時だった。
今までで1番大きな波がきた。
数mはあるのでは、と思わせるくらいの大きさだった。
まるで私たちを食べようと、大きく口を開けた魔物のようだった。
『危ない!!』
私は必死になって波から逃げたが、既に遅かった。

 私たちは波にのまれ、海の中へ押し込められた。
まるで蓋でもあるかのように、水面に顔を出すこともできない。
ごぽごぽ、と音がして隣を見ると、オーナーが苦しそうに手足をばたつかせている。
私はそんなオーナーを助けることもできず、海の底へ沈みかけていた。

 オーナーも体力が無くなってきたのか、だんだんと動きがゆっくりになってきた。

もうこれまでか、そう、諦めかけたその時だった。
上から、明るい光が私たちを照らした。
一回、二回。
何度も、何度も。
すると、その光の数が増え、誰かが海へ飛び込むのが見えた。

「大丈夫か!?」

 気がつくと、私はいつもの港にいた。
周囲には町のみんながいた。
オーナーは毛布に包まりながら、寒さでがちがちと震えていた。

「だぁから、今日は早めに帰れって言うたのに。」
 忠告してくれた漁師のおじさんが腰に両手をつけて、まさに仁王立ちしながら言った。
格好こそ今にも怒り出しそうな雰囲気だが、顔は笑っていた。

「船が一隻ないから、必死になって探したんよ。」
 港の前で居酒屋を経営している奥さんが言った。
大変だったんだから。と小さく呟いたが、奥さんも笑っていた。

「申し訳ない...。」
 だが、オーナーだけは泣きそうに、まだ震える声でそう言った。
その様子に町のみんなは大きく笑った。
「無事帰れたんだから、別にいいんだよ。」


「んじゃ、帰ってきたんやし、飯にでもしようや。」

 漁師さんがそう言ったのをきっかけに、私たちを探すために何もご飯の準備をしていなかった町の人々は、居酒屋さんに向かった。
居酒屋の奥さんは用意していてくれたらしい。

「本当にありがとうございました。」
オーナーは深々と頭を下げながら居酒屋へ向かおうとしていた漁師のおじさんに言った。
彼がオーナーを助けたらしい。
半裸で手にはぐっしょりと濡れたTシャツを持っていた。

 そんなおじさんは、いいってことよ。と言ったが、それでも尚、何度も頭を下げるオーナーに向かって言った。
「まぁ、あれのおかげやね。」

「あれってなんですか?」

「ん?知らんのか?あれはな、『おのぼりさん』や。」
漁師のおじさんは、はにかみながら少し遠くを指したが、暗くてよく見えなかった。

「『おのぼりさん』?」

「ヤツが何度もあんたが溺れてたとこ照らすから、早く見つけられたんだ。明日お礼言っとき。」
 そう言っておじさんも居酒屋の方へ行った。

 風が落ち着いてきたのか、雲の隙間からは少しだけ星が瞬いているのが見えた。
波も、少しだけ大きいが、溺れていた時よりは随分と穏やかになっていた。
心地よい波の音が聴こえる。

「ごねんな。怖かったろう?」
 オーナーが私に向かって言った。
 大丈夫だ、そういおうとした時、
「もう、早く来んさい!」
 居酒屋のドアから顔を出した奥さんに声をかけられ、オーナーは少しだけ急ぎ足で居酒屋へと向かった。

 その後の夜、私はずっと『おのぼりさん』のことが気になって、気になって仕方がなかった。
 命を助けてくれた恩人。
 暗い暗い海の中の私たちを誰よりもに見つけてくれたその人に、とても興味が湧いた。

 それは、初めての経験だった。

 数日後、私たちは久しぶりに海へ出た。
 目的は『おのぼりさん』に会うためだ。
彼は町から離れたところにいるため、海からしか行けないらしい。

「見たらすぐわかるってさ。」
 数日前のあの出来事が嘘だったかのように、私の好きな海の上を進んでいく。

「あ。あれかな。」
 彼は背が高くて、白くて、とても綺麗だが、今までどんな風と海にも耐えてきた強さがあった。
 ぜひ近くに寄ることができるのなら、そうしたかった。
 しかし、残念なことに船を着ける場所が見当たらず、遠くからしか見ることができなかった。
少し残念だった。

 そんな私をよそに、オーナーは手を大きく振って、ありがとう、と叫んだ。
 私も叫んだ。
『ありがとう!』


 それが彼、『おのぼりさん』こと、私の好きなひととの出会いだった。


 あの出来事があってから、オーナーは海へ出る頻度が減るかと思ったが、その逆だった。
「あのひとみたいに、海をもっと知っておかなきゃいけないもんな。」
 そう言って、仕事が終わった後、オーナーは何時間も海へ出て釣りをしていた。

 その度に私は彼のもとへ行こうといった。
 上陸はできないが、彼の目の前に停まった。
「お前は本当に『おのぼりさん』が好きだなぁ。」
 そう笑いながら、いつもそこでオーナーは釣りをしていた。
 岩が近いため、人があまり来ないらしく、魚がたくさんいるのだという。
 なので、オーナーの食事は毎日三食魚料理になった。

『こんにちは!』
 私がそう彼こと『おのぼりさん』に声をかける。

『あぁ。昨日ぶりだね。』
 彼は少し笑いながらいった。

 実は、初めて会った時、返答が帰ってきたのだ。
まさか返されるとは思っていなかった私はとても驚いた。
 それから私は彼と話すために何度も何度も訪れた。
 たまに天気が良くないときは海に出れないので、ひどく暇で、寂しくて、早く明日にならないか、と一日中考えた。

 数日経ったある日、私は聞いてみた。
『なぜ、あのとき私をすぐに見つけられたの?』

 今日は釣りの調子は良くないのか、諦めてオーナーは寝ていた。

 彼は少し悩んだ後、
『なんだか、助けてって声が聞こえた気がしたんだ。
そしたら君がいたんだ。』

 少しの沈黙のあと
『変だと思うかい?
そんな声が聞こえたなんて。』

 確かに私は声を出せる状況ではなかったし、出せたとしても届くわけがなかった。

 だからか、私はとても嬉しかった。
『そんなことない。
あなたのおかげで私たちは助かったのだから。』

 普通はありえないからこそ、何か私と彼の間にあるのではないか、という気がした。
 その時から、私の中で彼は特別なひと、好きなひとになった。



 どのくらい月日が経ったのだろうか。
 私は毎日のように、オーナーとは一緒だったが、彼のもとへ訪れ、オーナーは釣りを、私は彼との会話を楽しむ日が続いた。
 話すことしかできなかったが、私は毎日が幸せだった。

ある日、私はあることに気づいた。
船が一隻、また一隻と、新しく綺麗なものに変わっていっていることに。
あの時オーナーを助けてくれたおじさんは、まだまだ現役だと言い張っているが、白髪が目立つお爺さんになっていた。
居酒屋の奥さんも、娘がいたらしく、代替わりをしていて、店にはもうあまり立っていないのだという。
奥さんの唐揚げがもう一度食べたい、とオーナーが言っていた。

こんなにも変わっていたのか。

それが、思ったことだった。
ただ、それだけだった。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
どんなに月日が経っても、彼との関係は変わっていなかったからだろうか。
特に多くの日数が経っていることについては、何も感じはしなかった。

しかし、時というのは、結果的に何か私にも影響を及ぼすものであるのだと知った。

あの時助けてくれた漁師のおじさんは、腰を痛めたことをきっかけに漁師を引退した。
奥さんは、お店はもう何も心配はいらないね、そう言って数日前に亡くなったそうだ。

そしてオーナーは釣りに行く頻度が減った。
毎日行っていたのが、2日に一回、3日に一回。

とうとう、釣りに行かなくなってしまった。

「もう、歳だからさ、ごめんな。」
そう言ったのがもう、随分も前になる。

彼に会えない日々が続いた。

そんなある日のこと。
私はもうすっかり髪が白くなってしまったオーナーからある話を聞かされた。
「あの『おのぼりさん』な、壊して新しいのになるらしんだ。」
もう『おのぼりさん』って呼べないな、そうオーナーは悲しそうに言った。

この長い長い時間は、彼を傷め続け、とうとう柱にひびが入ってしまったらしい。

「久しぶりに見に行くか。」

そういって見えてきた彼の姿は、最後に見た姿から大きく変わってしまっていた。

真っ白だった体は少しくすんで、体は言っていたように、所々にひびが走っていた。
私を見つけてくれたあの強い光も、もう頼りなく、弱々しいものになってしまっていた。

『やあ。久しぶりだね。』

今度は彼から声をかけてくれた。

『あ、あの....』

何か返事をする前に、彼はそのまま続けてしまった。

『僕はね、もうすぐ取り壊されてしまうんだ。』
それはとても、穏やかな声だった。

『この長い間楽しかったよ。
最後に君とも会えて、僕はとても嬉しい。
本当に今までありがとう。
お元気で。』

何か言おうか迷っていると、オーナーがエンジンをかけた。
「そろそろ行こうか。」
陸へと戻り始める。

私は、何か言おうと思ったが、言いたいことがぐるぐると頭を巡って、喉が詰まった。
旋回した時、やっと私は大声で叫んだ。

『私もよ!
あなたとの日々が、とても楽しかった!
毎日、あなたとした会話が私の宝物よ。
いつも会える日が待ち遠しかった。
ありがとう!』

彼からの返事はない。
私は最後に叫んだ。

『あなたのことが好きでした!』

それでも、彼からの返事はなかった。


それから数日後。
重機を積んだ船が彼のいるもとへ向かって行くのを見た。

「『おのぼりさん』を見に行こうか。」
そう言ってオーナーは、おのぼりさんを見たい、と言う人たちを乗せて彼のもとへ向かった。

彼のもとに着いた時、彼の中にあったライトなどが運び出されるのが見えた。

「『おのぼりさん』が無くなるのは悲しいねえ。」
あの漁師だったおじさんが小さく呟いた。
病気のため、離れた町の大きな病院で過ごしている彼は、最後の頼みだと言って病院を抜け出したらしい。

数時間後、全ての準備が整ったのか、大きな黄色い重機が、彼の白い体に大きい玉をぶつけた。

見にきていた町の人の顔は少し寂しそうだった。

ドカッと音がして、ひびが大きくなる。
何度も、何度も、ぶつかって、へこんでいく。

「崩れるぞー!」
そういって重機が離れた。

そして、ミシミシ、という音がして、彼が傾き始めた。

私はもう一度、彼に向かってこう呟いた。
『さようなら、私の好きな人』

そういって、私は大きく、長く、汽笛を鳴らした。

その時、返事をするかのように彼が一瞬私を照らしたかのように思えた。


「好きなひと 〜船と灯台〜」
30分ぐらい自転車を漕ぎながら考えた低クオリティです。
久しぶりに書いたので、読み手にうまく伝わったか少し不安です.....。
ミステリとかであるような、最初は〇〇だと思っていたけれど、実は違った、的な話を一度書いてみたくて頑張ったのですが、やっぱりとても難しかったです。
勘が良い方はすぐわかってしまったと思います。

終わり方がハッピーともバッドともいえなくて、あらすじにも何も書けなくて申し訳ない感じです。
読んでくれた方の地雷じゃないことを祈るばかり...。

なぜ、彼を『おのぼりさん』という名前にしたかというと、
灯台→高い→のっぽ→伸びる→のぼる→おのぼりさん
って感じです。
灯台じゃない違う言い方があるか探してみたのですが、見つけることができずこうなりました。

それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

最後に「灯台からライト取り出してるからもうないじゃん?話の流れ忘れたの?」って思う方いるかもしれませんが、そういうオチです!はい!

またいつか、お会いしましょう!

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