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即興シリーズ

3、2、1……

作者:





3、2、1……




そう心で唱えると、彼の姿がそこにあって。でもなんでかな? 見ることはできるのに、声が出てこない。触れたいのに、手に力が入らないや。


そんな私に、彼はさみしそうな笑顔を見せる。知ってるよ? 私を悲しませないように、不安にさせないように。無理して明るく振舞おうとしてたって。でもね、その表情で分かっちゃうんだ。ほんと、嘘が下手で優しい人。


そんなところが、大好きなんだけど。




♦︎




3、2、1……



今日は曇り空だね。なんでかな、とても不安になってしまう。君はそんな空を見上げて、見たことない顔をしてる。…… そんな顔も、ちゃんとするんだね。怒ったりしなかったから、知らなかったよ。

…… 私といる時も、そんな感情を持ったりしましたか? めんどくさい女だとか、自分勝手なやつだとか。



ごめんね。 謝りたいのに、私の声は心で響くだけだった。





♦︎





3、2、1……




…… なんで、泣いてるの? 私の顔、泣いちゃうくらいにブサイクかな?

悲しいの? それは誰のせい? …… 私のせい、なのかな? ごめんね、泣かないで。私は君の笑った顔が好きなんだよ。


抱きしめたいのに、出来ない。こんな近くで泣いてる君を、私は黙って見ているだけ。…… 涙はでなくても、胸がぎゅっと苦しくなる。






♦︎






3、2、1……



「あなたは今なにを望みますか」



どこかから声がする。いつもなら、目の前に彼が現れるはずなのに。まだ、目の前は真っ暗なままだ。


「あなたは今なにを望みますか」



知らない声からの問いかけ。なにを望む? …… 望んでいいのなら。


「…… 彼に、触れたいです」


触れて、謝って。大好きだって、伝えたい。



「承知しました。では、その願いを叶える代償として。あなたの大切にしているものを一ついただきます」



…… 大切なもの?



「それでは。3、2、1…… 0。 と唱えてください」



…… この声がなんなのかも、分からないけど。




「3、2、1……」




彼に。触れることが出来るなら。






……… 0。






♦︎






お見舞いの果物が床に散らばる。驚いてる、今から泣きますって顔してる。だから私は、少し笑って見せた。



落とした果物なんて気にもせず、私のことを抱きしめる。泣きながら、声にならない声をあげている。 ああ、人の温もりがとても久しぶりに感じる。ずいぶん長い間、眠っていたのかな。あったかくて、どこか懐かしい。




「…… あの。苦しい」

「あ! ご、ごめん!」



慌てて私から離れる。動揺しながらも、私のほうを見て安心したような顔をする。



「………… あの」

「あ、先生呼んでこようか?」

「いえ、そうじゃなくて」







きっと、知ってる人なんだろうけど。





「あなたは、誰ですか?」




私は君が、誰か分からない。











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