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ファイエルベルクの祈祷師《2》  作者: 小野田リス
20/20

終章1/2 〜暗転

ゆるりと日が暮れ始め、屋台の灯す明かりが目立ち始める頃になっても、祈祷師協会のホールでは、ハナとローレルを囲んだ人だかりが引くことがなかった。


二人がようやく結婚したという噂を聞きつけた街の人たちが次々とお祝いに訪ねてくるのだ。


その祝福の輪から少し離れたところにあるテーブルでは、サクとクリス、サイラス、そして司祭長ミゲルがお茶を飲みながら休んでいた。


ふぅと一息ついたミゲルが、いつもの愉しげな声で訊ねた。


「ところで、サク……また今度、改めてローレルのプロポーズ大作戦の話を聞かせてくれるかね?」


ハナを通じて、フェリスから『昨日サクにフラれてしまったから、今日の結婚の儀式は結構です』という断わりの手紙を渡された。しかし後に、一緒にいたグロースフェルト卿から『予定通り、結婚の儀式をお願いすることになるだろう』と、その事情について大筋の話を聞きながら、教会本部にやってきたのだ。


「ローレルとハナは無事にまとまったけど……そういえば、フラれちゃったんだねぇ、フェリス。かわいそうに。」


ミゲルはふと思いついたように声色を変え、意味ありげに二人の青年を交互に見やる。


サクは驚いたように眉を上げ、クリスは機嫌悪そうに眉根を寄せた。


「おまえ、どんな言葉でフェリスを『フッた』んだよ。」


「いや、フッたとかフラれたとか、そういうことじゃなくて……ちゃんと話はついたんだ。だから君に協力するつもりで僕は……」


「二人の間で話がついても、俺の状況はあまり変わらん。」


ミゲルは二人のやり取りを見て、ますます愉快そうに口の両端を上げた。


「なんだか面白いことになってるねぇ。つまりアレかね?本人フェリスの気持ちはさておき、まずは親から片付けてしまおうと……。」


「二人が結婚すれば、例の”6人の立会人”うんぬんで結婚を急ぐ必要もなくなるし……フェリスは自分のこれからのことをじっくり考えれば良いということか……」


サイラスは、納得したように顎をさすりながら口の中でさらに呟いた。


「ま、かといって、おまえの思うようにはうまくはいかんだろうがね。」


ランチェスタに戻る時、フェリスはピエル=プリエール家の娘としての身分を回復する。それはすなわち、敵国の令嬢となるということだ。


「俺も楽観はしてませんよ。まずは、いつ戦になるとも分からないランチェスタとデーネルラントの関係を、これから俺とシルヴィで変える。」


「おお、それは頼もしいねぇ!」


強い決意を口にするクリスに、司祭長は嬉しそうに笑顔を弾かせた。そして、ふと思いついたように首を傾げた。


「国の関係を改善するという君の強い気持ちはわかったけど……君、ランチェスタから戻ったらフェリスをどうするつもりなの?うちも人手不足だから、そうやすやすと他所よその国にはお嫁に出したくないんだけどなぁ。」


司祭長の言葉に、クリスは思案気に伏せていた顔を驚いたように上げた。


「……それは俺が決めることではありません!」



………。



テーブルを囲む4人の男の間に、長い沈黙が流れる。


サクが最初に切り出した。


「……あの、決めることではないって……。」


我に返ったように、サイラスも続ける。


「おい、おまえ……だったら何でここに来たんだ?私は、おまえはすぐにでもフェリスを妻として迎えるつもりなのだと……」


「おじ上……俺は、そこまで夢想家ではありませんよ。現実的に考えて、それは無理でしょう?」


「じゃあ君、ほんと何のために来たの?!あんな”首輪”まで付けさせて、何が目的?!」


怒ったようにクリスの胸元をつかもうとしたサクの手を、司祭長がさっと引き止めた。


「こんなところで騒ぎを起こしてはいけないよ、サク。落ち着いて辺境伯の話を聞こうじゃないか……ねえ君、私は、そのつもりがあって君はフェリスに近づいているものだと思っていたのだが……違ったのかね?」


クリスは、頬を赤らめながらも改まった態度で話し始めた。


「俺は……、そんないっぺんにいろんなことができる人間じゃありません。まずは、ランチェスタとデーネルラントの関係を、これまでと違ったものにしたい。そうそう戦の起こらない仕組みを考えなくてはなりません。そのためにランチェスタへ行って、呪術師がどのように枢軸に関わっているのかを見極めたい。」


「ふむ……呪術師に関しては、我々ホーエンベルク神殿もその責任を果たすべく多くの祈祷師を送り、呪詛やその力を封じるための研究も行っている。フェリスもそのために向かわせるんだけど……で?」


ミゲルに促され、クリスは言葉を続ける。


「それで、フェリスのことですが……俺は、まずは自分の気持ちを伝えたい。」


「うん、言わなきゃ分かんないみたいだしね、あの子。」


昨日の、森の道での話をサクは思い出していた。手紙で仄めかしても、ペンダントをあげても、クリスの気持ちにはいまいちピンと来ていないようだ。


「それで、おまえは……その後、どうするつもりだったんだ?」


もどかしそうに訊ねる”おじ”に、クリスは困ったような眼差しを向ける。


「……別に、何も。」


「何もって、どういう意味?」


不穏な表情でサクが畳み掛ける。


「俺には気持ちを伝える以上のことは何もできないって意味だ。」


「……司祭長様、やっぱり殴っていいですか?」


「うん、いいよってすごく言いたいけど……私は聖職者だからねぇ。残念だけど暴力反対。」


「じゃあ私がウーフェル荘に戻ってから君の代わりに殴っておこう。」


物騒な3人の反応に、クリスはますます悩ましげな顔になる。


「俺はデーネルラントの西の国境を守る辺境伯だ。俺には優先順位というものもあるし、隣国との関係改善をしたところで、その国の公爵令嬢を妻に迎えることがどれほど難しいことか解っている。」


敵国デーネルラントの妻になるフェリスがどれほど辛い立場になるのか……人質として敵国ランチェスタで過ごしたクリスには容易に想像がつくことだ。


「ずっと俺が守っていられればいい。だが、いつも一緒にいることなど不可能なことだ。フェリスは俺がそばにいない間、隠れた敵意と一人で戦わなければならない。」


矛盾だらけなのだ。幼い頃に夢見たようにフェリスと家族になれば、幸せにしたいと願っているはずの彼女を、苦しい立場に追い込むことになる。


かといって、ファイエルベルクの祈祷師として妻に迎えたところで同じことだ。辺境伯の妻ともなれば、ひとたびグロースフェルト城を出ると、身分を意識しない場面などない。


クリスの話に、ある程度賛同せざるを得ない3人だった。


やがて、これまで協力してきたことが馬鹿らしく感じ、サクがふてくされたように言い放った。


「だったらさ……こんな中途半端なことしないで、さっさと諦めればよかったんじゃないの?」


その投げやりな言葉に被さるようにして、クリスは口の中で呟いた。


「だから俺は、選んでもらおうと思って……」


「「「は?」」」


一斉に不審な目を向けられ、一瞬口ごもるクリスだったが、気を取り直すように姿勢を正して再び話し始めた。


「フェリスに……こんな俺を選んでもらいたいと思っている。」


公爵令嬢としてだろうが、祈祷師としてだろうが、そんなことは構わない。フェリスが自分を、グロースフェルト辺境伯の妻となる道を選んでくれれば、あるいは添うことが叶うかもしれない……いや、絶対に選ばせてみせる。クリスは、自分に言い聞かせるようにそう呟き、腕を組んで2~3度首肯した。うん、大丈夫だ。今のところ、うまくいっている……。


「選んでもらうために、まずは俺の気持ちに気付いてもらうところから始めたい。」



………。



再び、沈黙が流れた。



「君、ほんとにそんな初歩的なところからつまずいてたのね……。」


ミゲルが不憫そうに小さく呟いた。それにかぶせるようにサイラスも言う。


「おまえ……選んでもらうって……私はもっと男気のある言葉を聞きたかった……」


「いえ、サイラス様。さすが『デーネルラントの鉄の壁』と謳われるグロースフェルト軍の指揮官です。考えることが緻密すぎて逆に関心してしまいます。」


困惑するサイラスに、半眼のサクが慰めるように声をかけた。そして、その眼を司祭姿の辺境伯に向ける。


「君さ……あのフェリスに”選んでもらう”のは大変だと思うよ。あの子、結婚に関しては君以上に現実的なところあるし。」


フェリスは、”白馬の王子”にはなびかない。なびくのは、ホーエンドルフ在住で薬の知識のある男だ。


「分かってる。でも、俺にはその道しかないから。」


そのために、やれることから一つずつやる。


「そんなのんびり気長なことやってて、鷹のような素早い男にさらわれてしまったらどーすんのさ?」


半目のまま呆れたように問いかけるサクに、クリスはアメジストの瞳に小さな光を宿し、口の端を持ち上げて答えた。


「どんな鷹だって容易に近づけやしないさ。あそこにいる親代わりの新婚夫婦の目があるし、未来の兄嫁は狙いを外さない弓使いだ。フェリスを囲ってる壁は高くて分厚くて固いんだ。」


実経験を踏まえた、的確な意見だった。彼らは、自分にとっても大きな壁だ。逆説的に、彼らを手段としても使えるのだ。


「……んーと、君って後ろ向きなのか前向きなのか、よう分からんお人だねぇ。」


代表してミゲルが感想を述べる。


「ま、ランチェスタではせいぜいしっかり護衛を頼むよ、クリス司祭。いろんな意味で、君にとって良いチャンスになれば良いが。」


ぽんぽんとクリスの肩を軽く叩き、ミゲルは『よいしょ』と立ち上がってあたりを見渡した。


「私はフェリスに少し話しがあったんだ。辺境伯に司祭教育しているうちに思い出したんだけど、フェリスだってランチェスタでは公爵令嬢だ。貴族の娘っぽく振る舞う練習をしておくようにって言おうと思ってたんだが……どこ行っちゃったかな。」


クリスやサクも、ミゲルと同じようにあたりを見回す。ローレルたちのところには、笑顔で二人を見上げるラドルは見えるが……フェリスの姿はない。



その時。



「司祭長!司祭長はこちらにおられますか!!」


ファイエルベルク自警団のペテルが頬を上気させて入ってきた。大急ぎで探し回っていたようだ。


「私はここにいるよ、ペテル。どうかしたのかね?」


「司祭長、申し訳ございません!ランチェスタへ送還中に、拘留者が消えてしまいました!」



***



その頃……


「ウルケ、こんなことをしてしまっては、ますますあなたの立場が悪くなるのではないかしら?」


フェリスは今、ウルケと共に夕闇の迫る森の中を急ぎ足で歩いている。


「私にはもう、これ以上悪くなることなどありません。わがあるじのためにできることは、この命を捧げることくらいですから。」


どういう方法かは分からないが、このランチェスタの隠密はファイエルベルク自警団の拘束から逃れ、再びホーエンドルフに現れた。


ローレルとハナの結婚の儀式を終えた後、祝福のため集まる大勢の街の人々に紛れてフェリスに近づいてきたのだ。


「あなたのその呪毒は……どなたにいただいたの?」


オリーブ色のマントと羽織り、頭巾を目深に被って顔を隠したウルケは、それに答えることなくさらに歩速を早めた。


拘束された時に、身につけていたものは全て調べられ、危険な物は取り上げられているはずだ。なのにウルケは短刀を忍ばせていただけではなく、呪詛の毒が入った小瓶を手にフェリスを脅した……街の人に危害を加えたくなくば、黙って自分についてくるようにと。


その呪毒が本物かどうか確認する術もなく、かといって誰かを巻き込むわけにもいかず、フェリスは言われるがままウルケに従った。ただでさえ人出の多い祭の夜だ。万が一、本当に呪詛を使われてしまっては、どれほど多くの人が犠牲となるだろう。


街を抜け、人気のない森の中に入り、フェリスはようやく人心地がついた。周りには誰もおらず、ここで呪詛を使われたとしても、かかるのはウルケと自分だけだ。


黙ったまま急ぎ足で少し前を行くウルケに、フェリスは食い下がる。


「呪詛は、人が簡単に扱ってはいけないものなのよ。そんな危険な物を託すような人のために、あなたは自分の命を捧げるというの?」


「これが私の仕事です。……少し静かにしてもらえませんか。」


女隠密は、腰元の短刀に手をやり、チラつかせるようにさやから『カシャン』と一度抜き差しした。


「私は丸腰ではありません。いざとなれば、あなたを殺して逃げることもできます。」


「じゃあ今、どこへ向かっているのかを教えて。こうして脅して連れてきたのだもの、最初からわたくしを殺すのが目的ではないのでしょう?」


答えを待ちながらやっとの思いでウルケについて歩いていたが、やがて木々の間から、傾いた陽を受けて水面を光らせている湖が見え始めた。


森を抜けたところは湖畔沿いの道となっており、立ち止まったところから少し離れたところに1台の黒塗りの箱馬車が停まっていた。


「私の仕事はここまでです。」


湖を背に振り返ったウルケの瞳に、赤い光が滲んだ。すると、みるみるうちに、別人の顔……グロースフェルトで遭遇した”白い外套の呪術師”の顔へと変化した。月明かりを受けて赤い虹彩をきらめかせたその顔は、不敵な笑みを口元に浮かべ……幻のように消えた。


そこには、再び元の知的な面立ちの女性の顔があった。


「ウルケ……まさかあなた、呪詛フルーフをかけられて……」



ザン!



空を裂く鋭い音が耳元を掠めたかと思うと、目の前のウルケの脇腹に一本の矢が突き刺さっていた。


その矢の勢いに押されるようにして、ウルケは激しい水音と共に背中から湖面へと倒れる……。


「ウルケ!」


倒れるその人を抱き止めようと、弾かれたように走り出し手を伸ばしたフェリスは、思わぬ力で後ろから羽交い締めにされた。仕立ての良さそうな黒いフロックコートに揃えのズボンを履いており、見るからに上流階級の人間だ。フェリスが見たこともない紳士だった。


「あの者は、もう助かりません。」


「なんて酷いことを……。」


膝から崩れ落ちそうになっているフェリスを抱きかかえて、その見知らぬ紳士は黒塗りの馬車へと歩き始めた。


このままでは、意識のないウルケは湖の底に沈んでしまう……


「離してください!わたくしがウルケを助けます!」


そう言うやいなや、フェリスはガッと紳士の首に両手を回して頭を胸に抱え込み、グイッと膝を曲げて鳩尾みぞおちに勢いよく食い込ませる。


「ウ……ッ」


紳士が唸りながら身を崩した隙に、拘束を逃れたフェリスはウルケの落ちた湖のほとりへと走った。


ウルケはまだ湖面に浮いている。


フェリスは濃紺色の外套を脱ぎ捨て、煉瓦色のスカートをたくし上げて湖の中へと入った。


しばらくは浅瀬が続いても、突然深くなる場所がある。ハナから気をつけるようにしょっちゅう聞かされていた。


深みに沈んでしまう前に引き上げなくては……


腰までの深さのところで、ようやくウルケのマントを捉えた。そのまま引き寄せ、脇の下から腕を入れて水際へと引き戻す。


持ち前の怪力は、ウルケの上半身を岸辺に引き上げたところで尽き果ててしまった。


矢は、脇腹に刺さったままだ。しかし、ここで急に抜いてしまってはいけない。急激な失血により、より一層命を落とす危険性が高くなるのだ。それもハナに聞かされている。まずは、ウルケに掛けられた呪詛を解呪しなくては……


フェリスは、息を切らしながら六芒星のネックレスを握りしめて祈った。


白い肌がより一層白くなり、光を放ち始める……


「ふ……うぅ……」


腹を貫かれた怪我人が、わずかにうめいた。



その時。



「茶番はここまでですよ、フェリシア様。」


いつの間にかフェリスの背後に、黒い服の紳士が立っていた。


「時間がありません。ご容赦を……」


そう言って後ろからフェリスの口元に布のようなものが当てられた。


また、この匂い……


布から直接鼻を刺激するのは、グロースフェルトの中庭や、ホーエンベルク神殿でも感じた、眉間に沁みるような刺激臭……


フェリスは、ウルケの胸にもたれかかるようにして倒れ、そのまま意識を失ってしまった。



***



「見つかったか?!」


ハナと二人で広場東側の街区を捜索していたローレルが、協会本部の前で再びクリスと合流し尋ねた。


「いえ……シルヴィと手分けして西側の街区の通りを回ったが……ウルケの姿も、フェリスも、見つけられなかった。」


リヴァージュ荘にてウルケ逃亡の知らせを受け、シルヴィは祈祷師協会へ駆けつけた。彼はそこで初めてフェリスの行方が分からなくなっていることも聞かされた。


本部の前で彼らが戻るのを待っていたダンとラドルが、心配そうに彼らを見やる。


「自警団のみんなは、すでにホーエンドルフの外に出て、森の中を探っているようだ。」


ダンは、不安な様子のラドルの肩を抱えたまま、つい先ほど耳にした情報を彼らに伝えた。


ローレルは心得たように小さく頷き、『俺たちも行こう』と自警団に合流することを提案した。


「私は一度、家に戻って服を着替えます。その後……すでに自警団が捜索済みだとは思いますが、念のためランチェスタへ繋がる街道をもう一度調べてみようと思います。」


ハナは、張り詰めたような声でそう告げると、踵を返して走り出した。


「お待ちになってください!」


高らかに響く声でそう引き止めたのは、パラサティナ=ピエル=バートル公爵令嬢だった。すぐ後ろには侍従ジャンを従えている。


「パル!家にいるようにと言っただろう!」


眉間にしわを寄せて婚約者シルヴィがいさめた……が、彼女の後ろで控えていたジャンが手にしているものが目に入り、息を飲んだ。


同じように、気づいたハナとローレル、そしてクリスも体を強張らせる。


「それ……フェリスの外套……?」


ラドルが声を震わせて尋ねると、パルが肯定するように目を伏せた。


「湖のそばに落ちていました。」


再び開いた瞳は、妖精とは程遠い、戦士のように鋭く厳しい光を宿していた。


「そこにウルケも倒れていました。矢が刺さった状態で……。」


「……なんだと!」


いつの間にか大扉の前に立っていた司祭長ミゲルが思わずといったふうに声を上げた。ミゲルのすぐ後ろでは、同じようにパルの言葉を耳にしたサクが目を見開いたまま立ち尽くしている。


「ウルケは、どうなったの?」


ラドルが不安げな眼差しでパラサティナとジャンを見た。


「生きています……ただ、非常に危険な状態です。意識が戻れば詳しい話を聞くことができるんですが……。」


パルの代わりにそう答えたジャンは、自警団から聞いた現場の状況を皆に伝えた。


人気のない湖のほとりで倒れていたウルケは、辛うじて息があったが意識はない状態で発見された。その傍に、この外套が置き去りにされていた。近くの側道にわだちが残っていたので、おそらくフェリスはそこから何者かによって馬車で連れ去られたのだろう……。


「油断したな……他にもランチェスタの隠密が潜んでおったか。」


皆、一様に押し黙る中、ミゲルは瞳を伏せ、しばらくその状態で動かずにいた。


そして、ふと表情を緩める。


「大丈夫、フェリスは生きておるよ。」


その言葉とともに、訊ねるようにパラサティナへと目をやると、彼女も同意するようにしっかりと首肯した。


「ええ、フェリシアは生きています。」


そして、夕闇のためほとんど黒い巨塊と化しているホーエンベルク山を見上げ、ひとたび祈るように頭を伏せた後、その場にいた皆に向かって、よく通る声で宣告するように言った。


「すぐにちましょう。フェリシアはランチェスタに向かっています!」




〜第二章 Fin〜


   第三章へ続く〜

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